NTTドコモは6月20日、同社代表取締役社長に就任した加藤薫氏の就任記者会見を行った。会見では加藤新社長が抱負を述べたほか、10月1日から提供が開始される新たなXiパケット定額サービスおよびデータ通信専用定額プランについての説明も行われた。
記者会見の冒頭、加藤氏は昨晩の台風4号の通過に伴う停電で、静岡県浜松市付近の基地局に不具合が発生したことに言及。携帯電話の利用に影響がおよんだユーザーへ謝罪を行うとともに「できるだけ早く復旧させたい」と述べた。ちなみに今回の台風による被災をうけて、ドコモでは災害伝言板や災害用の音声お届けサービスの利用を開始した。すでに数百件を越える利用があったという。
加藤氏は社長就任を受けて「モバイルの世界は非常に大きな変革期にある。スマートフォンの急速な普及、機能の拡大。国内はもちろん、グローバルでもキャリア、メーカー間で競争が激化している」とし、この時代に社長へ就任したことは「とても身が引き締まる思いがする」と述べた。
加藤氏は30年もの間、移動通信の分野に身を置いてきた人物。これまでポケットベル、航空機電話、自動車電話、携帯電話などいくつもの通信手段の研究・開発に携わってきたという。そのため、通信というコミュニケーション手段を確保することは、通信インフラを提供する企業の「使命中の使命」という思いをいまも強く感じているとのこと。こうした経緯もあり、まずは「通信インフラを強くすること」をドコモの最重要課題に挙げた。
その上で、モバイルの可能性に触れると「(現在、ユーザーの皆さまには)スマートフォンを通して色々な便利・充実を体感していただいている。そのサービスを拡充していくことは私の夢であり、ドコモ全社員の夢である」と述べ、スマートフォンとクラウドを連携させた様々なサービスに、今後とも積極的に取り組んでいく考えを示した。
会見の中で、加藤氏が繰り返し強調していたのは「スピード」という言葉。ユーザーの要望は時事刻々変わり、高度化していく。それには「スピード感をもって」対応していきたいという。「これからも世界最先端の技術力/研究開発力がある、"ドコモの底力"を発揮していきたい」と力強くアピールした。
また、5月の社長交代会見で掲げた「スピード&チャレンジ」というスローガンを取りあげ、「イノベーションによるサービスの進化、端末とサービスの融合による新たな価値の創造」を好奇心豊かに実現していきたいとした。一方で、「ドコモだけで全てができるとは考えていない」とも述べ、様々なノウハウ・発想を持っている企業との連携にも意欲的に取り組み「さらに高度なサービス」を展開していく姿勢を示した。5月の社長交代会見で、加藤氏は「7分で良しとする」という心構えも口にしていた。本日の記者会見では、その言葉にも言及。「100%を目指す中での話。7分でサービスを開始し、色々なお叱りをいただきながら100%に向かっていくということ」という表現で、その真意を改めて説明した。
前社長の山田隆持氏が掲げていた「お客様満足度の向上」「現場原点主義」も継続的に取り組んでいく。ドコモは2年連続で「お客様満足度 No.1」に輝いているが、加藤氏によれば「まだまだ至らない点がある」。これからも気を引き締めて取り組んでいく構えだ。
ドコモでは10月1日から、新たなパケット定額サービス「Xiパケ・ホーダイ ライト」(月額4,935円)およびデータ通信専用の定額料金プラン「Xiデータプラン ライト にねん」(月額4,935円)、「Xiデータプラン ライト」(月額6,405円)が開始される。これは当月利用のデータ量が3GBまでなら受信時最大75Mbpsでインターネットが利用できるというフラット型のパケット定額サービスだ。いずれも、3GBを越えた場合は送受信時最大128kbpsの通信制御がかかる。
加藤氏は本プランを紹介したあと、「8割のユーザーは、毎月3GBもパケットを利用していないというデータがある。その方々に1,050円安く提供できるプラン。これでまた、多くの方々にXiを利用していただけるのではないか」とアピールした。
最後に、加藤氏は「ドコモは今年、20周年を迎える。人間で言えば成人式を終えたところ。まだまだやるべきことがある。成長を支え、育ててくださったお客様、企業様に感謝しながら、更なる成長をしていきたい」と述べ、社長就任会見を終えた。
会見の後、質疑応答の時間が設けられた。現在のドコモは100点満点で何点くらいか、との質問には「80点~85点くらいはいただけるかと思う。しゃべってコンシェルのサービス開始やスマホの品揃えが充実したことに関しては自信を持っている」と回答。一方で、番号ポータビリティ(MNP)で流出が続いている現状がマイナス要因になったようだった。
MNPに関連して、2年以上~10年未満の中期契約ユーザーの囲い込み(流出防止)について何か対策は考えているか、との質問には「ユーザーにとっては、2年目が大きな転機であると認識している」とした上で、魅力的な料金プラン・サービスで流出を押さえたい考えを示した。ちなみに本日発表された新料金プランについては、パケット量と定額料金の水準についてベストマッチを探るために、社内でもかんかんがくがくの議論が行われたという。また、契約が2年を越えるユーザーに対してロイヤリティを提供するアイデアを、実は昨日から社内で募っているということも明かした。
ソフトバンクが900MHz帯のプラチナバンドを獲得したが、その影響をどう考えているか、との質問には「私は市街地での電波の伝わり方などに関するデータを何十年も取り扱っているが、周波数の違いがおよぼす影響はそれほど大きくないと感じている。900MHzは少し曲がりやすい、少し飛びやすい程度。都市部においては、ほとんど効果の違いを感じられないのでは」と答えた。しかし「(キャリアが)トラフィックの幅を持つということに大きな意義がある。全国に基地局を適切に配置すれば、かなりキャパシティは上がる」とも付け加えた。ドコモでは、全国に密に配置された基地局と長年培ったノウハウで、このプラチナバンドに対抗していく考えだという。
山田体制とは何が変わるのか、との質問には「何も変わらない」と回答。山田前社長は企業としての原則をきっちりやっていたと認識している、とコメントした上で、「変革とチャレンジなど、山田と一緒にやってきたことも多い。継続こそは力なりで、今後もきっちりやっていきたい」と答えた。
海外戦略については、「(昔、海外展開に失敗したという記者の指摘を踏まえて)iモード、おサイフケータイなどは時代の先を行っていた。しかし先の経験ではいかにタイミングとコミュニケーションが大事かなど、たくさんのことも学んだ」。今後も、ヨーロッパをはじめ世界各国にマーケットを求める方針に変わりはないという。「アニメなど、日本発のもので世界に認められているものは多い」と語り、ドコモと角川書店が提携し7月から提供を開始するアニメ見放題サービス「アニメストア」の海外配信なども、将来的には視野に入れているようだった。「(コンテンツ配信などの)基盤を日本で大きくしてから、海外のプラットフォームに乗せることができれば理想的」という。
会社の雰囲気をどのようにしたいか、については「できるだけ明るく、元気にしていきたい」と回答。スローガンなどは愚直に繰り返すことで、社内に浸透することを期待しているという。また、韓国のメーカーはドコモと提携するなど力をつけているが、日本のメーカーには不振が続いている。これについてどう思うかと問われると「日本のメーカーが製造する製品は作り込みが素晴らしく、ユーザーの要求に繊細に応えているものが多い。スマートフォンの分野では出遅れてしまったが、塞翁が馬ではないが、日本のメーカーにもチャンスがめぐってくると思うのでこれからも頑張ってほしい」と述べた。
(記事提供: AndroWire編集部)