パワー半導体市場は、脱炭素に向けた各国政府の規制強化、再生可能エネルギーの需要拡大、電力効率向上の要求の高まりなどを背景に成長を続けており、Yole Groupの市場調査会社であるYole Intelligenceによると、2022年のパワー半導体市場規模はディスクリートおよびモジュールを含めて209億ドル、2022年から2028年にかけて年平均成長率(CAGR)8.1%で成長し、2028年には333億ドルに達するとする予測を新たに発行したパワーエレクトロニクスに関する年次調査報告レポート「Status of the Power Electronics Industry 2023」の中で予測している。

  • 2022年および2028年のパワー半導体市場

    図1 2022年および2028年のパワー半導体(ディスクリートおよびモジュール)市場のコンポーネントタイプごとの内訳 (出所:Yole Intelligence)

その中では、ディスクリートは2022年に143億ドル規模であったが、2028年までに185億ドルにまで成長すると予想されている。この成長を牽引する主なアプリケーションは、xEV、DC充電インフラ、および自動車としており、コンシューマ市場が依然として最大市場を維持するとしている。また、2022年はパワー半導体全体の68%、モジュール市場の31%を占めていたが、2028年には全体の56%、モジュール43%とモジュールの比率が高まることも予測されている。

パワー半導体市場は、従来からの主流であるシリコンに加え、次世代素材としてSiCとGaNが成長してきているが、今後もシリコンが市場の大半を占めることが予想されている。しかし、xEVの普及に伴い、モジュールを中心維SiCが勢いを増してきているほか、GaNも民生向け電源を中心に市場を拡大させており、当該分野を中心に市場を拡大させていくことが期待されるともしている。また、GaN on GaN、Ga2O3、ダイヤモンドなどの研究開発も進められているが、大規模な実用化はまだ先との見方も示している。

世界的なエレクトロニクス化の潮流により、ウェハの生産量も増加しており、パワー半導体用シリコンウェハの枚数は年間約4700万枚(200mm換算)まで増加することが予想されるほか、Infineon TechnologiesやBosch、三菱電機、東芝、Nexperiaなど一部のメーカーでは300mm化を進めており、さらなる処理枚数の増加を加速させようとしている。また、SiCについては150mmから200mmへの移行も徐々に進められており、今後数年以内にSiCの存在感が増す見込みだともしている。

パワー半導体の生産能力拡大をけん引する中国

現在、パワー半導体の主要購入地域・国は中国で、それにマレーシア、ベトナム、シンガポールなどをはじめとするアジア/太平洋、欧州などが続いている。中でも中国では、高速鉄道、自動車および充電施設、発電および高圧送電などのインフラ整備に向けて積極的に投資が続けられている。

  • 2023年時点のパワー半導体サプライヤのデバイスタイプおよび電圧ごとの分類

    図2 2023年時点のパワー半導体サプライヤのデバイスタイプおよび電圧ごとの分類 (出所:Yole Intelligence)

図2に、デバイスタイプおよび動作電圧レンジごとの主要パワーデバイスサプライヤを示す。 Si分野では、日本企業としては、三菱電機、東芝、富士電機、日立、ルネサス、ロームなどの社名があがっている。SiC分野の主要メーカーとして、ローム、三菱、ルネサスなどの日本勢が顔を出しているが、GaN分野に日本企業は載っていない。パワー半導体トップのInfineonは、シリコン、SiC、GaNのすべての分野に顔を出している。

パワー半導体分野、Si、SiC、GaNの今後の市場予測

Yole Intelligenceの「Power SiC/GaN Compound Semiconductor Market Monitor」2023年9月版によると、2022年時点でのパワー半導体売上高に占めるSiC/GaNの比率は10%に満たないとされている。例えば、2022年のSiCパワー半導体市場規模は17億9400万ドル、2028年までのCAGRは31%で、2028年には89億600万ドルまで拡大すると予測されるという。成長のけん引役はxEVで、SiCパワー半導体市場全体における自動車分野の比率は2022年の70%から2028年には74%まで拡大する見通しだという。

  • 2019~2028年におけるSi、SiC 、GaNの売上高比率の推移と今後の予測

    図3 2019~2028年におけるSi、SiC 、GaNの売上高比率の推移と今後の予測 (出所:Yole Intelligence)

また、業界の主なトレンドとして、パワーモジュール・パッケージングビジネスの統合があるとYoleでは指摘している。大手IDMの一部は、プロセスフロー全体をより適切に制御するためにウェハ製造も垂直統合しているが、さらに多く企業がデバイス製造に焦点を当て、SiCウェハは外部調達を図っている。こうした取り組みはM&Aや提携を加速させており、各社の戦略的立場が明らかになりつつあるとYoleでは指摘しており、その主な要因として、生産能力の拡大、資金調達、ウェハ供給の確保、新市場へのアプローチ、技術強化などが挙げられている。

  • 2022年と2028年のSiCパワーデバイス市場の用途別シェア

    図4 2022年と2028年のSiCパワーデバイス市場の用途別シェア (出所:Yole Intelligence)

  • 2022年から2023年第3四半期に至る期間のSiCサプライヤの統合・買収および提携

    図5 2022年から2023年第3四半期に至る期間のSiCサプライヤの統合・買収および提携 (出所:Yole Intelligence)

一方のGaNは、コンシューマ向け急速電源用途が主のためSiやSiCに比べると市場規模は小さい。その中において、米Power Integrationsと米Navitasは、 スマートフォン(スマホ)メーカーから複数のデザインインを獲得することで市場をリードしている。また中Innoscienceは、民生用電源をターゲットに、2023年第1四半期だけで5000万台を超すデバイスの出荷を達成。同社の40V GaN製品は、中OPPOや中Realmeの多くのスマホに搭載されるようになっている。このほか、米GaN SystemsはApple MacBook向けにデバイスを供給している。今後、高性能化が進むことで、通信やデータ通信アプリ、EV向け車載充電器およびDC/DCコンバータなどの成長により、GaN市場は2028年までに20億ドルを超す市場に成長する可能性があるとYoleでは予測している。