前触れもなく、オンラインのApple Storeで販売が開始された「iPad mini Retinaディスプレイモデル」。高精細液晶を指向するiPadファン待望の本製品を早速入手、試用した結果を報告してみよう。

Retinaディスプレイモデル登場の背景

ひと回り小さいiPad miniは多くの消費者に歓迎され、2013年第1四半期にはiPad全モデルの出荷台数のうち半数を超える勢いとなった。ただ液晶が小さくなっただけ、デザイン的な面白みに欠ける、とのネガティブな意見をはねのけての成功だといえる。

しかし、高精細画面への強いニーズが存在したことも確かだ。フルサイズのiPad(第3世代以降)で採用されたRetinaディスプレイは、iPadにフォトストレージ的役割を期待するユーザを魅了しただけでなく、Webやメールなどありふれた作業にiPadを使うユーザの心も捉えた。iPad miniの画素密度(ppi)は163と、初代/第2世代iPadの132ppiと比較すれば高精細だが、Retinaディスプレイ搭載のiPad(264ppi)には劣る。

そこに発表された「iPad mini Retinaディスプレイモデル」は、iPad miniのサイズに高精細画面を欲するユーザにとって、まさに待望の製品といえる。20gほど重量が増加しているものの、ボディサイズは初代iPad miniとほぼ変わらず、64bit CPU「Apple A7」を搭載するなど最新のスペックを備えている。

「初代iPad mini(左)とiPad mini Retinaディスプレイモデル(右)を並べたところ。0.3mm厚く約20g重いことを除けば、形状やデザインの差はほとんどない

初代iPad mini(下)とiPad mini Retinaディスプレイモデル(上)。セルラーモデルのためプラスチック製バーがあることを除けば、レンズや音量ボタンの位置までほぼ同一だ

初代iPad miniとiPad mini Retinaのスペック比較
機種 iPad mini Retina 初代iPad mini iPhone 5s(参考)
CPU A7(64bit) A5(32bit) A7(32bit)
最大動作速度 1.29GHz 1GHz 1.29GHz
コア数 2
コプロセッサ M7 なし M7
キャッシュメモリ 1次64KB/2次1MB 1次32KB/2次1MB 1次64KB/2次1MB
システムメモリ 1GB 512MB 1GB
GPU PowerVR G6430 PowerVR SGX 543MP2 PowerVR G6430
液晶サイズ 7.9 7.9 4
解像度 2048×1536 1024×768 1136×640
ppi 326 163 326
本体サイズ(mm) 200×134.7×7.5 200×134.7×7.2 123.8×58.6×7.6
重量(g)※ 331(341) 308(312) 112
※:( )内はセルラーモデルの重量

写真の「実在感」が違う!

iPad mini Retinaディスプレイモデルを初めて手にしたとき、「変わらない」というフレーズが思い浮かんだ。筆者はiPad mini(32GB/ブラック&スレート/Wi-Fiモデル)を約1年前の発売日に購入、以来取材時のメモや自宅でのビデオ観賞に活用しており手に馴染んでいるが、それを持ち替えてみても違和感はほとんどない。若干の重量増とボディカラーの違いはあるものの、ホーム画面を表示してしまえば違いらしい違いはないと言っていい。

ただし、ディスプレイの精細感はだいぶ異なる。ホーム画面ではあまり気にならないが(当然よく見るとアプリ名やアイコンのグラデーションは違う)、Webページやメールの画面を見れば、否応なくフォントの滑らかさに気付かされるからだ。iPhone 3GからiPhone 4、iPad 2から第3世代iPadのときのような飛躍的な変化は感じない -- 初代iPad miniの画素密度は163ppiと若干高めだったことが影響しているのだろう -- ものの、電子ブックなど文字主体のコンテンツの印象は確実に変わる。

