ただし、スリーマッチパズルとRPGを組み合わせたゲームは別に『パズドラ』が初ではなくもっと前から存在しています。代表的なのは世界中で大ヒットした『パズルクエスト』シリーズでしょう。ニンテンドーDSやPSPでも発売され、iPhoneアプリでもリリースされています。こちらも非常に面白い作品なのですが、しかしiPhoneでは『パズドラ』ほどヒットしていません。その理由はいくつか考えられますが、まず日本語化されていなかったこと、そして日本受けする絵柄ではなかったこと、最後にゲームとして本格的すぎたことでしょう。

特定の曜日やある期間限定で挑戦できる特別なダンジョンも用意されている

特に"ゲームとして本格的すぎること"は、非ゲーマーを取り込もうとする場合、諸刃の剣になります。ホームボタンを押すだけで一瞬で離脱できてしまうスマホのゲームにおいてユーザーをつなぎとめるには、ゲームを始めてから面白さをユーザーが理解するまで、"次に何をすればいいのか"を一瞬たりとも迷わせてはいけないのです。

ゲームとしても本格的だけど、本格的すぎないこと。一見矛盾するこの2つを両立させるためには、両者の境界線がどこにあるのかをシビアに見定めなければなりません。『パズドラ』がストーリーやマップといったRPGにあってしかるべき要素をすべて削り、純粋にパズルと育成に特化したのは、ゲーマーと非ゲーマーがお互いに納得できるちょうどいい境界線だったのです。

従来ソーシャルゲームにはなかった運営の巧みさ

『パズドラ』大ヒットの2番目の要素は、もう各所で散々言われていることですが、運営の巧みさでしょう。それまでのソーシャルゲームは、アプリ自体は無料でも途中からはお金を払わなければまともにゲームを楽しめないという課金前提のゲームバランスで作られたものが大半を占めていました。

「ガチャ」の要素もあるにはあるが、あの手この手で引かせようとする他のソーシャルゲームに比べるとかなり緩い

そんな中、『パズドラ』は、お金を払わなくても十分に満足できるゲームバランスで作られており、これが当時のソーシャルゲームの搾取ぶりに不満を抱いていたユーザーに刺さりました。

実際、筆者は一度もお金を払ったことがありませんが、もう1年以上細く長く楽しんでおり、むしろゲームバランスを考えると無課金の方が楽しめるのではないかと思うほどです(おそらく無課金プレーヤーに合わせてゲームバランスが設定されているので、度を越えて課金すると楽になりすぎてつまらなくなる予感がします)。

これは『パズドラ』がソーシャルゲームでありながらプレーヤー同士を競わせるランキングの要素がなく、プレーヤー同士は協力プレイで関わるのみというゲームシステムだったからこそ実現できた運営方針でしょう。この他にも、本来課金アイテムである「魔法石」を何か機会がある度に無料で配布するなど、『パズドラ』の運営方針は非常にユーザーフレンドリーです。これだけいたれりつくせりだと課金ユーザーが減るのではという懸念もありますが、しかし1,000万ダウンロードされるようなゲームであれば課金するユーザーがほんの一部でも十分な売上が見込めるというわけです。

ヒットの最大の理由はタイミングがよかったこと

『パズドラ』の優れたゲーム性や運営方針については述べた通りですが、しかしここまでヒットした最大の要因はリリースされたタイミングでしょう。2011年から2012年にかけて、スマホのゲーム業界はソーシャルゲームが席巻しており、ゲーマーの多くはこの流れに強く反発していました。また、ソーシャルゲームも似たようなカードバトルばかりになっていて、一般のソーシャルゲームユーザーが若干飽きていた時期でもありました。

そこに、従来のソーシャルゲームとは一線を画した『パズドラ』が投入されたことで、ゲーマーもソーシャルゲーマーも「これは他と違うぞ」と興味を惹かれたのです。『パズドラ』のリリースは、まさにここしかないという絶妙なタイミングでした。

『パズドラ』のヒットを受けて各社から類似のゲームが登場していますが、いずれも『パズドラ』ほどのヒットには至っていないことを考えると、いかにタイミングが重要だったかがわかります。

『パズドラ』のこれから

オフィシャルグッズを販売する「パズドラ屋」がオープンするなど、ゲーム以外にも展開を始めて絶好調の『パズドラ』ですが、リリースから1年以上経ったことで、さすがにゲームの内容がインフレしつつあります。

先日オープンしたオフィシャルグッズを販売する「パズドラ屋」

『パズドラ』の内容そのものはシンプルですから、飽きられないためには新ダンジョン、新モンスターを追加するしかありません。逆にいえばそれくらいしか変化がないので、さすがに飽きてくるユーザーも増えてきます。『モンスターハンター』ですらシリーズ各作品の賞味期限がだいたい1年程度であることを考えると、『パズドラ』は十分もっているほうではありますが、そろそろ新作が欲しいところです。その際にうまく現在のユーザーを引っ張っていけるかがガンホーの腕の見せ所となるでしょう。

家庭用ゲーム機でリリースされるという噂もありますし、2013年は『パズドラ』のさらなる新展開に期待したいですね。

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