NTTは、空間分割多重技術を用いたマルチコア一括増幅による伝送容量の拡大を実現するとともに、省エネルギー化においても大幅な低減を実現できたと発表した。

増幅用光ファイバーの12コアを高密度に配置したマルチコア構造を用いることで、主要な通信波長帯であるC帯(波長1550nmの近傍)において、マルチコア一括増幅を実現するとともに、従来技術に比べ消費電力を67%低減できることを実証したという。

  • コアの面積比率と従来技術比消費電力の関係

    コアの面積比率と従来技術比消費電力の関係

NTTアクセスサービスシステム研究所 アクセス設備プロジェクトの坂本泰志氏は、「マルチコアファイバ(MCF)を用いた伝送容量拡大技術に、省電力化の付加価値を見出すことができた。MCFにおいては、従来技術に比べて、さらなる省電力化を図ることができた唯一の技術となる。今後、IOWN構想で目指している10チャネルを超える空間分割多重伝送路の一候補として、2030年までに技術の確立を目指す」という。

  • NTTアクセスサービスシステム研究所 アクセス設備プロジェクトの坂本泰志氏

    NTTアクセスサービスシステム研究所 アクセス設備プロジェクトの坂本泰志氏

なお、同技術は、スコットランドで開催される光通信技術に関する世界最大級の国際会議「49th European Conference on Optical Communications (ECOC)」に採択されることになるという。

光ファイバーにおいては、将来の通信需要の増大に対応するため、空間分割多重技術が注目を集めている。

既存の光ファイバーは、光を伝播する1本のコアと、それを取り巻くクラッドで構成されているが、高速、大容量化が求められるなかで、この仕組みのまままでは、伝送容量に限界が訪れるとの指摘がある。それを解決するためにNTTでは、MCFなどの空間分割多重技術の研究に取り組みできた。

MCFは、光ファイバーのなかに複数のコアを持ち、コア数に比例した大容量伝送が可能になるが、伝搬する距離が長くなると光が減衰するため、数100kmの通信を行うには、数10kmごとに増幅器を用いるのが一般的だ。ここに、既存の増幅技術を用いると、MCFであっても、コア数に応じた増幅器を設置する必要があり、コストが拡大するとともに、増幅器を動かす電力が増加し、伝送路全体の消費電力も増加することになる。

  • 伝送容量と消費電力の関係の概要

    伝送容量と消費電力の関係の概要

今回の技術では、増幅器にもマルチコアの考え方を適用し、一括で増幅することで、伝送容量は拡大しながらも、消費電力を抑えることができるようになる。

  • 伝送路の光ファイバのマルチコア化と光増幅器の構成

    伝送路の光ファイバのマルチコア化と光増幅器の構成

「これまでのMCFは大容量化が目的とされていたが、ここに省エネルギー化という新たな付加価値を提案できるようになった」と自信をみせる。

既存の光増幅器では、コアに信号光が伝搬しているなかに、それとは種類が異なる励起光と呼ばれる光を混ぜ、励起光のエネルギーが信号光に移り変わることで、信号光が増幅されるという仕組みになっている。これによって、増幅器による長距離化を実現している。だが、コアが増えれば、それぞれのコアごとに励起光が必要になるという課題があった。

今回開発した光増幅器は、「クラッド励起方式」と呼ばれ、コアに伝搬していた励起光を、光ファイバーの断面全体に伝搬させ、断面内に存在するコアの信号すべてを増幅できるのが特徴だ。

これにより、ファイバーのなかにコア数がいくつあっても、励起光はひとつで済むため、励起光レーザーの数もひとつで済む。省電力性に優れている仕組みといえる。 だが、これを実用化する上では課題があった。それは、励起光と信号光の重なりが、既存の光増幅器に比べて小さいため、結果として、エネルギーの移行が小さく、それを解決するためには励起光のパワーを高める必要があり、省電力性の効果が限定的であったという点だ。

NTTでは、増幅用光ファイバーのなかに、12コアを高密度に配置したマルチコア構造を用い、断面内におけるコアの面積比率を最大化することで、励起光の使用効率を高めたという。

  • クラッド励起方式の概要

    コア励起方式の概要(左図)、クラッド励起方式の概要(右図、提案方式)

「開発した光増幅器では、コア径を大きくする一方で、ガラス径を細くし、励起光と信号光の重なりが大きくなるように最適化した。一般的には伝送路光ファイバーの直径は125μmであるが、増幅器光ファイバーでは90μmと細くしながら、内部のコア径を大きくした。これにより、励起光が、効率よく信号光にエネルギー移行し、従来技術に比べて消費電力が52%低減できた」という。

  • コアの面積比率

    コアの面積比率。コア密度の最大化設計の概要

  • コアまたはクラッド励起増幅器の消費電力比較の概要

    コアまたはクラッド励起増幅器の消費電力比較の概要

さらに、光増幅器の構成を最適化することで、励起光の損失を最小化できたことも課題解決に貢献している。

新たに開発した増幅用光ファイバーはコア面積比率を高めるために、細いデザインとしているため、伝送路光ファイバーとはガラス径が異なる。そのため、接続点において、隙間から励起光が損失するという問題があった。そこでテーパー構造と反射デバイスを採用することで、励起光損失と残留励起光を低減するとともに、光増幅の効率を高めることに成功したという。

  • 励起光結合損失および残留励起光の最小化のイメージ

    励起光結合損失および残留励起光の最小化のイメージ

「励起光のなかには、信号光にエネルギーが移らず、使用されないままのものが少なからずある。従来技術では、これを除去し、無駄にしていたが、この部分を再利用し、吸収されなかった励起光をデバイスで反射させ、増幅用光ファイバーに再入射する構成とした。テーパー構造がない場合に比べて、11%の消費電力の低減を実現し、さらに反射デバイスにより、4%の消費電力の低減につながった」という。

  • 今回開発されたマルチコア伝送+一括増幅システムの概要

    今回開発されたマルチコア伝送+一括増幅システムの概要

今後は、伝送路光ファイバーと光増幅器をリレー形式で結び、実際の通信環境における長距離伝送での検証を行い、大容量長距離通信と省エネルギー化の両立を実証していくという。

  • 今後の方向性

    今後の方向性