WWDCの基調講演で発表されてから約100日、待望の「iOS 6」がリリースされた。間もなく販売が開始されるiPhone 5ともども、iPhone/iPadなどiOSデバイスのユーザにとっては注目の的だ。手持ちのiPhone 4/4Sを早速そのiOS 6にアップデート、あれこれ検証した結果を数回にわたりご報告したい。

iOS 6は「サクサク動く」

スマートフォンやタブレットは、PCよりも人間の感覚に近いインタフェースが求められている。だから数値で表現されるスペックよりも、自分の意識と操作による結果の間にタイムラグがあるかないか、ひらたくいえば「サクサク動く」ことが重視される。今回リリースされたiOS 6も、実機でサクサク動くのか、そこがもっとも重要なポイントだ。

iPhone 4Sに関していうかぎり、全体の操作感はiOS 5のときと大差ない印象だ。アプリを起動するときも、フリックしてホーム画面を切り替えるときも、SafariでWebページをスクロールするときも、感覚的には遅くなった気がしない。以前、iPhone 3GをiOS 4にアップデートしたとき、システム全体のレスポンス低下が体感できるほどで、壁紙を選択できないなど目に見える形での機能差も生じていたが、利用頻度の高い機能/アプリに関していうかぎり、iOS 6ではそのようなことは感じられない。ルック&フィールに目立った変更もないため、これはiOS 6だ、と言われなければ気付かないユーザのほうが多いはずだ。

このiOS 5からのシームレスな移行は、デュアルコアのApple A5を搭載したiPhone 4Sだけではなく、シングルコアのApple A4を搭載したiPhone 4でもいえる。iPhone 4Sのほうがわずかにスピーディーな印象はあるものの、iPhone 4でも快適に使える。iPhone 3GSが対応機種に含まれていることからしても、iPhone 4でもじゅうぶん実用可能だと言っていいだろう。

iOS 6にアップデートした直後の画面。作業手順はiOS 5のときとほぼ同じだ

iOS 6のホーム画面。iOS 5と外観上の差はほとんどなく、操作のフィーリングにも大きな違いを感じられない

標準のブラウザ「Safari」でPC版のWebページを表示したところ。目立った遅さ/重さは感じられず、フリックへの反応も良好だ

念のため、iPhone 4Sでベンチマークアプリ「Geekbench 2」で整数/浮動小数点演算などのテストを測定してみたが、iOS 5.1.1とは誤差の範囲内といえるほど僅差だった。このアプリは演算に特化したベンチマークスイートであり、2D/3Dグラフィックのテストが含まれないことを考慮すると、システム全体への負荷の変化を判断するには材料不足だが、iOS 5からiOS 6では演算処理など基礎レイヤーに大きな変更がなかったと推定していいはず。

OSのメジャーアップデートというと、PCの場合は負荷増大が付きものだが、iOS 6ではそれがない。そういえば、7月にリリースされた兄弟分的存在のMountain Lion(OS X 10.8)でも、同様の傾向が見られた。これを言い換えると、Appleは「OSおよびアプリケーションの高機能化による負荷増大を最新ハードウェアで解決」というPCで繰り返されてきたビジネスモデルと距離を置きつつある、ということだ。それはアプリ販売(App Store)や楽曲販売(iTunes Store)など、収益源の多様化に取り組み大きな成功を収めてきたこととも無縁ではないだろう。

ともあれ、iOS 6からは「多機能化と引き換えにハードの要求スペックが上昇」とか、「快適に動作するのは最新ハード」といったハードウェアの販売に結びつけようとする意図は感じられない。通知機能などサービスのレイヤー、あるいはその上層にあるアプリの機能充実に主眼を置いたバージョンアップであり、iOSプラットフォーム全体の進化を目指していると考えるのが妥当だろう。それはiPhone 5の完成度に対する自信の表れであり、Appleの勢いそのものともいえる。……続きを読む

■GeekBench 2(v2.3.4)のスコア

iOS 5.1.1 iOS 6
Integer 557 561
Floating Point 733 734
Memory 743 750
Stream 291 298
TOTAL 629 633