スーパーコンピューターの計算速度の世界ランキング「TOP(トップ)500」が発表され、米オークリッジ国立研究所の「フロンティア」が前回昨年11月に続きトップとなり、5連覇を果たした。同機は2022年5月、史上初めて毎秒100京回(京は1兆の1万倍)を意味する「エクサ級」を達成している。前回、2位から4位に後退した理化学研究所の「富岳(ふがく)」は、4位を維持した。

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    フロンティア(米エネルギー省提供)

TOP500は性能評価用プログラムの処理速度を年2回競うもの。ドイツ・ハンブルクで開かれた国際会議で日本時間13日に発表された最新版では、米エネルギー省がクレイ社などと開発したフロンティアが毎秒120京6000兆回。2、3位は不変だが、2位のオーロラが前回の58京5340兆回から101京2000兆回へと大幅に性能を高めており、公式に2台目のエクサ級スパコンとなった。富岳の44京2010兆回が4位で続いた。

日本勢上位では、先月に運用を開始した東京工業大学の「ツバメ4.0」が31位にランクイン。TOP500への申請がないものの、中国が既に複数のエクサ級スパコンを開発済みとの情報もある。

日本は先代「京(けい)」が2011年に連覇した後、中国や米国に抜かれた。20年6月、富岳で8年半ぶりに首位となり、21年11月まで4連覇した。

TOP500と同時に発表された、産業利用に適した計算の速度を競う「HPCG」と、グラフ解析の性能を競う「Graph(グラフ)500」で、富岳は9期連続の1位を達成。AI(人工知能)の深層学習に用いられる演算の指標「HPL-MxP(旧HPL-AI)」では4位となった。

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    富岳(理研提供)

富岳は理研と富士通が共同開発。理研計算科学研究センター(神戸市)の京の跡地に設置され、2020年4月からの試験利用を経て21年3月に本格稼働した。生命科学や防災、エネルギー、ものづくり、基礎科学、社会経済などの分野で利用が進んでいる。理研は富岳の後継機実現に向け、文部科学省からの受託により22年8月、求められる性能や機能の調査研究に着手している。

松岡聡センター長は「世界各国でスパコン開発が繰り広げられ、特に昨今の生成AI(人工知能)でヒートアップする中、富岳が4年にわたりトップクラスの性能を維持できているのは、ハードウェア設計に加え、センターによる高度化研究の成果だ。さらに次世代計算基盤の研究開発に関し、数多くのプロジェクトを推進している。これらが日本の科学技術研究全体の邁進(まいしん)はもちろん、産業界での活用や早期の社会実装に向け、大いに貢献すると期待している」とコメントした。

一方、東京工業大学と東北大学、富士通、理研などの研究グループは10日、生成AIの中核技術「大規模言語モデル(LLM)」を富岳を活用して開発し、公開したと発表した。生成AIは利用者の指示や質問を受けて文章や画像などを作成するもの。米企業が開発した「チャットGPT」などが急速に普及しているが、学習して性能を高めるには、大量のデータを効率よく処理する必要がある。そこで大規模な並列計算に秀でた富岳を活用し、学習手法を開発した。米国などの海外企業がリードする中、“国産生成AI”の開発基盤を構築した形だ。

また、海外で開発された生成AIは学習データに英語が多く、日本語の指示や質問に対する精度が低いと指摘されてきた。これに対し研究グループは、日本語のデータを約60%使い言語モデルを開発した。公開し、研究者や技術者がモデルの改善や応用研究に参画することを通じ、研究やビジネスの成果につなげていく。

TOP500のランキング上位は次の通り(名称、設置組織、国、毎秒の計算速度)。

1位 フロンティア オークリッジ国立研究所(米国)120京6000兆回
2位 オーロラ アルゴンヌ国立研究所(米国)101京2000兆回
3位 イーグル マイクロソフト社(米国)56京1200兆回
4位 富岳 理研(日本)44京2010兆回
5位 ルミ 欧州高性能計算共同事業体(フィンランド)37京9700兆回

※以下、日本勢上位
31位 ツバメ4.0 東京工業大学 2京5460兆回
39位 ABCI2.0 産業技術総合研究所 2京2210兆回
40位 ウィステリア・ビーデック01(オデッセイ) 東京大学 2京2120兆回

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