より印象が変わるのは「写真」だ。Camera Connection Kit経由で取り込んだRAW画像を表示したところ、iPad miniではのっぺりしていた岩肌が、Retinaディスプレイモデルでは荒々しい凹凸をはっきり確認できる。精細感が増すと写真に奥行きがくわわり、被写体との距離も実感できる。自分が撮影した風景写真を見比べると、Retinaディスプレイモデルのほうがより記憶に近いイメージを見せてくれる。

マクロ撮影した写真は、被写体の実在感まで変わってみえる。初代iPad miniでは平板な印象を受ける写真も、Retinaディスプレイモデルで見ると、そこに存在しているかのような生々しさが加わるのだ。特に陶器や焼き物の光沢はリアルで、多少の粒状感が見てとれる初代iPad miniとの表現力の差は大きい。写真の表示に関しては、「変わらない」どころか「激変」と言っていいかもしれない。

初代iPad mini(左)では岩肌がのっぺりした印象だが、Retinaディスプレイモデル(右)を見れば起伏があり荒々しいことがわかる

初代iPad mini(左)と比べると、粒状感が少ないRetinaディスプレイモデル(右)の画像にはリアルな奥行きが感じられる

ベンチマークを測定すると差は歴然

操作性に関してはiOSデバイスならではの完成度で、操作レスポンスの鈍さを感じる場面、いわゆる"引っかかり"を覚える場面に遭遇する機会はなかった。それは初代iPad miniにしても同じことで、ごく一般的な使い方をするかぎりは、どちらのデバイスを利用しても処理性能に不足を感じることはないだろう。

しかし、ベンチマークを測定すると、64bit CPU「A7」を搭載するRetinaディスプレイモデルの圧勝だ。『Geekbench 3』を利用したところ、Retinaディスプレイモデルは初代iPad miniの4倍以上のスコアを記録、パフォーマンス面での圧倒的な優位性を見せつけた。参考までに同じCPU(クロック数も1.29GHzと同じ)を搭載するiPhone 5sでも測定したところ、ほぼ同じスコアとなったため、これは64bit CPU「A7」のパワーと理解してよさそうだ。

描画性能の測定には『MOBILE GPUMARK』を利用した。クオリティ設定には「High」を適用、初代iPad miniと比較したところ、こちらも平均2倍以上のパフォーマンス差を確認できた。ただし、6倍近く差が開いた項目もあり、iPad mini Retinaディスプレイモデル発表の場であった「グラフィックスパフォーマンスは最大8倍高速」というコメントは、あながちオーバーとはいえない。

現在のところ、そのパフォーマンスをフル活用しなければならないシチュエーションは見当たらないが、いずれゲーム系アプリを中心に増加することが予想される。当たり前の使い方では気付きにくいが、iPad mini Retinaディスプレイモデルの高い処理性能は、"長く使える"という意味での安心材料にもなることだろう。

システム情報を収集するアプリ『System Status』でiPad mini Retinaディスプレイモデルのシステム情報を表示したところ

『Geekbench 3』でデバイス情報を表示したところ。A7の最大クロックは1.29GHzと読み取れる

GPUの3D描画性能を測定するベンチマークアプリ『MOBILE GPUMARK』

Geekbench 3.1.2の結果
iPad mini Retina iPad mini iPhone 5s
マルチコア シングルコア マルチコア シングルコア マルチコア シングルコア
Integer 2834 1455 672 346 2857 1457
Floating 2630 1333 445 227 2655 1337
Memory 1665 1392 254 172 1692 1418
TOTAL 2518 1393 497 263 2543 1401
MOBILE GPUMARK 2.0(Quality:High)
iPad mini Retina iPad mini
Fill Test 1048 548
High Polygon Model 351 68
Many Models 261 123
Per Vertex Lighting 1039 630
Per Vertex Lighting & Specular 1010 554
Per Pixel Lighting & Specular 1070 303
Per Pixel Lighting & Specular & Normal Map 942 259
YEBIS Resolution 420x234 362 261
YEBIS Resolution 800x450 321 141
YEBIS Resolution 1280x720 238 66
TOTAL 6642 2953