今、世界的に注目されている「人的資本経営」。はたらき方の多様化などにより、日本でもこの考えを重視し、積極的に取り組む企業が増えています。しかし、読者のなかには初めて聞いた、という方も多いのではないでしょうか?

そこで今回は、ユニークな人的資本経営に取り組み、人と組織に関わる多様なサービスを提供している、パーソルホールディングス株式会社の執行役員 CHROである美濃啓貴さんにインタビューを実施。人的資本経営への関心が高まっている背景についてうかがいつつ、パーソルグループの具体的な取り組みについてフォーカスしていきます。

  • パーソルホールディングス 執行役員 CHRO/美濃啓貴さん 1999年、パーソルキャリア(旧インテリジェンス)に入社。2013年より、同社 HITO本部(人事本部) 本部長就任。人事部門の組織改革から、育成、採用、制度の改革を実現し、理念経営を推し進める。2016年にパーソルホールディングス(旧テンプホールディングス)に転籍し、2017年執行役員(人事担当)就任。2020年4月より現職。

企業価値を高める「人的資本経営」って何?

――「人的資本経営」の基本的な概要について教えてください。

学術的にはいくつかの論説がありますが、私の理解としては、人的資本経営とは人材を資本として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上へとつなげていく経営手法です。もう少し分かりやすく説明すると、一般的に企業経営をするうえで役立つ要素や能力を指す「経営資源」のなかでも、ヒト、モノ、カネ、情報が「4大経営資源」と呼ばれています。そのなかで他の資源を動かす原動力となり、最も重要視されているのが“ヒト”です。ヒトの持つ知識、技能、資格、意欲などの能力すべてを資本とみなして、投資して価値を上げることで、企業の経済的利益につながるという考え方です。

最近、日本で関心が高まっている背景には、2023年3月期より一部の企業を対象に人的資本の情報開示が義務化されたことが挙げられます。また、少子高齢化による労働力人口の減少など社会的な背景も大きく関わっています。だからこそ総合人材サービスを提供するパーソルグループは、はたらくすべての個人を企業価値の源泉と捉え、多様な価値観に向き合える人材育成と環境づくりに重点的に取り組んできました。

パーソルだからできる「人的資本戦略」

――パーソルグループの人的資本の取り組みについて教えてください。

私たちは、激変する令和時代の多様な生き方やはたらき方に寄り添うべく、2019年に「はたらいて、笑おう。」を新たなグループビジョンにしました。そこには、人々が自分のはたらき方を自分で決め、豊かな人生を送ることができる社会を目指したいという想いを込めています。そして創業から50年の節目を迎えた2023年、「パーソルグループ中期経営計画2026」を発表し、「“はたらくWell-being”創造カンパニー」として、人の可能性を広げることで2030年に100万人のより良い“はたらく機会”を創出することを目指しています。

そんな当社では「多様な人材が”はたらくWell-being”を体現し、価値創造を推進する組織」を人的資本の目指す姿として掲げ、「“はたらくWell-being”の体現」「テクノロジー人材の拡充」「多様な人材が活躍する基盤の構築」の3つを構成要素として、取り組みを加速しています。

パーソルが推進する“はたらくWell-being”とは

――「“はたらくWell-being”の体現」を推進する具体的な施策として、取り組んでいることを教えてください。

パーソルグループでは、はたらくことを通して、その人自身が感じる幸せや満足感を“はたらくWell‐being”と定義しています。社員の“はたらくWell-being”向上には、エンゲージメントが重要であると考え、これまで重視していたエンゲージメント指標に加えて、Gallup社と共同開発した“はたらくWell-being”指標を組み入れた5つの項目を新たにグループ重要指標(「はたらいて、笑おう。」指標)と位置付け、当社独自のエンゲージメントサーベイで状態を把握し、その向上に取り組んでいます。

エンゲージメントが向上する要因として、「健康ではたらく」「関係性」「自律性」「自己効力感」「グループビジョンへの共感」の5つをエンゲージメントドライバーと設定し、網羅的に施策を展開しています。

