海洋での存在が知られるマイクロプラスチックが落葉広葉樹のコナラの葉の表面に多く蓄積していることを、日本女子大学などのグループが確認した。細かい凹凸がある葉の表面で捉えたマイクロプラスチックを壊さず回収する方法を確立し、実証した。森林が自然界の空気清浄機の役割を果たしヒトの吸入リスクを低減している可能性がある。今後、針葉樹や常緑樹などでの存在や、土壌移行など環境循環での影響について研究を続けるという。

大気中のマイクロプラスチックは100マイクロメートル(1マイクロは1000分の1ミリ)未満で、海洋のマイクロプラスチック(5ミリメートル以下)よりも小さく、空気中を漂っている。ポリエチレンやポリプロピレンと呼ばれる物質の総称で、プラスチックでできている衣類を着脱したり、屋外に置いたプラスチック製のものが劣化で細かく砕けたりすることで発生する。さらに、海洋のマイクロプラスチックが波しぶきなどによって巻き上げられ、欠片となって大気中に飛散するなどの経路も考えられている。

こうしたマイクロプラスチックの地上での実態を巡る先行研究では、市街地の街路樹や公園などの低木を対象としていた。日本女子大学理学部・大学院理学研究科の宮崎あかね教授(環境化学)らのグループは、これまで事例がなかった高木で構成される森林域での研究に着手し、より広範囲で実態の解明に取り組むことにした。

研究は日本女子大西生田キャンパス(川崎市)で着手。同キャンパスは住宅地に囲まれており、マイクロプラスチックの発生源となる人間の活動地点から近い。その中で比較的人の手が入らず、平らな里山の環境が再現されている場所を採取地点に選んだ。2022年6月から8月にかけて、コナラの葉を約150枚採取し、葉に捉えられたマイクロプラスチックの存在量を把握することに取り組んだ。

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    赤丸は今回の実験に用いたコナラの葉を採取した地点。川崎市にある日本女子大学西生田キャンパスの南東部に位置する(日本女子大学提供)

海外での先行研究では、超純粋水や超音波で葉っぱを洗い、洗浄水の中に含まれたマイクロプラスチックの存在量を数えていた。しかし、宮崎教授らはこの方法では葉っぱの表面に付いているものしかカウントできず、過小評価していると考えた。これを解消するためには葉を覆う「エピクチクラワックス」という脂質や、産毛のような突起状の「トライコーム」と呼ばれる凹凸の構造に捉えられたマイクロプラスチックも除去し、数える必要がある。

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    今回の実験の方法。海外での先行研究では、2段階目の超音波洗浄までしか行われていなかった。そのため大気中のマイクロプラスチックの量を過小評価していることが分かった(日本女子大学提供)

そこで、超純粋水と超音波の洗浄に加え、新たに10パーセントの水酸化カリウム水溶液によるアルカリ洗浄で葉の表面の構造物を破壊し、マイクロプラスチックの形状を維持したまま葉の表面から洗い出す手法を確立。その上で実測値を求めた。10パーセントの水酸化カリウム水溶液ではマイクロプラスチックが変形し、溶出することはない。

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    コナラの葉の表面を水で洗っただけのもの(写真上)と、10パーセント水酸化カリウム水溶液で洗浄した葉の様子。この手法で、葉の表面構造物に捉えられたマイクロプラスチックも数えられるようになる(日本女子大学提供)

その結果、葉の面積1平方メートルあたりに1000個のマイクロプラスチックが存在していることが分かった。日本全体のコナラ林においては年間約420兆個のマイクロプラスチックが捕捉されていると推計されるという。宮崎教授は「森はマイクロプラスチックを貯める役割を持っている。まるで空気清浄機のような働きをしている」と話す。森林がフィルターとして機能し、吸入リスクを抑える役割を担っている可能性を示唆した。

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    今回の実験で分かったことは、森林には大気中のマイクロプラスチックを貯めておくフィルターのような機能があるということだ(日本女子大学提供)

今回は森林におけるマイクロプラスチックの量を把握しただけで、その挙動についてはまだ解明されていないことが多い。宮崎教授は今後について、「いつから葉に付着しているのか、落ち葉になったときに土の中に入っていくのか、もしくは大気中に再度放出されるのかといったマイクロプラスチックの環境中での循環の様子について研究を進めたい」とした。

研究は環境再生保全機構の助成を受けて行われた。成果はドイツの科学誌「エンバイロンメンタル ケミストリー レターズ」に3月20日に掲載され、日本女子大学が同月27日に発表した。

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