人材確保に悩む建設・土木業界において、テレワークを含めた新しい働き方は、どうすれば実現できるのでしょうか?本記事では、TECH+のアンケート調査結果をもとに、BIM/CIM導入の現状、その効果、そして建設・土木業界の未来への影響について探ります。

建設・土木業界へ向けられる「長時間労働」のマイナスイメージ

ワークライフバランスを重要視することが当たり前になった今、建設・土木業界の印象は、残念ながら良いものではありません。『2024年卒マイナビ大学生業界イメージ調査』によれば、建設業に対するマイナスイメージに「休日・休暇・労働時間」と答えた学生は37.6%で、これは全業界中ワーストです。

  • (グラフ)マイナスイメージのある業界「休日・休暇・労働時間」

こうしたイメージは、建設・土木業界における人材確保を困難なものにしています。TECH+会員のうち、建設・土木業界で働く方々にアンケート調査を実施したところ、「あなたの会社では、採用活動等の人材確保はうまくいっていますか?」という質問に対し、肯定した方は合計で36%に過ぎませんでした。

  • (アンケート結果)あなたの会社では、採用活動等の人材確保はうまくいっていますか?

瀬戸大橋建設に憧れ土木工学を専攻し、工事会社や建設コンサルタントを経て、現在はオートデスクの土木・インフラソリューション部マネージャーを務める松本昌弘氏は、かつて休みなく働いていた自身の経験を、次のように振り返ります。

「年度末の忙しい時期は、事務所の床に紙を敷いて寝泊まりしながら仕事をしていました。街区道路の形が変わっているのに気づかず、古い情報をベースに下水の図面を引いて大量の手戻りを発生させてしまったり、数時間かけて紙の図面を運んで納品に行ったりと、ネットが普及した今となっては、ずいぶんムダなことに時間を費やしたものです」(松本氏)

建設・土木業界は55歳以上の働き手が約36%を占めており、10年後にはその大半が引退していることが予想されます。新たな働き方を実現し、人材を確保していくことは喫緊の課題と言えるでしょう。

  • (イラスト)建設・土木業界に不安を感じている学生

<参考資料>
マイナビキャリアリサーチLab『2024年卒マイナビ大学生業界イメージ調査』(2023年5月16日公開)
総務省統計局「労働力調査」2022年次調査(2023年1月31日公開)

3Dデータを活かしたプロジェクト効率化

ICTの活用により労働時間を短縮し、従業員の負担を軽減する"i-Construction"の推進を国土交通省が提唱して、7年が経ちました。その中核をなす技術が、3Dデータや属性情報をベースにプロジェクトの計画・設計・建設・管理をおこなうBIM/CIMです。

測量者・調査者・設計者・施工者・点検者・補修者のそれぞれが平面図ではなく3Dデータで情報を共有することによって、ミスを減らし、効率的なプロジェクトの推進が可能となります。こうした技術は、世界的にはではBIM(Building Information Modeling)や、BIM for Infrastructureと呼ばれていますが、日本では国交省がBIM/CIM(Building/Construction Information Modeling,Managiment)と呼称しています。

アメリカやイギリス、北欧諸国、シンガポール、インドネシアなどでは公共事業においてBIMの利用が義務化されており、日本でも国交省が2023年度からBIM/CIMの原則適用を開始しました。これまで日本でBIM/CIMの導入が進まなかった背景について、松本氏はこう指摘します。

「2Dの図面を頭の中で3Dに組み立て直すには、時間をかけたトレーニングが必要ですが、日本にはそれがスッとできる優秀な方々が多くいらっしゃいました。そのため、土木・建築のルールが二次元ベースで固まってしまったのだと思います。いまだに大量の2D図面を提出しなければなりません。3Dデータならば必要な情報を簡単に取り出せるのに、プロジェクトの最終段階になって3Dモデルを作るということもよくあります。これではなんの効率化にもなりません」(松本氏)

3Dモデルによって完成形の共有や施行プロセスの検討をしやすくするだけでなく、さまざまな情報を付与した自動計算や進捗管理といったプロジェクト全体の効率化こそが、BIM/CIMの本懐です。そして、若い人こそ3Dデータへの親和性が高いと松本氏は強調します。

「新入社員研修でBIM/CIMを教えているお客様から聞いたのですが、3Dゲームに慣れ親しんだ世代は、とんでもなく吸収が早いそうです。私自身、新しいツールを効率的に使うという点では、新人に教わることが多々あります。BIM/CIMは、若手と建設・土木業界を繋ぐシステムと言えるでしょう」(松本氏)

  • (イラスト)BIM/CIMに楽しんで取り組む若手社員

BIM/CIMが実現する新たな働き方

BIM/CIMは、具体的にどのような効率化をもたらしてくれるのでしょうか? たとえば、システム上で常に最新の情報を確認できるので、古い図面に基づくような手戻りは無くなります。設計変更があった場合、数十枚の図面に修正を加えることは、手作業であれば時間がかかる業務かもしれませんが、デジタルでは一カ所修正すればあとは連動して処理してくれます。面倒なだけの業務は「自動化」できるのです。

さらに、最新のAIが設計を支援してくれます。"Autodesk AI"に「雨が降ってきたときの排水処理」や「最適な位置での構造物の配置」を考えさせれば、数パターンを提案してくれるのです。設計者は地味な反復作業ではなく、どの選択が最適なのか、思考と判断に時間を割けるようになります。

こうしたデジタル化の利点は、労働時間に効率化をもたらすだけにとどまりません。働き方そのものを大きく変革することができます。

オートデスクの提供する"Autodesk Construction Cloud"は、プロジェクトに関するあらゆる情報の共有と、ワークフローによる意思決定を、ネット上で実現できるクラウドサービスです。直接会わずとも、オフィスに行かずとも業務ができる、いわゆるテレワークが可能になります。

