横浜国立大学(横国大)、多摩六都科学館、名古屋大学(名大)、中部大学の4者は8月23日、分類が混乱していた発光するトビムシの正体を確認し、またトビムシの発光能を試験する独自手法を考案して、日本の既知種の中から合計4種が発光することを確認したと共同で発表した。

  • ザウテルアカイボトビムシとその発光している様子。

    ザウテルアカイボトビムシとその発光している様子。(出所:共同プレスリリース)

同成果は、横国大の大平敦子 社会人大学院生(現・多摩六都科学館学芸員)、同・中森泰三准教授、同・松本幸学部生、名大大学院 理学研究科・高等研究院の別所学特任助教、同・加藤巧己大学院生、中部大 応用生物学部 環境生物科学科の大場裕一教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、動物に関する全般を扱う学術誌「Zootaxa」に掲載された。

日本でも身近な環境に棲息するトビムシは、体長がわずか数mmしかなく、陸上の発光する節足動物としては世界最小クラスの大きさだ。トビムシ類の脚は6本だが、腹部に粘管という特有の器官を持つ点で昆虫とは区別され、世界で約9000種、日本で約400種が知られている。

トビムシ類の中には光る種がいることが古くから示唆されていたが、その正体は不確かだったとのこと。その中で、刺激を受けて光る日本産の赤いトビムシは、発光することが世界で唯一画像に収められていた。また種を特定する手掛かりとなるDNAバーコードも得られていたが、分類学的な混乱により、種名の決定には至っていなかったという。そこで研究チームは今回、DNAバーコードを手掛かりに発光トビムシの探索を行い、その正体解明および既知種の中からの発光性種の発見を目指したとする。

まず、大平氏ら横国大の研究チームが、発光トビムシとDNAバーコードが一致する種を見つけ出し、その形態的特徴から「ザウテルアカイボトビムシ」であることを突き止めることに成功。次に、名大の別所特任助教らの研究チームが、同トビムシが発光する様子を動画で撮影。そして中部大の大場教授は、同トビムシが緑色に光るということを科学的に確認したとする。

実は、ザウテルアカイボトビムシは1906年に日本から新属新種記載されたが、その論文中の記載は種を特定するには不十分だったとのことだ。また日本には数多く赤いトビムシが存在するうえ、新種記載の証拠となる標本が戦争の混乱で失われたこともあり、アカイボトビムシ属全体の分類が混乱していたという。

ところが近年、ザウテルアカイボトビムシの証拠標本が大英博物館に残されていたことが判明し、今回その証拠標本をもとに日本産の赤いトビムシを調べ直した結果、神奈川県にいるものが真のザウテルアカイボトビムシであることが確認され、それが発光トビムシの正体であることがわかったとする。

このことから、これまで間違ってザウテルアカイボトビムシと呼ばれていた東北産の赤い大きなトビムシについては、標本の採集場所が恐山だったことから、新たに「オニイボトビムシ」と命名された。なお、同種が発光するかは未検証だという。

また研究チームによると、発光トビムシは、古くは1709年に出版された「大和本草」(日本最初の本草学書)にも記載されており、文章からもスケッチからもトビムシなのかすら謎ではあるが、ザウテルアカイボトビムシがその正体の可能性があるとしている。

  • アメイボトビムシ属の一種(Vitronura giselae)とその発光している様子。

    アメイボトビムシ属の一種(Vitronura giselae)とその発光している様子。(右端)1709年に出版された「大和本草」に記載されている謎の発光「トビムシ」。(出所:共同プレスリリース)

さらに研究チームは、独自に考案した手法で、東京都~沖縄県で採集されたトビムシ計12種の発光能を試験し、日本の既知種の中に3種の発光トビムシがいることを発見した。トビムシは刺激を受けて光るが、再現可能な刺激の与え方が知られていなかったという。そこで今回は音響装置を用いて、誰でも同じように刺激を与える方法を考案し、一定の精度で発光能の評価を行えるようにしたとする。

そして日本の「アミメイボトビムシ属」のすべての既知種について発光能の試験を行った結果、同属からも発光種が発見されたうえ、さらにもう1種発見され、発光するトビムシは以下の4種となった。

  • ザウテルアカイボトビムシ(神奈川県と東京都で発見)
  • ヤンバルイボトビムシ(沖縄県の山林内に棲息)
  • アミメイボトビムシ属の一種のVitronura giselae(日本を含めて世界に広く分布し、国内では東京都と滋賀県で発見)
  • クニガミイボトビムシ(沖縄県の山林内に棲息)

ちなみに、トビムシがなぜ発光するのかという理由について、研究チームでは“自身が不味い”ということを天敵に光で警告しているためと推測しているという。ザウテルアカイボトビムシは、刺激を受けて光るほかに、強く刺激すると防御物質も出す。光るトビムシは不味いということを天敵が学習すれば、光ることで、自身の不味さを天敵にアピールできる可能性があるとしているものの、この推測が正しいかどうかは今後の検証が必要とする。

トビムシは昆虫とは別系統で昆虫よりも古くから地球上に出現し、ホタルとは独立に発光能を獲得したと考えられるという。そのためこのトビムシは、発光生物の多様性や起源を解明するための研究材料として期待されるとしている。