ispaceは9月28日、同社が計画している3回目の月面探査計画「ミッション3」に関する記者会見を開催した。同ミッションについては、2021年8月に概要が発表されていたが、ランダーのデザインを大幅に変更。名称も「APEX1.0」と一新された。また、この設計変更により、打ち上げ時期を2025年から2026年に延期したことも明らかにされた。

  • ispaceの「APEX1.0」ランダー

    ispaceの「APEX1.0」ランダー (C)ispace

同社は、すでに初の月面探査計画「ミッション1」を実施。残念ながら、最終段階である月面への着地だけはうまく行かなかったものの、大きな不具合もなく月周回軌道へ到達し、降下も途中までは正常にできており、初回のミッションとしては、非常に大きな成果を得ることができたと言えるだろう。

参考:ispaceの月面着陸失敗、理由はクレーター地形の影響でプログラムが誤動作か

このミッション1と、2024年に実施予定の「ミッション2」では、同型の「シリーズ1」ランダーを使用。続くミッション3では、より大型化した「シリーズ2」ランダーを使うとしていたが、今回発表されたAPEX1.0は、この旧シリーズ2ランダーのことである。

ランダーの“APEX”という名称は、“A Pioneer in EXploration”の頭文字だという。APEXという単語には英語で“頂点”という意味もあり、同社代表取締役CEO&Founderの袴田武史氏は、「月着陸船における頂点を目指すという目標も表している」と説明した。

  • オンライン会見に出席した袴田武史代表取締役CEO&Founder

    オンライン会見に出席した袴田武史代表取締役CEO&Founder(左)と野﨑順平取締役&CFO(右)

ミッション3には、米国航空宇宙局(NASA)のペイロードを搭載することが決まっている。NASAは、商業月面輸送サービス(CLPS)の実施事業者として、米Draper研究所のチームを選定。このランダー開発はispaceの米国子会社が担当しており、有人月面探査計画「Artemis」のための科学実験機器95kgを、月の南極付近の裏側まで輸送するという。

しかし、搭載予定の一部ペイロードに、「より慎重な取り扱いが必要」であることが分かり、開発スケジュールの見直しを実施。打ち上げを1年遅らせ、ペイロードを保護できる防振機能の追加など、ランダーの設計を変更することを決めた。長納期品の一部で調達遅れも発生していたが、打ち上げの延期でこれも吸収できるという。

APEX1.0ランダーには、最大300kgのペイロードが搭載可能。シリーズ1ランダーは、燃料を節約できる代わりに時間がかかる軌道を採用していたが、APEX1.0ランダーは月に直接向かう軌道を採用し、より短期間で月に到達することができる。なおペイロード容量は順次増加させ、将来的には500kgを実現する計画だ。

ミッション3の大きな特徴は、月の裏側への着陸になるということだ。裏側からは常に地球が見えず、直接通信できないため、ランダーの上面には、通信リレー衛星を2機搭載。月周回軌道で分離し、月面上のランダーからの通信を中継するという。リレー衛星は100kg弱の超小型衛星で、米国で調達するとのこと。

ランダーのサイズや重量などのスペックは非公表とのことだが、翌日に米国で開催された新社屋オープニングセレモニーで流れた3Dモデルの映像からは、本体は8角形で、側面の6面に太陽電池パネルを搭載することが分かる。トラス構造で支持した内部には、4本の太いタンクと2本の細いタンクも見える。

  • イベントのCG

    イベントのCGでは、ランダーを様々な角度から見ることができる。この模様はYouTubeで公開されている (C)ispace

なお旧シリーズ2ランダーのスペックについては、当初、高さは約3.5m、幅は約4.2mで、月面には最大500kgのペイロードが輸送可能とされていた。APEX1.0はそこから大きくデザインが変わったが、これは前述のように防振機能を追加したほか、製造の効率化なども考えられた結果だという。

追記:10月2日より開催されている第74回 International Astronautical Congress(IAC)で同社が公開した情報によると、APEX1.0ランダーのスペックは高さ約3.3m、幅約4.5mとしており、旧シリーズ2ランダーとほぼ変わりがないサイズとなる模様である

  • 2021年8月に発表された旧シリーズ2ランダーのデザイン

    2021年8月に発表された旧シリーズ2ランダーのデザイン。まだCLPSを受注する前だったため、地球と通信するためのアンテナが付いている (C)ispace

  • こちらはCLPS受注時(2022年7月)に発表されたデザイン

    こちらはCLPS受注時(2022年7月)に発表されたデザイン。細部は異なるが、全体的にはそれほど変わっていないように見える (C)ispace

ミッション3のペイロードは、CLPSの分ですでに95kgが埋まっているが、まだ余裕がある状況だという。空いている分は他の顧客が利用可能で、最近、米国企業との間で契約が決まった案件もあるとのこと。

APEX1.0ランダーの開発状況については、すでに基本設計審査(PDR)が完了。現在、次のマイルストーンである詳細設計審査(CDR)に向けた開発を進めており、こちらは2023年度末までの完了を予定している。CDRが終われば、次はいよいよフライトモデルの製造段階になるが、これも米国内で行う計画だという。