5つのキードライバーのなかで最も力を入れているのが「自律性」です。パーソルグループには基本的にジョブローテーションという概念がなく、「自分のはたらくは、自分で決める」という考えを大切にしています。当社では「キャリアオーナーシップ」と呼んでいるんですが、社員一人ひとりが主体的にキャリアを形成する意向と行動を持って、その人らしいキャリアを形成していくために様々な取り組みを行っています。

たとえばグループ公募型異動制度「キャリアチャレンジ」は、所属会社や職種の枠を超えてグループ内のオープンポジションへ応募でき、選考に合格すれば異動することができます。この制度を利用する社員が年々増加しており、昨年は100名以上の異動が実現し、新たなキャリアを切り開いています。

また昨年からグループ内のダイレクトリクルーティング型異動制度「キャリアスカウト」を新たに導入しました。社員が経歴やスキル、キャリア意向を社内システムに登録することで、他部署から直接スカウトを受けて異動できる制度です。ほかにも労働時間の一部を使い、最大3カ月間、別部署の仕事を体験できる「ジョブトライアル」、先進的でユニークなワークショップや、NPOなどと協働を通じた社会課題解決の体験をベースに自己探求を行い、大切にしたい価値観や新しいキャリア観の視点を育む公募型研修「@(アット)」など、キャリアの選択肢がもっと広がるような制度・施策を実施しています。

それ以外にも、様々な研修プログラムを実施し、社員が自らのキャリアについて考えてもらう機会を設けることで社員一人ひとりのキャリアオーナーシップを支援しています。

社内複業もOK。はたらきやすい環境整備の推進

――「はたらき方改革」について、パーソルグループが取り組んでいることを教えてください。

多様な人材が活躍できる環境づくりの一環として、リモートワークの推進、フレックスタイム制度の導入、ドレスコードの原則自由化などに取り組んでいますが、そのなかでも特にユニークなのが「グループ内複業制度」です。

当社では本業と副業の区別を付けず、自身の能力を社会に役立ててほしいとの思いから「複業」という言葉を使っています。2019年よりグループの全社員を対象に複業を解禁し、2023年の1年間で1,000件以上の申請がありました。大学で講師をしている方やデリバリーサービスのドライバーをされている方など活躍は様々です。
それに加えて、グループ内複業制度を設け、エンジニアなどIT人材を対象に、グループ内の複業案件の掲載と応募ができる複業プラットフォームシステムを整備しました。今後、より幅広い社員がグループ内で複業できるよう、対象を広げていく予定です。

「自己実現」や「自己成長」に直結する健康増進に向けた取り組み

「健康経営」でも、はたらく社員一人ひとりが、心身の状態を資源として管理し、グループビジョンの実現に向けて、「自己実現」や「自己成長」に結び付けてはたらけている状態という、共通のビジョンを策定しました。そこで2020年からの3年間でストレスチェックの仕組みをグループ全体で統一することで、社員の精神的な健康状態をグループ統一基準で把握しています。

COVID-19感染拡大でリモートワークが普及して以降、グループ内でメンタルヘルス不調者が増えたことを踏まえ、在宅勤務やデジタルワークにおけるメンタルヘルス対策・健康維持方法を学ぶためのデジタルウェルネスプログラムも展開しています。今後も外部企業との共同研究や、テクノロジーを活用した実験的な健康施策の導入を行っていく予定です。

様々な取り組みを積み重ねた成果として、「はたらいて、笑おう。」指標のスコアは、年々アップしており、2023年の平均スコアは72.7%になりました。これを2025年には75%に引き上げることを目標に設定し、今後も社員の“はたらくWell‐being”向上に取り組んでいきます。

人の可能性をさらに広げる「テクノロジー人材の拡充」「多様な人材が活躍する基盤の構築」とは

――「テクノロジー人材の拡充」、「多様な人材が活躍する基盤の構築」ではどのような施策を展開しているのでしょうか?

