民間最終消費支出におけるキャッシュレス決済比率は2023年時点で39.3%となり、政府の掲げる2025年大阪・関西万博までにキャッシュレス決済比率4割程度という目標に対し順調に伸び続けている一方で、クレジットカード不正利用被害額も右肩上がりに増加しています。

今回は、日本クレジット協会の副会長でもあり、日本で唯一の国際カードブランドである株式会社ジェーシービーの二重社長に業界の現状や課題と同社の今後の展望についてお話を伺いました。

二重 孝好(ふたえ・たかよし) 磯野 悠香(いその・はるか)
1961年(昭和36年)生
1983年 4月 株式会社三和銀行 入行
2010年 6月 株式会社三菱東京UFJ銀行 執行役員 国際法人部長
2011年 5月 株式会社三菱東京UFJ銀行 執行役員 企業審査部長
2014年 5月 株式会社三菱東京UFJ銀行 常務執行役員
企業審査部・融資部・審査部・CIB審査部の担当
2016年 5月 株式会社三菱東京UFJ銀行 常務執行役員
アジア・オセアニア本部長
2017年 5月 株式会社三菱東京UFJ銀行 専務執行役員
アジア・オセアニア本部長
2019年 6月 株式会社三菱UFJ銀行 取締役専務執行役員
グローバルコマーシャルバンキング部門長兼COO-I
(経営企画部(海外事業)・国際事務企画部担当)
2021年 4月 株式会社三菱UFJ銀行 取締役副頭取執行役員
グローバルコマーシャルバンキング部門長
兼COO-I(経営企画部(海外事業)・国際事務企画部担当)
2022年 9月 株式会社ジェーシービー 執行役員副社長 総合企画部担当
2023年 6月 株式会社ジェーシービー 代表取締役兼執行役員社長(現任)
一般社団法人日本クレジット協会 副会長(現任)
北海道出身。
東洋大学文学部英語コミュニケーション学科卒業。
2017年4月〜2019年3月までNHK帯広放送局契約アナウンサーとして
「ほっとニュース北海道」「おはよう北海道」
「ひるまえナマら!北海道」などの番組で
キャスター&リポーターとして活躍。
2019年4月~2021年3月まで
NHK京都放送局契約アナウンサーとして
「ニュース630 京いちにち」「ニュースほっと関西」
「おはよう関西」など多くの番組でリポーターを担当。
その他、ナレーションやイベントMCとして幅広く活躍中。

クレジット業界を取り巻く環境

拡大を続けるキャッシュレス決済市場が更に成長するためには

磯野:政府は、2018年4月に策定した「キャッシュレス・ビジョン」に基づき、キャッシュレス決済比率を2025年の大阪・関西万博までに4割程度、将来的には世界最高水準の80%にするという目標を掲げてキャッシュレス決済の推進に取組んでおり、2023年にはキャッシュレス決済比率が39.3% になりました。この目標に向けて、キャッシュレス決済が決済手段として着実に浸透しています。このような状況を踏まえた業界の現状についてお考えをお聞かせください。

二重:「キャッシュレス・ビジョン」の公表以降、政府主導による「キャッシュレス・ポイント還元事業」、コロナ禍を経た人々の行動様式の変化、およびEC取引拡大等により、個人によるキャッシュレス取引は飛躍的に伸びました。

私は日本の産業界を長く見てきましたが、わが国のGDP成長率が1%前後の水準に留まる中、キャッシュレス業界の取扱高は100兆円を超え、年率10%以上の伸びを実現しており、今後も高い伸びを期待しています。

磯野:昨今の決済ビジネスにおいて、業界を取り巻く環境が著しく変化してきており、業界全体として対応が求められています。このような状況において、クレジット市場の今後の動向についてお考えをお聞かせください。

二重:先ほどもお話しましたように、個人によるキャッシュレス取引はこれまで順調に成長してきており、今後も成長が期待されます。一方で、約1,200兆円の取引額と言われる法人決済においては、キャッシュレス取引の導入比率は1%程度にとどまり、ここには大きな伸びしろがあると認識しています。法人決済におけるクレジットカード取引の対象は、これまでは、出張旅費・交際費・光熱費・ガソリン・ETC等に留まっていましたが、デジタル広告・クラウドサービス・SaaS利用料などの新しい分野にも広がっております。これら新しい分野のサービス提供事業者は、与信審査や回収リスクを回避すると共に、入金確認といった事務手続きを省略するために、カード決済を利用されるケースも多く、今後も加速するEC取引の拡大により、更なるカード取扱範囲の拡大が見込まれます。