先述したTECH+のアンケート調査では、BIM/CIMを導入していると答えた会員のうち、77%の職場がテレワークを実施しており、さらに81%が「業務が効率化された」と答えています。一方、BIM/CIMを導入していない企業では、テレワークの実施率はわずか18%でした。

  • (アンケート結果)BIM/CIMを導入していると答えた会員の、テレワーク実施率
  • (アンケート結果)BIM/CIMを導入していると答えた会員のうち、業務が効率化されたと感じている方の数
  • (アンケート結果)BIM/CIMを導入していないと答えた会員の、テレワーク実施率

「テレワーク最大の利点は、なんらかの事情で会社に通えない優秀な方とも一緒に仕事ができることです。現に私のチームにも岐阜に住んでいるメンバーがいます。BIM/CIMの導入は、働き方改革や採用活動においてもメリットがあるということです。実際、『離職率が減った』『女性の活躍が増えた』といった成果を出されているお客様がいらっしゃいます」(松本氏)

  • (イラスト)BIM/CIMがもたらすメリット

BIM/CIM教育に注力する企業も

実際、社員へのBIM/CIM教育を優先事項ととらえ、組織的に運用している企業もあります。国内トップクラスの総合建設コンサルタントである日本工営株式会社もその1つで、国土交通省の動きを見ながら、業界に先駆けて社内のBIM/CIM教育を拡充してきました。

2022年9月からは原則化を踏まえ、社内資格制度の運用もスタート。日本工営の親会社であるID&Eホールディングスの新屋浩明社長も「もう一歩先のことを考え、行動を始めよう」と、動き出したBIM/CIM資格の進展に期待を寄せています。

資格は3段階に設定。2時間の動画学習を位置付けた初級は、1500人もの技術者が受講を終えているなど、社員も前向きに取り組んでいることがうかがえます。2023年から開始した中級は、実務で使いこなせるスキルを養うことを目的にBIM/CIMソフト操作研修を含む40~80時間のプログラムを設けましたが、こちらもすでに200人が受講しているといいます。研修を行った講師社員からも、「デジタルツールに触れてきた新入社員が多く、BIM/CIMへの適用能力はとても高い」と驚きの声が寄せられました。

現在は、BIM/CIMマネージャーの育成を目的とした上級資格の準備も進行中。同社はBIM/CIMへの対応力を技術者の重要な素養の1つに位置付けています。

「デジタルネイティブ世代である若手社員たちが、これからのBIM/CIMをけん引していくだろう」という期待の声も聞かれるなど、企業の永続的な成長や、若手社員のモチベーションアップにBIM/CIMが寄与するであろうことは、もはや疑う余地がありません。

建設・土木業界の未来を変えていくために

これまで述べてきたように、BIM/CIMには大きなメリットがあります。しかし、建設・土木の広範な業務をデジタル化し、新たなツールを習得し、今までの仕事の流れを変えることは容易ではありません。どのように導入していくべきなのでしょうか。

「オートデスクは"AEC Collection"という、一括で業務をデジタル化できるアプリのセットを提供しています。"土木建築版Microsoft Office"と思ってください。このAEC CollectionにはクラウドのサービスやBIM/CIMの様々なフェーズで活用できる製品が含まれており、特に最も多く使用されているCivil 3Dは、汎用CADの AutoCADがベースなので インターフェースが似通っており、スムーズにBIM/CIMへ対応していけると思います。

オートデスクの製品は、ユーザーが多いという特徴もあります。国交省がBIM/CIMの事例集を公開していますが、実に9割が我々の製品を使っています。こうした事例・ユーザーの多さは、ナレッジの多さに繋がります。ネットで疑問点を調べれば、すぐに答えが見つかるというわけです。もちろん、我々もBIM-Designというウェブサイトで無償のテキストやデータセットを提供しており、すぐに学習できる仕組みを用意しています」(松本氏)

国土交通省が公共事業における原則適用を始めたように、日本においても、今後はBIM/CIMの運用が主流となっていくでしょう。何より、他業界と比べてIT化が遅れたままでは、人材確保の面でますます先細りしていきます。TECH+の調査において、「人材確保にBIM/CIMの導入が有効である」と考えた方は、全体の57%にのぼっています。

「単純な反復作業や、時間を取る細かいタスクはICTに任せることで、本当にやりたかった業務に集中して時間を割けるようになります。働き方を変革することで、『社会を大きく変えていくことができる』という建設・土木業界の魅力に気づいてもらいましょう」(松本氏)

  • (イラスト)建設・土木業界の仕事にあこがれる学生たち

インタビューにお答えいただいた方

オートデスク 技術営業本部 土木・インフラソリューション部マネージャー 松本昌弘氏

(写真)オートデスク 技術営業本部 土木・インフラソリューション部マネージャー 松本昌弘氏

大阪府大阪市出身。大学の土木工学科を卒業後、橋梁、大空間構造物の施工管理に従事。建設コンサルタントに転職し、橋梁、下水道等の土木設計業務を経験しオートデスクへ。土木向けの3次元CADソフトのLand Desktop、Civil3Dの初期バージョンからの技術営業を経て、現在は土木・インフラソリューション部のマネージャーとしてBIM/CIMを始め、土木/インフラのお客様向けの技術営業を統括。

<アンケート実施概要>
調査主体:マイナビニュース
調査期間:2023年11月13日(月)~2023年12月7日(火)
調査対象:マイナビニュース会員 男女181名(建築・土木関連技術職および建築・土木業の事務・企画・経営関連職)
調査方法:マイナビニュース会員サイトログイン式アンケート

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