主張の如何に関わらず、政治、思想、差別等に関する記事を一切取り扱わないスタンスであるという、PCを持ち込んだ姿勢を見せておきながら、幾ら頂戴したのか存ぜぬが、政権与党の巨大なバナーを媒体のトップページに、記事の其処彼処にCM動画を貼付けるというダブルスタンダードを敷いた媒体なぞ、決して信用してはならない。そもそもニュースメディアを名乗っておきながら、現政権に阿諛追従し、権力機構の監視を怠ること自体あってはならないし、ましてやそれを放棄するなど報道機関として自死を選んだに等しく、著しく公平性を欠いた広告掲載基準を設定している時点で膺懲されてしかるべきである。PCを装うことで権力機構に阿る斯様な媒体は、実際のところはイデオロギー装置としての役割を果たすしかないのだ。
その一方で筆者は、「道徳的な作品とか不道徳な作品とかいうようなものは存在しない。作品は巧みに書かれているか、巧みに書かれていないかだ。それだけのことである。」というオスカー・ワイルドの謂いを強力に支持する(『ドリアン・グレイの画像』序文より 訳西村幸次 岩波書店) 。
***
米Appleの開発者カンファレンス「WWDC 2016」において、App Storeで販売されている優れたアプリを表彰する「Apple Design Award(ADA)」が発表された。前身の「Human Interface Design Excellence Awards」から数えて21年目となる同アワードでは、学生部門とあわせ、計12タイトルが栄誉に輝いた。
受賞式が行われたのは、基調講演と同じくサンフランシスコのBill Graham Civic Auditorium。今年はApp Storeの新たなマイルストーンであるということが告げられ、8年前のApp Storeの登場、その2年後のiPad発表によるアプリのユニバーサル化、年を追うごとにアプリも変化していったことが語られた。App Storeの開設当初はゲームや、写真を簡単にシェアできるシンプルなアプリが人気を博したが、その後は、アプリ上で制作してアウトプットまでできるツールや、さらに最近ではiOSデバイスとアプリを組み合わせることで、物事のやり方が大きく変容するようなものが増えている。また、iPad ProとApple Pencil、第四世代のApple TVが登場したことで、それらに最適化され、今までにない新たな体験を提供するアプリの出現も目立っている。
アワードは、デザイン性、ユーザビリティ、革新性、そして最新のテクノロジーを採用したアプリが選出の対象となる。これらの条件を満たしていないと選考の対象にはならないということだが、言い換えると、受賞したアプリは4つの項目全てにおいて秀でているということになる。
まずは学生部門からの発表。これには「Linum」「Dividr」の2本がピックアップされた。「Linum」はメキシコ在住のJoaquin Vilaくんが開発した、ノードを繋いでいくシンプルなパズルゲーム。洗練されたユーザーインターフェースに、CoreData、StoreKit、ReplayKit、GameCenterといったテクノロジーを採用した点が高く評価された。「Dividr」は、プログラマーのJosh Deichmanくん、デザイナーのPatrick Pistorくん、サウンドデザイナーのErik Lydickくんという3人組の手によるゲームアプリ。障害物を避けてボールを進めていくというものだが、その推進に3D Touchを利用している。全てをSwiftで書き上げたというところもポイントが高かったようだ。
続いて、以下の10本のアプリが表彰された(発表順、括弧内はデベロッパー名)。
- Frame.io - Video Review and Collaboration(Frame.io)
- Chameleon Run(Noodlecake Studios Inc.)
- Auxy Music Creation(Auxy)
- Streaks(Zervaas Enterprises)
- Lara Croft GO(Square Enix Inc.)
- Complete Anatomy(3D4Medical)
- INKS.(State of Play Games)
- Zova - Personal Trainer(ZOVA)
- Ulysses(The Soulmen GbR)
- djay Pro(algoriddim GmbH)
Frame.ioは、映像を利用して、チームが効率的に作業することができるプラットフォーム。Dynamic Typeや、3D Touchでのクイックアクション、Peek & Popに対応している。印象的なモーションエフェクトや完全にSwiftで仕上げたところなどを評価された。
Chameleon Runは、疾走系アクションゲーム。テンポの良いグラフィックス、美麗なビジュアルがApple TVとSiri Remoteの組み合わせにマッチする。高速なレスポンス、サウンドトラックも魅力的だ。8カ国語に対応している。
App Storeのレビューで4,000以上の5つ星を獲得したAuxy Music Creationは、音楽制作アプリ。音楽制作に集中できるよう、無駄なデザイン要素を省いていながら、直感的で分かりやすいユーザーインターフェースを備える。
Streaksは、オーストラリア発のタスク/スケジュール管理アプリ。新しい習慣づけの組み立てにピッタリなアプリで、Apple Watch向けの通知、コンプリケーション、ハプティクスの充実が受賞のキーとなった。
Lara Croft GOは、ターンベースのパズルアドベンチャーゲーム。描画エンジン「Metal」のポテンシャルを引き出し、美しいキャラクター、世界観を演出している。Game CenterとiCloudでの同期機能も高く買われた。
昨年のiPad Proデビュー時のデモでも紹介されたComplete Anatomyは、3Dの人体模型アプリ。ワールドクラスの教育アプリとして誉れ高い。2K/4Kの高解像度に対応している。今年の夏にはMac用に移植される模様である。
INKS.は、懐かしのピンボールをiOSアプリとして再現したもの。開発チームはiPad ProとApple Pencilを使ってコンセプトを練り上げていったとのこと。レトロなサウンドもゲームの「それらしさ」を演出するのに一役買っている。
フィットネスコンテンツであるZova - Personal Trainerは、Apple TVに最適化されている。高解像度のビデオストリーミングに、エクササイズを行うのに充分配慮されたユーザーインターフェースを特徴とする。Siri remoteやApple Watchとの相性の良さも評価のポイントとなったようだ。
Ulyssesは、ITジャーナリストの松村太郎も愛用しているシンプルなMarkdownエディター。非破壊型のテキストライティングおよび編集に最適化が図られている。Macで書いていた原稿をiPadに引き継ぐHandoff機能対応など、ユーザーが選択したデバイス上で一貫した動作をするようになっているところがノミネートの理由にもなっている。
2011年もADAを受賞しているdjay Proは、DJプレイをiOSデバイスとMacで楽しめるアプリ。アップルの最新テクノロジーの利用、マルチデバイスのサポート、そしてアクセシビリティの機能が受賞の決め手となった。
受賞したタイトルをざっと見ると、前述の4項目をおさえたものばかりだという感触だが、特に最新のテクノロジーを採用したアプリの躍進が目立つ。例えば、iOSアプリの多くは3D Touchに対応しているし、ゲーム系はMetalの実力を遺憾なく発揮したタイトルが受賞している。また、開発にSwiftを使用しているデベロッパーが高く評価されるという印象を受けた。
栄えあるADAに輝いたデベロッパーには、キューブ型のトロフィーが授与された。必ずしも英語圏のデベロッパーが有利というわけではなく、メキシコ、ドイツ、スウェーデンなどなど、国際色豊かなのも、このアワードの「らしさ」を物語っている。