Appleが抱える「地図問題」
現在、Appleが抱える最重要課題のひとつが「地図問題」だ。これまでAppleは、地図アプリ 「マップ」に一貫してGoogleが提供する地図データを採用してきたが、地図関連サービスを巡る思惑からか、AppleはiOS 6から独自に収集・構成した地図データに切り替えた。その結果が惨憺たるものであることは、iOS 6のリリースからほどなくして、Tim Cook CEOが異例のコメントを出した事実からも明らかだ。駅名が実際と異なる、日本固有の地名になぜか外国語の表記がある、といった具体事例はとりあえず置こう。
iOS 6がリリースされた9月19日からまもなく2カ月。iOS 6の比較的小規模なアップデータは提供されたものの、「マップ」の更新は含まれなかった。日本国内向けに提供が遅れていたいくつかのサービスのうち、建築物の3D表示は、東京・大阪など一部都市限定で開始されたが、いまなお渋滞情報の配信はない。App Storeに「地図App」のコーナーを設けサードパティー製地図アプリの利用を促すという、これもある意味異例の対応を見せているが、問題の核心である「ロケーションサービスとしての「マップ」の信頼性」の回復にはほど遠い状況だ。
この状況をどう見るか。蜜月時代を終えたGoogleは静観しているが、Appleが地図アプリを単独でエンジニアリングする方針を転換することはないはず。それだけ地図アプリは消費者のニーズが高く、スマートフォンにおける重要な構成要素だからだ。しかし、「マップ」がこの状況では、Cook CEOのコメントにあったように、他社の地図サービスへ誘導せざるをえない。挙げられたサービスのなかにNokiaの名前があったことは、Appleが意識していることの証明だろう。
Nokiaの地図・ロケーションサービス「HERE」
かつて世界の携帯電話市場を席巻したNokiaに、興味深い動きがあった。米国時間の13日に発表された地図・ロケーションサービス「HERE」は、これまで展開してきた「Maps」を拡張したもので、iOSデバイス向けにネイティブアプリの体裁で提供される。現在、AppleのApp Storeで提供すべく審査中であり、数週間以内に配信されるという。
この「HERE」アプリは無償提供される予定。主にHTML5で記述されており、徒歩向けの音声ナビゲーション、公共交通機関案内など、スマートフォン向け地図・ロケーション機能がひととおり用意される。フィンランド生まれの企業なだけに、欧州の地図データは充実している反面、ここ日本は主要幹線道路や鉄道が見える程度だ。この点では、多数の問題を抱えていながらもiOSの「マップ」のほうが格段に実用的だが、「HERE」には注目すべき要素がいくつかある。ここでは、日本でのサービスインの可能性を念頭に、その要素について解説してみよう。