米Appleが今夏に提供を開始するといわれるiOSの新版において、「モバイルウォレット」を搭載するという予測がある。この「iOS 7」は今年6月10日より米サンフランシスコにて開催されるWWDC 2013において公開されるとみられるが、実際にウォレット機能が搭載されるのか、その場合どういった機能になるのかについて検証していく。

2人のアナリストがiPhoneへのウォレット機能搭載を予測

CNETが4月11日に報じた記事によれば、Morgan StanleyのアナリストKaty Huberty氏がiOS新版で"真"のモバイルウォレットを搭載してくると予測しているという。Huberty氏によれば「キラーアプリ」の名称が冠されており、iOS 7における目玉機能の1つとなるようだ。Apple関連の予測や投資推奨レポートで知られるPiper JaffrayのアナリストGene Munster氏もAppleが将来的にデジタルウォレット機能をサポートしてくることを予測しており、その点で両者の見解は一致している。ただしHuberty氏は間もなく登場するiOSの新バージョンでの搭載を予測しているのに対し、Munster氏はウォレット搭載まで1~2年ほどのタイムラグが存在するとしている点で異なる。

「モバイルウォレット」「デジタルウォレット」「e-Wallet」などさまざまな名称があるが、一般にモバイル業界における「ウォレット」とは、ペイメントサービスからクーポン/ロイヤリティ、身分証明書、チケット、鍵(アクセスコントロール)まで、さまざまな個人データをひとまとめにして持ち歩けるサービスの総称だ。財布(ウォレット)に「クレジットカード」「ポイントカード」「定期」が入っているのをイメージしてもらえばいいだろう。日本ではNTTドコモのサービスの商標として「おサイフケータイ」が用いられているが、これもウォレットサービスの一種だ。米国ではGoogleが「Google Wallet」の名称でサービスを提供しているほか、ISISが採用し、日本でも大日本印刷がライセンス提供しているC-SAMのウォレットがよく知られている。CNETのレポートでは2人のアナリストの予測について詳細を紹介していないため不明だが、iOSにおいてもこうしたウォレットに類似したサービスが準備されており、間もなく提供がされるのだと考えられる。

「Passbookはウォレットではないのか?」と疑問に思う方がいるかもしれないが、Passbookはウォレットではないというのが筆者の意見だ。ウォレットに関して厳密な定義はないが、PassbookそのものはiOSにインストールされた各種対応アプリのフロントエンドでしかなく、「チケットやストアカードをひとまとめに表示したもの」にすぎない。Starbucksアプリなどごく一部を除けばユーザーインターフェイスの使い勝手も必ずしも良くなく、将来的にPassbookの改良版と呼べるものをAppleが搭載してくることは容易に予想できる。

ウォレット機能に関する疑問を検証する

2人のアナリストの予測について、もう少し詳しく紹介した記事がApple Insiderに掲載されているので紹介する。まずHuberty氏の話によれば、Apple関係者の話として同社がWWDCで発表予定のiOS 7において、インターネットをベースにした新しいサービスと、前述「キラーアプリ」を提供する見込みだという。前者は「ストリーミング音楽配信サービス」だとApple Insiderでは説明しており、後者が問題の「ウォレット」アプリだという。ただし、ウォレットアプリの詳細については解説されていない。

Munster氏の話はもう少し詳しく、Appleは次期iPhone 5Sで「指紋認証」機能を搭載予定で、これが同氏のいう「ウォレット」機能と密接に結びついているという。また、このウォレット機能では「NFC (Near Field Communication)」をサポートせず、別のワイヤレス通信技術をサポートする可能性が高いとしている。その理由としてApple Insiderでは、NFCそのもののセキュリティ上の脆弱性が理由としてAppleが同技術の採用を避けていると説明している

順番に検証していくと、まずAppleがより洗練されたウォレット機能をiOSに搭載してこようと考えるのは順当であり疑問の余地はない。iOS 7がそのタイミングかはわからないが、むしろ争点は「どういった形や機能でウォレットを搭載してくるのか」という点だ。

一方でMunster氏の予測については疑問を挟む余地が多くある。まず指紋認証だが、システムデザインが大きく変更されないと予測される次期iPhone 5Sにおいて採用可能かという点、そして指紋認証は端末やアプリのロック解除には使えるものの、OSやアプリそのものの安全性を担保する技術ではなく、特にセキュリティ上の脆弱性については無力だ。そのため、クレジットカードや身分証などの個人情報を保存するウォレットアプリに必要なセキュリティ機能を実装する場合、指紋認証とは別レベルのセキュリティが要求される。それがNFC対応端末で搭載されている「セキュアエレメント(SE)」であったり、一部で実装が進みつつある「Trusted Execution Environment (TEE)」のような仕組みだ。ただし、TEEそのものはSEを代替する技術ではない点に注意が必要だ。