大阪大学(阪大)は9月13日、従来デバイスとまったく異なる材料・構造の波長変換デバイスを提案・作製し、人体に無害な形で消毒や殺菌に利用可能な波長229nmの深紫外光を発生させることに成功したと発表した。

  • AlN極性反転構造を用いた波長変換デバイス。

    AlN極性反転構造を用いた波長変換デバイス。(出所:阪大Webサイト)

同成果は、阪大大学院 工学研究科の本田啓人大学院生、同・上向井正裕助教、同・谷川智之准教授、同・片山竜二教授、三重大学大学院 工学研究科の正直花奈子助教(現・京都大学 工学研究科附属工学基盤教育研究センター 講師)、同・三宅秀人教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、(日本)応用物理学会が刊行する欧文学術誌「Applied Physics Express」に掲載された。

現在、医療機関や公共機関、家庭での殺菌・消毒などの用途として、波長222nmの「エキシマランプ」や、波長265nmの「深紫外光LED」が市販されている。しかし、前者は効率が低く寿命が短いこと、後者は人体に有害なため応用範囲が限られることなど、どちらも課題を抱えている。また非線形光学結晶を用いた波長変換による高出力深紫外光レーザもあるが、あくまでこのレーザは産業用であり、上述した用途には不向きだ。

それに対し、波長210nmまで透明で高い光学非線形性と光損傷耐性を有する窒化物半導体の「窒化アルミニウム」を用いれば、人体に無害で強い殺菌・消毒効果がある波長220nm~230nmの深紫外光を発生することのできる、小型で高効率な波長変換デバイスを実現できるという。

小型・高効率な波長変換デバイスには主に強誘電体結晶が用いられているが、これらは深紫外光に対して不透明なため、深紫外光発生に適用できないとする。また従来型の波長変換デバイスでは、分極の向きを光波の伝搬方向に短い周期で反転させる必要があり、深紫外光発生に必要な周期1μm程度の分極反転構造を窒化物半導体の結晶成長で実現することは、ほぼ不可能だったという。

それに対して研究チームは今回、窒化アルミニウムの分極の向きを垂直方向に反転させて積層した新規構造を提案。三重大の研究チームが開発した「窒化アルミニウム極性反転積層構造」を用いて実際に波長変換デバイスを作製し、非線形光学効果の一種である「第二高調波発生」による深紫外光発生を試みることにしたとする。なお第二高調波発生とは、非線形媒質にある周波数のレーザ光を入射した時、その2倍の周波数(半分の波長)の光波が発生することをいう。これは、半導体レーザや固体レーザで直接発生できない波長の光波を得るために用いられている波長変換技術だ。

今回の研究では、結晶の極性が積層方向に反転された窒化アルミニウム薄膜をコアとする「光導波路」によって、深紫外光への波長変換が可能であることが見出された。窒化アルミニウム極性反転構造は結晶成長技術により成膜され、それを用いて半導体の微細加工技術によって光導波路構造を形成し、窒化アルミニウム極性反転光導波路を作製したとのこと。そして同デバイスに波長458nmのレーザ光を照射したところ、波長229nmの深紫外光を発生させることに成功したという。

  • 作製されたAlN極性反転光導波路のSEM像。

    作製されたAlN極性反転光導波路のSEM像。(出所:阪大Webサイト)

  • 検出された深紫外光の信号。

    検出された深紫外光の信号。(出所:阪大Webサイト)

この窒化物半導体極性反転積層構造は、第二高調波発生に限らず、類似の構造でも、異なる波長やほかの非線形光学効果を応用したデバイスを実現することが可能とする。また極性反転回数を増やすことで高効率化も可能なことから、研究チームは、光量子情報処理に必須のスクイーズド光発生デバイスの実現も期待されるとしている。