ソニーのFeliCa技術が香港の交通/物販システムで利用されていることは広く知られているが、同国で八達通(Octopus)システムを運用しているOctopus Cards Limited (OCL)は現在、通常のOctopusカードに加え、日本のおサイフケータイのようなモバイルアプリに同システムを導入するパイロットプログラムを開始している。現在フランスのパリで開催されているCartes 2013において、このデモストレーションと解説を聞く機会があったので紹介したい。

ソニーXperiaでFeliCaエミュレーションを実演

モバイル対応を進めるFeliCa技術ベースの「八達通(Octopus)」

FeliCaを使った非接触決済/交通カードシステムは1997年に香港で「八達通(Octopus)」として世界で初めて運用が開始され、後に日本へと展開が始まり、現在この2カ国がFeliCa技術が最も利用されている国となっている。スタートとしては後発の日本だが、モバイル端末への機能導入は早く、2004年には「おサイフケータイ」の名称でサービスが開始されている。一方で香港ではいまだICカードでの運用が続いており、モバイルへのサービス導入は行われていなかった。だが今年10月10日になりFeliCa技術をNFC SIMに導入することで、通常のNFC対応スマートフォンであればOctopusのサービスが利用できるようになる試験プログラム開始が発表され、ようやく次の段階へと進みつつある。

デモの解説。10月10日より開始されたOctopus Mobile Payment Systemの概要を図示

だがFeliCaサービスは処理能力の問題から専用チップを要求し、NFCで一般的なUSIM上にアプリを書き込む方式の端末を利用できない。そのため、NFC対応であっても「グローバル端末」と呼ばれるモバイル端末はそのままでは日本のおサイフケータイのようなサービスは利用できない点が問題となっていた。ゆえにSamsungのようなグローバルメーカーであっても、日本に持ち込む端末は別途おサイフケータイに対応したものを用意しているため、海外版のNFC端末とは互換性がない。同様の問題はOctopusでも発生し、香港におけるOctopusのモバイル対応の障害の1つになっていたと思われる。

用意された小型POSでFeliCaの決済トランザクションを走らせる。端末の写真がブレているが、それくらい一瞬でタッチと処理が完了できることをアピールしている

10月に発表された試験プログラムでは、いわゆるグローバルモデルと呼ばれるFeliCaチップを搭載しないXperia端末6機種に対し、Octopusアプリを導入したNFC SIMを提供することで、モバイル端末でOctopusサービスを利用可能にする。現在Octopusは香港の各交通機関のほか、商店での物販や企業の出退勤管理のアクセスコントロールなどに広く利用されているが、これらすべてに対応可能とのことだ。ただしOCLによれば、現在はまだ試験運用の段階であり、5000名に配布してのベータテスト状態にあるという。さらに対応キャリアはPCCWのみであり、今後他のキャリアや顧客への拡大にはまだしばらく時間がかかりそうだ。

Gemaltoが提供するUSIMにFeliCaアプリを搭載してエミュレーション動作させる。SWP/HCIなど、ハードウェア側の仕組みは標準技術をサポート

ただし、暗号処理などすべてのUSIMアプレットとしてソフトウェア処理していては動作が遅くなるため、処理の一部をさらに深い階層へと落とし、処理速度を稼いでいるという。こうした仕組みもGlobalPlatform 2.2標準に対応しており、特殊なハードウェア等は要求されないとのこと

USIM上でのFeliCaエミュレーションの意味

前述のように、FeliCa技術をベースにしたサービスで専用のFeliCaチップが要求される最大の原因は処理速度にある。こうしたセキュリティチップは「セキュアエレメント(SE)」と呼ばれるが、現在世界の携帯キャリアらによって推進されているSE搭載の主流方式は「SIM方式」となっている。これはUSIMカードと呼ばれる比較的大容量のSIMカードにアプレット(アプリ)という形でセキュア・アプリを書き込むことで、専用チップのハードウェアSEと同様にソフトウェアでアプリを動作させるものだ。Type A/B技術をベースとしたセキュア・アプリでは問題ないものの、FeliCaではインターフェイスや要求されるスペックが異なるため、仮にUSIM上でFeliCaアプリをエミュレーションしようとしても動作が遅くなり、サービスによっては要求水準を満たせなくなる。そのため、現在NFC (Type A/B)とFeliCaへの両対応をうたった日本のモバイル端末はすべて、USIM方式をサポートするとともにFeliCaチップも別途搭載し、適時NFCアンテナからの通信を切り替えることで対応している。