10月7日に電気通信事業者協会(TCA)が2013年9月末日時点での携帯電話・PHSの契約数をとりまとめて発表した。9月20日にアップルのiPhone 5s/5c(以下、新型iPhone)が主要3キャリアから発売されたことで、どのような数字が出るかに注目が集まったが、新規契約から解約を差し引いた数では、ソフトバンクが27万700件、KDDI(au)が23万2700件の純増となったのに対し、NTTドコモは6万6800件の純減となり、"一人負け"という結果になった。

また、モバイルナンバーポータビリティ(MNP)による転入出数では、KDDIが11万800件、ソフトバンクが2万2700件の転入超過、ドコモは13万3100件の転出超過となった。これにより、MNP純増数でKDDIは24カ月連続の首位となった。また、新型iPhoneを販売してもなお、ドコモのMNPによるユーザー流出に歯止めがかからないことが明らかになった。本稿では、各社のMNPにおける数字に着目し、その要因を探っていきたい。

携帯3社が9月20日より販売を開始したiPhone 5s(左)とiPhone 5c

9月20日に発売となった新型iPhoneは、これまでiPhoneを取り扱ってきたKDDI、ソフトバンクに加えてドコモが初めて参入し、主要3キャリアから販売されることになった。iPhoneという同一の端末を3社が取り扱うようになり、各社による競争の焦点は、端末からネットワークへとシフトし、キャリアの真価が問われることとなった。

今回、各社が発表し、TCAがとりまとめた9月度の携帯電話・PHS契約数は、新型iPhone発売後に発表される初めての数字となるが、中でも注目すべきはMNPによる転入出数だ。ドコモは、かつてドコモを利用していた他社ユーザーをMNPで優遇して迎え入れる「ドコモへおかえり割」などを実施。また、KDDIは「auにかえる割」、ソフトバンクは「バンバンのりかえ割」を実施するなど、各社ともにMNPによる乗り換えを対象にしたキャンペーンに力を入れており、契約者数の動向を見る上でカギとなるのがMNPの数字だ。

各社のMNPによる転入出数をあらためて見てみると、他社からの転入がもっとも多かったのはKDDIで11万800件の転入超過、次いでソフトバンクが2万2700件の転入超過となった。一方、ドコモは他社へのユーザー流出が続いており、9月度は13万3100件の転出超過となった。

KDDIは24カ月連続でMNP純増数が首位となり、同時に新型iPhoneの販売競争の緒戦でも勝利したと見ることができる。KDDIがユーザーから支持された要因としては、他社に先行して整備を進めている「プラチナLTE」が挙げられる。これは、新型iPhoneが対応する800MHz帯のLTEのことで、回り込みやすく、つながりやすいのが特徴。このプラチナLTEのアピールがユーザーに浸透したことが、MNPでの勝利につながったと言えるだろう。

一方、ソフトバンクは、ドコモからの転出ユーザーをKDDIと分け合うことになったが、転入超過数ではKDDIに大きく差を開けられた。「BCNランキング」などの実売ランキングでは、ソフトバンク版iPhone 5sが好調だが、MNPの数字を見る限り、既存のソフトバンクユーザーによる買い替えが中心となっていると考えられる。今回のソフトバンク版の新型iPhoneには、KDDIのプラチナLTEのような注目ポイントはなく、他社から転入するまでの魅力がなかった模様だ。

MNPで唯一、転出超過となったのがドコモだ。新型iPhoneの発売により逆転を狙ったドコモだったが、ユーザー流出には歯止めがかからず、全体の契約数でも6万6800件の純減となるなど、iPhone投入の効果が現れなかった。要因としては、キャリアメールである「spモードメール」が発売直後は使えず、10月1日からの利用開始となり、その後もプッシュ通知には対応していないなど、iPhoneを販売するための準備が整っていなかったことなどが考えられる。

また、2013年夏モデルでは、GALAXY S4、Xperia AというAndroidスマートフォン2機種を"ドコモのツートップ"として特別価格で売り出したものの、新型iPhoneの発売以降、同社Webサイトのトップページからは"ツートップ"の記載が消え、新型iPhoneの実質"ワントップ"状態となっている。このような急な方針転換も、どの端末を選べばよいのかとユーザーを戸惑わせる一因となっていると思われる。

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今回発表された携帯電話・PHS契約数では、MNP純増数でKDDIが24カ月連続で首位となり、一方、新型iPhoneを投入してもドコモの苦戦が続いていることが明らかになった。新型iPhone販売の緒戦ではKDDIが勝利した格好だが、同社がアピールする800MHz帯のプラチナバンドLTEがユーザーの支持を得たと見ることができる。800MHz帯LTEはドコモも利用しているが、基地局免許数ではKDDIが3.4万局、ドコモが0.2万局と大きく差が開いている(総務省発表)。また、ドコモはキャリアメールの対応でも出遅れており、これらの新型iPhoneに向けた整備の違いが、勝敗を分けたと言えるだろう。各社の新型iPhoneの売れ行きと契約者数の動向に、今後も目が離せない。