東京大学(東大)は5月1日、日米欧で運営される電波望遠鏡群であるアルマ望遠鏡の建設地として知られる南米チリのチャナントール山の山頂(標高5640m)に建設された、口径6.5mの大型赤外線望遠鏡(TAO望遠鏡)を擁する「東京大学アタカマ天文台」(TAO:The University of Tokyo Atacama Observatory)のエンクロージャ(望遠鏡など機械設備一式を格納した筐体)を含めた山頂施設が完成したことを発表した。

  • チャナントール山山頂にあるTAO天文台の観測ドーム

    チャナントール山山頂にあるTAO天文台の観測ドーム。(c) 2024 東京大学TAOプロジェクト(出所:東大Webサイト)

TAOは、東大大学院 理学系研究科(理学部)の吉井譲名誉教授が代表となり、1998年に立ち上げられた計画(吉井名誉教授は当時、東京大学院 理学系研究科/同科付属天文教育研究センター 教授)。2009年に口径1mのminiTAO望遠鏡が設置されて天文台として活動を開始し、標高世界一の天文台としてギネス記録となった(ちなみに、すばる望遠鏡などがあるハワイ・マウナケア山山頂は4207m、アルマ望遠鏡は約5000m)。

本命の口径6.5mのTAO望遠鏡の本格的な製作は2012年に始まり、山頂の天文台施設の建設に向けた道路の本格的な工事(仮設道路は2006年に完成)が2018年にスタート、2020年に山頂の施設の建設が始まった。そして2023年には観測運用棟が完成、2024年にエンクロージャを含めた山頂施設が完成した。

TAO望遠鏡の最大の武器は、標高5640mという高さ。この高さと地理的な条件が相まって、赤外線での観測の妨げとなる水蒸気がほとんどないという。それにより、他の土地の望遠鏡では不可能な赤外線での鮮明な視界が確保されることとなった。また、気圧が地表の半分ほどしかないという大気の薄さも大きな武器。天文台スタッフにとっては高山病のリスクがある過酷な環境だが、2つの武器により、これまでは軌道上の天文衛星でしか観測が不可能だった0.9~2.5μmの近赤外線波長と、長波長の中間赤外線のうちの40μm弱までがクリアに観測可能となっている。従来の地上望遠鏡でも近赤外線の波長域は観測可能だが、J、H、Kバンドなど、「大気の窓」に分断されてしまっていたとのこと。TAO望遠鏡では、それが連続的に観測可能となるほか、大半の赤外線天文衛星に搭載されている望遠鏡に比べ、圧倒的に大口径の6.5mであり、高解像度の画像が期待されている。

  • TAO天文台山頂施設の全景

    TAO天文台山頂施設の全景。(c) 2024 東京大学TAOプロジェクト(出所:東大TAO計画Webサイト)

TAO望遠鏡の観測のメインテーマは2つあり、「銀河宇宙の起源」と「惑星物質の起源」。銀河がどのように形成されて進化してきたのかを探るには、初期の銀河を探ることが重要であるが、宇宙膨張により、遠方銀河からの光ほど赤方偏移するため、発した時は可視光線であっても地球に届くまでに赤外線にまで波長が引き伸ばされてしまう。そのため、「初代銀河」のようなビッグバンから数億年後に誕生したと予想される銀河を観測するには、赤外線での観測が必須だという。

  • チャナントール山

    チャナントール山。TAOは標高5640メートルのチャナントール山山頂に建設され、大気中の水蒸気が少ないことや大気の薄さから、他の天文台では観測が難しい波長の赤外線も観測可能なことを特徴としている(出所:東大TAO計画Webサイト)

具体的なテーマとしては、初期の銀河が星の材料となるガスをどのようにして獲得したか、ガスから星へと変わる星形成活動と星質量蓄積史、また赤外線銀河やサブミリ波銀河といった遠方宇宙に見られる銀河種族に対する波長横断的な研究、そしてTAOだからこそ遂行可能な近傍星形成銀河のPaα輝線観測などが考えられるとしている。

一方の惑星物質の起源については、中間赤外線を用いることで、原始惑星系円盤のダストを直接観測することが可能。TAO望遠鏡は30μm帯の中間赤外線を地上で初めて観測できることから、円盤の中で惑星たちが生まれる過程を明らかにできるとして期待されている。またTAOでは、ダストの直接的な観測以外にも、ダスト供給に重要な役割を果たしているさまざまな進化段階の星を観測することで、宇宙での物質の輪廻の問題にアプローチできるとしている。

そしてTAO望遠鏡に搭載されるのが、「SWIMS」と「MIMIZUKU」という、2つの観測装置。SWIMSは、0.9~2.5μmの近赤外線において切れ目なく観測を行うことができるほか、9.6分角と視野が広く、2色同時観測が可能であることから、サーベイ能力が非常に高いことも特徴だとする。これは銀河進化や宇宙論観測、あるいは希少天体捜査などで大きな威力を発揮するという。

一方のMIMIZUKUは、2~38μmという非常に広い波長範囲をカバーしており、その中でも26~38μmは、MIMIZUKUだけが地上で唯一観測できる新しい波長帯。さらにMIMIZUKUは2視野同時撮像といったユニークな機能も備えており、これまで中間赤外線観測では不可能であった時間変動の検出などでも威力を発揮するとのこと。なお、TAOの科学観測は2025年開始の予定だとしている。