日本IBMは3月27日、2018年に製薬企業や医療機関など約20の企業や団体と設立したコンソーシアム「ヘルスケア・ブロックチェーン・コラボレーション(HBC)」で塩野義製薬、武田薬品工業、田辺三菱製薬、ファイザーを中心に検討してきたブロックチェーン技術を活用した医薬品の流通経路および在庫の可視化に関し、4月から運用検証を開始すると発表した。

医薬品は品質の保持や偽造医薬品の流通防止といった適正流通の観点から、工場出荷から廃棄まで追跡を可能にするトレーサビリティの強化が求められ、欧米ではすでに法制化されている。

医薬品の流通データは、製薬企業、医薬品卸、医療機関それぞれの一部が連携されているが、一貫して繋がっておらず分断管理された状態にあり、それらをブロックチェーン技術を用いることでデータに対して安全にアクセスすることができる一貫したプラットフォームを構築することで新たな価値の創出が可能だという。

また、喫緊の課題である医薬品の安定供給に対しても、プラットフォームでは各参加医療機関の在庫情報の把握が可能となるため、地域あるいは地域を超えての偏在庫を把握しその情報を調整に活用するなどの貢献が可能と考え、この観点でも検証を行う計画だ。

一方でプラットフォーム構築への期待は高まっているものの、製薬企業、医薬品卸、医療機関に加え、物流会社といったステークホルダーが多く、新たなルール作りや関係調整などの対応負荷は膨大であり、実現に向けての活動は本格化していなかったと指摘。

そこで、まずは将来に向け医薬品流通の新たなインフラを構築しようという理念のもと有志企業が集まり、新たな取り組みにチャレンジする地域の協力も得ながら運用検証を行うこととした。運用検証で成果や課題が具体化され、新たな社会インフラ構築のきっかけにしたいと考えており、運用検証結果をもとに、国や関連業界団体などに働きかけていく方針だ。

HBCでは、日本においても医薬品を安心・安全に医療機関および患者に届けるために、製薬業界にとどまらず医薬品卸および医療機関、医薬品物流を担う物流企業とも協力して医薬品流通経路・在庫を可視化し、トレーサビリティ実現する「医薬品データプラットフォーム」を検討してきた。

4月からの運用検証では、サプライチェーン全体の在庫の可視化による医薬品の安定供給、地域におけるデータ利活用による地域医療への貢献、将来的な事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)対応も目指す。

  • 「医薬品データプラットフォーム」の目指す姿

    「医薬品データプラットフォーム」の目指す姿

今回、これまでHBCで検討してきた4社の製薬企業と日本IBMに加え、協力企業として沢井製薬、武田テバファーマ、日医工、ほか2社の製薬企業5社、アルフレッサ、スズケングループ、東邦ホールディングス、メディパルホールディングス、バイタルケーエスケー・ホールディングス、フォレストホールディングス、ほくやく・竹山ホールディングスの医薬品卸7社、日本通運、日立物流、三井倉庫ホールディングス、三菱倉庫の物流会社4社が参加する。

参加・協力各社は、医薬品について、工場出荷から医療機関、薬局における処方、調剤、投与までの一連の流れを医薬品データプラットフォーム上で検証する。

さらに、参加医療機関などにおける医薬品在庫情報を各参加者はアクセス権限に基づいて参照できるようにし、偏在庫の解消を検証するほか、品質管理情報として温度管理の在り方など医薬品の適正流通(GDP:Good Distribution Practice)やBCP対応方針について検討します。

加えて、地域医療への貢献を目指し、医療機関などにおける薬剤使用情報を地域フォーミュラリ推進支援に役立てるための機能の開発も予定している。

今回の運用検証では、すでに米国で新型コロナウイルス感染症向けワクチン流通に利用されているIBMのソリューションを採用。

同社がFDA(米国食品医薬品局)Pilotプログラムから得た知見をもとに、ブロックチェーン技術とGS1(流通コードの管理および流通標準に関する国際機関) StandardのEPCIS(Electronic Product Code Information Service:サプライチェーンを可視化するため、商品の移動情報をサーバに蓄え共有するための仕様)により工場出荷からワクチン接種までの流通データを製薬企業、医薬品卸、医療機関、物流会社や当局などの各ステークホルダーに情報が連携される仕組みを提供している。