また、昨年10月のインボイス制度、本年1月の電子帳簿保存法の改定、働き方改革関連法や円安影響による人手不足、さらに、2026年に予定されている手形・小切手廃止等により、お客様のペーパーレス化・DX化など行動様式変化と合わせて法人キャッシュレス取引の増加も見込まれます。これらの環境変化および制度面への対応を含め、業界としてお客様ニーズに合致した柔軟かつ適正な対応を進めていく必要があると考えます。

個社としての取り組み

業界を先導するJCBのこれまでと協働がもたらす化学反応について

磯野:JCBのこれまでの歩みを教えてください。

二重:当社は1961年に設立され、これまで63年間にわたり、日本のお客様のためにクレジットカードのある生活を創造し、更なるサービス向上に向けて取組んできました。例えば、今では当たり前となったポイント制度・口座振替・ギフトカードなどを他社に先駆けて導入、業界の変化を先導してきた会社です。また、1970年代以降の日本人の海外旅行や日本企業の海外進出を受け、1981年には新たな挑戦となる海外進出を決断した会社でもあります。現在、日本のクレジットカード業界や決済のあり方が大きく変わろうとし、また、訪日外国人旅行者が急増する新しい人の動きがあるなか、これまでの歴史を引き継いで、創造・変化・チャレンジに取組んでいきたいと考えています。

また、当社は日本で生まれた唯一の国際カードブランドとしての立場だけで無く、エンドユーザーにカードを発行するイシュイング事業、加盟店と契約するアクワイアリング事業、さらには、グループ会社を通じた日本最大規模のカード決済ネットワーク運営や、海外事業展開に至るまでを行う企業です。これだけ幅広い事業展開を行うには、様々なパートナー企業との信頼関係は欠かせず、その信頼をベースとした協働によって、お客様に対してユニークなサービスを提供したいと思っています。今の時代は、当社1社でサービスを提供するのでは無く、パートナー企業との協働により、化学反応を起こし、お客様に便利で楽しいサービスを安全・安心な環境で提供したいと考えています。

そして、海外に目を向けますと、約160の国と地域でJCBカードをご利用いただける環境を整えていますが、国内外のパートナー企業様のおかげで、2022年度の国内外を含む取扱高は約43兆円、発行カード枚数は、約1.5億会員まで到達しています。

様々な立場でお客様と繋がっている強みを生かし、いち早くニーズを捉え、決済総合ソリューション企業として、JCBにしかできない付加価値を今後も提供していきたいと思っています。

磯野:今後の貴社の展望についてお聞かせください。

二重:今後注力していく分野の中から「法人決済」「訪日インバウンド」および「決済認証技術の活用」の3つの分野についてお話したいと思います。

まず1つ目は、法人領域の取り組みについてです。先ほど、法人領域の大きな伸びしろについてお伝えしました。

JCBは、請求管理・経費精算システム、ならびに会計ソフトを提供する計17社とカード利用明細の自動連携を実現しており、お客様のニーズによって異なるサービスを提供できる環境を整えています。

また、法人カード決済の裾野拡大に向けた取り組みとして、デジタルガレージと連携した「請求書カード払い」により、加盟店契約が無い支払先に対してもカード支払いを可能とすると共に、ネットプロテクションズと連携した「NP掛け払い」により、請求や回収を同社に委託できるサービスも提供しています。

また、当社発行の法人カードに対し、近年リスクが高まっている情報セキュリティ管理に十分な対応が難しい中小企業様のサポートを目的としたサイバーリスク保険を付帯し、無料のリスク診断・情報提供・トラブル発生時のサポート、専門家紹介等のサービスを提供しています。このように、環境やお客様ニーズの変更に応えながら、法人取引拡大に注力していきたいと考えております。

2つ目の注力分野は、「訪日インバウンド」です。私自身、15年間にわたり、海外駐在をしていたのですが、日本は、一般的に観光立国化に必要な4条件である「気候・食・自然・文化」に加え、「清潔・治安の良さ」も持ち合わせており、「世界一訪れたい国」になるポテンシャルが充分あると考えています。

