米国航空宇宙局(NASA)とボーイングは2021年10月20日(日本時間)、今年8月にトラブルにより打ち上げ中止となった有人宇宙船「スターライナー」について、原因の調査結果を発表。今後の見通しについて説明した。

トラブルの原因は、スラスターのバルブの腐食と結論。対策や改良を施し、2022年前半の打ち上げを目指すという。

  • スターライナー

    2回目の無人試験飛行に向けて準備中の、ボーイングの「スターライナー」宇宙船。今年8月に打ち上げられる予定だったが、トラブルにより延期となった (C) Boeing/John Grant

スターライナーOFT-2

スターライナーは、米国の大手航空・宇宙メーカーのボーイングが開発している有人宇宙船で、国際宇宙ステーション(ISS)に宇宙飛行士を輸送することを目的としている。

NASAは2006年から、ISSへの物資補給を民間企業に委託する計画を開始。2011年からは、宇宙飛行士の輸送も委託する「商業クルー計画(Commercial Crew Program)」が始まり、ボーイングと米宇宙企業スペースXが参画。NASAからの資金提供を受けて、ボーイングはスターライナーを、スペースXは「クルー・ドラゴン」宇宙船を開発した。

両社はそれぞれ、NASAから定められた要件や試験項目をこなし、開発完了後はNASAからの輸送サービス契約に基づき、NASAやISS参加国の宇宙飛行士の輸送を担うことになっている。

スターライナーは2019年12月20日に、無人での軌道飛行試験(OFT-1:Orbital Flight Test-1)のため、初めて宇宙へ打ち上げられた。当初はISSにランデヴーし、ドッキングを行うことも計画していたが、ソフトウェアや通信に複数のトラブルが発生。ミッションを途中で打ち切り、打ち上げから約48時間後に緊急着陸する事態となった。

帰還後、NASAやボーイングは「一定の成果が得られた」としたものの、その後、再度無人での飛行試験「OFT-2」を行うことを決定。OFT-1で起きたトラブルの改修を経て、今年8月に打ち上げに臨んだ。

ところが、打ち上げ準備中に軌道制御・姿勢制御(OMAC)スラスターのバルブが固着するというトラブルが発生。スターライナーはすでにロケットに搭載された状態だったが、すぐには解決できず、打ち上げは中止。ロケットから降ろされ、徹底的な原因調査が行われることになった。

今回の発表によると、トラブルの原因は、スラスターの酸化剤である四酸化ニ窒素(NTO)が、バルブのテフロンのシールに浸透し、反対側にあった水分と反応。その結果、硝酸が発生してバルブを腐食させ、バルブが閉まった状態のまま固着してしまったと結論づけたという。

この水分は、夏のフロリダの湿気によって発生したとされるが、そうした気候条件は設計段階で想定しており、また事前の試験も繰り返し行っており、なぜ打ち上げ直前で発生したかはわからないという。

ボーイングでスターライナー計画の責任者を務めるジョン・ヴォルマー(John Vollmer)氏は「これまで、工場での検査や試験を何度も何度も行っていますが、こうした問題が出るという兆候はありませんでした。発射台上での緊急脱出試験、スラスター単体での燃焼試験、そしてOFT-1ミッションでも問題の兆候はありませんでした」とコメントしている。

また、NTOがテフロン・シールに浸透することも珍しくはなく、通常はNTOを宇宙船のタンクに入れたあとの保管期間を定めることで動作保証をしているという。ただ、スターライナーではその保管期間を60日間としていたのに対し、今回のトラブルは46日目で発生したという。

これを受けて、ボーイングはNASAと協力し、詳細な検査や再現試験などを実施するとしている。また、並行して対策も進め、バルブ付近に乾燥剤を追加したり、バルブにヒーターを追加したりといった設計変更や、打ち上げ前に水分を吹き飛ばすための追加のパージを行うといった手順の追加などを検討しているという。

ボーイングでは「いくつかの検証作業が残っていますが、原因に対する確信は十分に高く、是正措置と予防措置を開始しています。今後数週間のうちに、宇宙機とコンポーネントの追加試験を行い、原因究明と必要なシステムの改善を行います」としている。

なお、延期や改修などにともなう追加費用は、ボーイングがすべて負担することになる。

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    2回目の無人試験飛行に向けて準備中のスターライナー宇宙船 (C) NASA/Aubrey Gemignani

新しい打ち上げ予定と影響

OFT-2の新しい打ち上げ日については、2022年前半を目指すとしている。正確な時期は、トラブルの調査や宇宙船の改修の進捗状況、他のロケットの打ち上げ予定との兼ね合い、ISSのドッキング・ポートの空き状況などにより左右されるとしている。

OFT-2が無事に成功すれば、その後有人での試験飛行が行われる。計画が順調に進んだとしても、2022年後半となる見込みである。

NASAの商業クルー計画では、スペースXが先行しており、すでにクルー・ドラゴンの開発は完了し、2020年11月から運用段階に入っている。すでに2機の運用機が飛行し、今月末には3号機の打ち上げも計画されている。

スターライナーの開発の遅れにより、宇宙飛行士の輸送計画にも影響が出ている。本来、スターライナーとクルー・ドラゴンの2機を同時に運用することにより、効率的な運用や冗長性の確保、リスク低減などを目指していたが、現時点ではクルー・ドラゴンしか飛行していないため、達成できていない。

今月には、もともとスターライナーに搭乗する予定だったNASA宇宙飛行士のニコール・マン(Nicole Mann)氏とジョシュ・カサダ(Josh Cassada)氏の2人が、クルー・ドラゴンの運用5号機に搭乗機を変更することが発表されている。

  • スターライナー

    2回目の無人試験飛行に向けて準備中のスターライナー宇宙船 (C) NASA

参考文献

NASA, Boeing Update Starliner Orbital Flight Test-2 Status - Commercial Crew Program
NASA, Boeing Update Starliner Orbital Flight Test-2 Status
NASA, Boeing to Provide Update on Boeing’s Orbital Flight Test-2 - Commercial Crew Program
Boeing: Starliner CST-100 Reusable Spacecraft Capsule