私たちはテクノロジーを人の可能性をより広げる手段の1つとして捉えています。そこで、テクノロジーを最大限活用するために、デジタル化の推進における重要な役割を担う専門人材やノウハウを集約することを目的としたCoE組織(※1)を創設しました。さらにプロダクト開発に携わるテクノロジー人材を対象とした新しい人事制度「プロダクト・エンジニア制度(PE制度)」を新設するなど、テクノロジー人材の採用にも力を入れています。また、グループのテクノロジー人材の層を厚くしていくためにリスキリングとアップスキリングにも取り組んでいます。これらの施策により、2026年3月期までにグループ全体でテクノロジー人材を2,000名確保することを目標にしています。

※1 CoEとは……目的・目標を達成するために組織いる優秀な人材や設備などを横断的組織として1ヶ所に集約すること。

多様な人材が活躍する基盤の構築についても、「次世代経営人材の育成」と「全管理職の『最高のリーダー』化」をテーマに、新たな施策に挑戦中です。「最高のリーダー」を目指す上では、管理職の皆さんの自己研鑽の時間や成長機会をつくることも重要です。しかし一方で、ここ数年、管理職を取り巻く環境が変化しており、管理職の多忙化が問題になっています。管理職の負担を軽減し、管理職に心と時間の余裕を提供できる仕組みづくりを進めていきます。
また、女性管理職比率および男性育休取得率の向上など、ジェンダーを起点としたDI&E(※2)の進化にも力を入れています。

※2  DI&Eとは…Diversity,Inclusion&Equalityの略。パーソルグループでは、Equityを講じてInclusionとEqualityを目指す姿としていることから、Diversity, Inclusion & Equalityと表記しています。Diversity(ダイバーシティ):多様性。雇用の機会均等、多様なはたらき方。Inclusion(インクルージョン):包括・包含。個々を尊重すること。Equality(イクオリティ):等しいこと・同等・平等・対等。権利や利益が等しくあること。

派遣スタッフのWell-beingも向上させる パーソルグループが目指す未来とは

――今後、力を入れていきたい施策は何ですか?

パーソルグループは1973年に創業者である篠原欣子が、当時ははたらく機会が少なかった女性たちの社会進出を願い、派遣業を営むテンプスタッフ(現:パーソルテンプスタッフ)を起業したことから歩みを始めました。そうした経緯もあり、派遣スタッフの“はたらくWell-being”を高める施策に踏み込むことは私たちの使命だと思っています。

現在、パーソルグループでは14万人以上の派遣スタッフがはたらいていますが、その方々にいかに気持ちよく元気にはたらいてもらうか、そして従業員同様にスキルアップの向上を目指し、一人ひとりがはたらき方を選び、自分らしく生きることの実現がすごく重要な要素だと考え、「スタッフウェルビーイング委員会」を設立しました。仕事探しや成長とキャリア構築をサポートする「はたらく機会の創出」と、安心して安定的にはたらくための環境を整備する「ファンづくり」の2つを重点テーマに取り組んでいます。

派遣スタッフも人的資本に拡大して含めているのは、おそらく当社が初めてだと思います。こうしたスタッフウェルビーイングに対する取り組みも今後、ますます発展させていきたいと考えています。

パーソルグループ初となる「人的資本レポート」を発行、さらなる「はたらいて、笑おう。」の実現へ

――最後に、今後の目標を教えてください。

パーソルグループでは共通の人事ポリシーとして「Advanced HR Showcase」を掲げています。人的資本の取り組みの重要度と難易度はますます高まるなか、難易度の高い課題に対し、仮説を基に結果を科学しながら次の挑戦に生かしていく実験的人事に取り組み、発信していくことが、業界のリーダーとしての使命です。

2024年1月に、パーソルグループ初となる「人的資本レポート」を発行したこともその一環です。

パーソルグループの人的資本レポート

パーソルグループの人的資本レポート ※画像クリックで詳細へ

人的資本レポートとは、その会社の人的資本に対する考え方や具体的な取り組みを網羅的にまとめたものです。今回、発行した人的資本レポートには、幅広いステークホルダーの皆様に理解していただけるよう、当社の人的資本に関わる考え方や取り組みが網羅的に記載されています。当社のHPに掲載しているのでぜひご覧いただけると大変うれしいです。

パーソルグループ 人的資本レポートはこちら

その他にも、現在約30ほどの人的資本に関わるプロジェクトを進めているのですが、約8割が思うような成果を得ています。もちろん課題もありますが、さらなる成長に向け、産学連携しながら誠実で先進的な人事制度や人事施策に新たに取り組み、価値のある人的資本経営を実現し、グループビジョンである「はたらいて、笑おう。」を実現していきたいと考えています。

[PR]提供:パーソルホールディングス