JCB ブランドの海外会員数は3,500万人に達しています。特に力を入れている台湾およびASEAN4ヵ国のタイ・インドネシア・ベトナム・フィ リピン合計では、過去4年で会員数が倍増、取扱高は3倍増となっています。昨年の中国旧正月の時期には、訪日旅行者向けキャッシュバック・キャンペーンを実施し、今年もASEAN旅行者向けキャンペーンを行いましたが、日本全国の加盟店を一社でカバーする「シングルアクワイアリングJCB」ならではの施策であり、これからも観光立国化・地方創生に貢献したいと思っています。

3つ目、最後の注力分野は、「決済認証技術の活用」です。お客様に対し、信頼できる認証技術を活用した具体的な事例として、メタバース事業についてお話します。

メタバースはインターネットの三次元化とも言われていますが、インターネットが登場し様々なビジネスが生まれたように、コンピューターの性能・通信速度・3D技術の進化にあわせて新たなビジネスの登場が期待できます。一方、メタバースの成長には心地よいUI・UXやコンテンツが不可欠ですが、これまでユーザーに最新のオンライン体験を提供してきたゲーム産業の技術は、メタバースにおいても優位性があると考え、ゲーム産業を出自とするTBTグループと協働しています。

そして、TBTグループと当社では、メタバース領域でも現実世界と同等以上の信頼できるコミュニケーション・取引環境を用意するために、自身の身分証明を簡単に提供できるMULTI MAGICPASSPORT の構築を目指しています。

磯野:業界が抱える課題およびそれに対する取り組みについてはどのようにお考えでしょうか。

二重:全ての土台となるのは、やはり安全・安心な取引環境の整備・提供であると考えますが、2023年の不正取引は業界全体で過去最悪となる約541億円を記録しており、対策が急務です。

こうした状況を受け、EMV3-Dセキュアの導入や犯罪者によるカード情報不正入手の排除に向けた送信ドメイン認証技術のDMARC 導入を当社も進めています。お客様が安心してカードを利用頂ける様、当社が発行しているカード会員向けのサービス「MyJCB」の新機能として「My 安心設定」も用意いたしました。具体的には、カードご利用都度の利用者への通知機能や一時的にネットショッピングや海外取引を制限する機能、また、お客様自らが設定された利用金額の到達時に通知を行う、使い過ぎアラートなどがご利用いただけます。

また、JCB独自開発の配送停止システム「MATTE」によって不正利用時の配送停止も行なっており、安全・安心なカードのご利用に向けて注力しています。加えて、こうしたJCB個社の対策に加え、他ブランドのカード会社や加盟店も含めた業界全体での更なる不正対策の枠組みを構築すべく、多くのイシュアへ不正検知システムを提供しているインテリジェントウェイブ(IWI)と協業し、同社の共通スコアリングやカード不正利用情報の還元と共にJCB 独自の「MATTE」を他ブランドでも利用可能とすべく、約50社のイシュア・アクワイアラともPOC・導入交渉を開始しており、業界全体としての対応強化に注力しています。

日本クレジット協会が果たす役割

業界全体における不正利用対策の強化と消費者への啓発活動について

磯野:クレジット業界が果たすべき役割、また協会が果たす役割について協会副会長のお立場からお考えをお聞かせください。

二重:政府が掲げるキャッシュレス決済比率40%に向け順調な成長を続ける中、協会は、安全・安心な取引環境の提供に向け、会員企業や消費者の皆さまをはじめ社会に対して貢献できる組織であることを目指しています。

先ほど、JCBにおける不正取引に対する取り組みをご紹介させていただきましたが、クレジット業界全体として、2025年3月末までのEMV3-Dセキュア導入を進めると共に、経済産業省・クレジット業界などで構成される「クレジット取引セキュリティ対策協議会」においても、官民一体となった取り組みに貢献したいと考えています。

加えて、不正取引による被害を未然に防ぐことを目的として、不正取引防止に関する広報活動も協会として重要と考えております。消費者の皆さまへの周知・啓発活動を通じ、リスク感度を高めることも不正取引を抑止する大きな要因の一つになると考えております。

これからも、社会に対して安全・安心な環境を提供し続けるため、強い決意をもって取組んでまいります。

[PR]提供:日本クレジット協会