OKIと東北大学は、光インターネットサービスで採用されるパッシブ光ネットワーク(PON)システムを効率よく運用することを目的に、必要な通信量を人工知能(AI)で予測して効率よく資源を割り当てる、「仮想化資源制御技術」を開発したことを発表した。

  • 仮想化資源制御技術についての発表者

    仮想化資源制御技術についての発表者。左からOKI 研究開発センター長の増田誠氏、東北大 電気通信研究所 ネットワークアーキテクチャ研究室の長谷川剛氏、同 フォトニクス研究開発部 プロフェッショナルの鹿嶋正幸氏

仮想化資源制御技術の開発背景に見える2025年ごろというポスト5Gサービスの開始時期

第5世代移動通信システム(5G)が2020年に開始し、第4世代移動通信システム(4G)から高速大容量化したサービスが展開されているが、2025年ごろにはさらに機能が強化されたポスト5Gサービスの開始が見込まれている。

しかし、このポスト5Gを利用するには基地局に多くのアンテナ(セル)を設置することが必要で、4Gのマクロセルに比べその数は約100倍に増大するとも言われ、2030年ごろに見込まれる第6世代移動通信システム(6G)ではさらに増加すると予想されている。

これまで基地局からセルへの光配線は「Point-to-Point方式」で接続されていたが、ポスト5G以降に同じ方法で敷設を行うと光ファイバーの本数が爆発的に増えてしまい運用コストが高騰するほか、消費電力も増大するという懸念点があったという。

そこで、OKIと東北大学は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が委託する「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」の一環として、オープンソースソフトウェア(OSS)をベースとした仮想PONシステムの構築や資源の割り当て、AIによる最適資源予測技術の開発などに取り組んできたという。

OKIと東北大学の技術が融合したスライス最適化

今回の開発でOKIは、PONシステムに適応して駆動する資源制御技術の開発として、双方向10GbpsのPONシステムである「XGS-PON」をベースに、異なる2波長(10Gbps×2)を使用した仮想PONシステムの構築と、ネットワーク機器オープン化の業界団体ONFで規定される、アクセス向けOSSのONOS/VOLTHAに波長/時間の帯域資源によるスライス割り当て機能の構築を担当したとする。

  • 仮想PONシステムと実験の画像

    仮想PONシステムと実験の画像 (出所:OKI/東北大)

一方の東北大学は、トラフィックのAI予測技術の開発として、時系列データの予測に用いるロング・ショートターム・メモリー(LSTM)を使った学習と、複数エリアを演算すること でメモリー使用率を低減できるよう、どのくらいネットワークを使うのか予測し実装する部分を担当したという。ここで各スライスの大きさを判別できるようにしておくことで、OKIのシステムで最適にスライスを割り当てることができるようになるとのこと。

仮想化資源制御技術を活用することで得られること

これらの技術を組み合わせて活用することで、ONUが送受信する波長を切り替えてOLTへの収容を変更することができ、1波長あたり10Gbpsの通信量をまかなうことが可能だという。

実証実験では2波長(20Gbps)を実装し、総トラフィックのしきい値を8Gbpsとすることで、AI予測の結果がしきい値以下の時は1波長(1台のOSU)ですべてのONUを収容し、しきい値以上の時は2波長(2台のOSU)でONUを収容できるように波長資源を制御する形で、資源の割り当てを変更することに成功したとする。

  • 実験構成と波長切り替えの概要図

    実験構成と波長切り替えの概要図 (出所:OKI/東北大)

このPONスライス制御技術によって、膨大なアンテナと基地局をつなぐ光通信ケーブルの効率的な運用が実現できるようになるため、スポーツイベントや交通渋滞などの不定期に人が集中するエリアや、時間帯で人が集中するエリアなどで効果を発揮することが期待されるとしている。

  • PONスライス制御技術の概要図

    PONスライス制御技術の概要図 (出所:OKI/東北大)

また、同技術の効果を消費電力に置き換えた場合、既存方式と比べて20%以上の削減が見込まれるほか、既存のPONで使用される通信局側のOLTの消費電力がポートあたり年間約8.8kWhとされている中、同技術の活用で年間約1.8kWh以上の削減が期待できるという。

さらに、2025年ごろには全国で現在の約100倍にあたる数千万台のOLTの設置が予想されているが、同技術を活用することで年間約2GWhの消費電力削減、CO2に換算すると約920tの削減が期待できることから、カーボンニュートラルの実現への貢献にもつながるとした。

OKIと東北大学による今後の展望

消費電力が抑えられるほか、今回の開発ではOSSを使用しているためコストも抑えることができている同技術。まずはモバイルのキャリア向けに、各キャリアに合わせる形で導入を進めていきたいと担当者は語っていた。

また今後に向けては、OKIは仮想PONの実用化を目指した商品開発に取り組むとしているほか、東北大学ではAI予測技術の精度向上と予測結果に応じたネットワーク資源割り当て技術に関する研究開発を進めていくとしている。