日本IBMと順天堂大学は、メタバース上で、入院患者と面会ができるメタバース面会アプリ「Medical Meetup」を共同で開発し、一般提供を開始する。対応デバイスは、iPhone 8以降およびiPad第7世代以降となっており、7月31日から、App Storeを通じて配信する。

また、8月から10月まで、順天堂大学医学部附属順天堂医院小児医療センターにおいて、同アプリの運用および臨床研究を開始する。

  • 日本IBMと順天堂大学が共同で進めるメディカル・メタバース、利用拡大に期待

    メタバース上で、入院患者と面会ができるメタバース面会アプリ「Medical Meetup」

順天堂医院 副院長/順天堂大学大学院医学研究科膠原病・リウマチ内科学教授の山路健氏は、「Medical Meetupによって、癌などの高度な治療を受けているため、家族や友人に会えない患者や、新型コロナなどの感染症の流行による面会制限がある場合にも対応できるほか、相手の忙しさへの気遣いや、患者自身の身じたくの手間、見ための露出に抵抗感がある場合もそれらを軽減できる。患者と周りの人たちとのつながりを強化し、病気に立ち向かう力を支援する目的から、ぬくもりを感じることができるリモート面会を実現したい」と述べた。

  • 順天堂医院 副院長/順天堂大学大学院医学研究科膠原病・リウマチ内科学教授の山路健氏

Medical Meetupは、患者と面会者が、アバターを利用して、リゾート施設などを模した非日常空間で、音声によって自由に会話をしたり、気球などの乗り物で移動したり、ビーチで動物と触れ合ったり、ハイタッチやジャンプなどの動きが行えるなど、通常の面会の枠を超えた体験ができるのが特徴だ。

  • 「Medical Meetup」の概要と、開発の背景

アバターは、メニューをもとに、なりたい自分を表現できるようにしているほか、点滴を受けているために、腕の動作に制限がある患者向けには、アバターを操作するコントローラの位置を自身でカスタマイズできる機能などを搭載。患者や医療従事者にとって、使いやすさを考慮したデザインの採用により、患者がすぐに利用でき、どの施設でも導入しやすい設計としている。

  • 非日常空間でふれあい、ぬくもりを感じられることが、病気に立ち向かう力となり、患者のストレスや不安の軽減にもつながることを期待している

「非日常空間への没入と、アバターでの会話やふれあいによって、患者の面会を、より気軽に、よりリラックスして、よりぬくもりのあるものに変えることができる。多様なニーズにあわせた面会のあり方を提案でき、患者のストレスや不安の軽減にもつながることを期待している」とした。

  • Medical Meetupのメタバース空間はリゾート風で、通常の面会の枠を超えた体験ができることを目指している

順天堂大学と日本IBMでは、2022年にメディカル・メタバース共同研究講座を発足。順天堂医院をオンライン空間に再現した「順天堂バーチャルホスピタル」を構築し、これを起点にしたサービスの開発、提供を目指してきた。地域の病院などから紹介されて順天堂医院を訪れる人が緊張しないように、事前にバーチャル環境で病院を体験したもらったり、血漿交換療法といった説明が複雑になりがちな治療を疑似体験してもらい、患者や家族の理解向上や不安低減につなげたりといった取り組みが始まっている。

  • 2022年にメディカル・メタバース共同研究講座を発足

同講座では、テーマのひとつとして、メタバース技術を活用した時間と距離を超えた医療サービスの向上を検討し、患者や家族へのよりよい医療の提供を模索してきた。今回のメタバース面会アプリ「Medical Meetup」は、こうした観点から、患者の満足度向上を実現する取り組みとなる。

2023年8月1日から、順天堂医院小児医療センターに入院している小児患者と家族を対象にした運用、臨床研究を開始する。

順天堂大学大学院医学研究科小児思春期発達・病態学准教授の藤村純也氏は、「小児病棟は、両親との面会に限られており、感染症の予防の観点から、15歳以下の兄弟や、学校の友人との面会ができなかったり、病院の外に行きたくても、自由に行けなかったりする子供たちが多い。外泊や外出が難しいこと、両親による面会時間の希望が、仕事が終わった夕方や夜間などの場合が多く、医療者の対応が難しいという課題もある。Medical Meetupを利用して、メタバース空間で友人と対面したり、出かけたりといったこが可能になる。長期入院のため、遠足や修学旅行に行けなかった子供たちが、学校の友人や、院内の友人と一緒に、遠足に出かけるといったことも考えたい」とし、「まずは小児医療センターを対象に実施することで、患者に実際に使ってもらい、使いやすさや運用方法、メンタルケアへの有効性、面会オペレーションの改良などを検証し、患者に有益なメタバースアプリケーションを開発することに貢献したい。今後は、高齢者や成人での利用にも拡大していくことになるだろう」とした。

  • 順天堂大学大学院医学研究科小児思春期発達・病態学准教授の藤村純也氏

小児医療センターでの運用・臨床研究では、一定期間以上入院している小児患者と家族を対象に、賛同を得た上で、Medical Meetupを利用してもらうとともに、医療従事者からも評価してもらい、改善につなげるという。

また、日本IBM 執行役員の金子達哉氏は、「Medical Meetupの活用成果をもとに、今後は様々な医療機関に展開したいと考えているほか、講演会や遠隔診療をはじめとして、健康、医療、介護に関するメタバースサービスを提供できるプラットフォームを構築し、ユースケースを拡張したい。データをもとに、ライフイベントを自らデザインできる環境を提供することも目指す」と述べた。

  • 日本IBM 執行役員の金子達哉氏

メタバースは、距離や時間を超えたり、直接顔を合わせなくても会話ができる新たなコミュニケーションを生んだりすることが特徴だが、今回のメタバース面会アプリによって、メタバースによるデジタル技術が、医療サービスの向上にどれだけ貢献できるかが注目される新たな取り組みのひとつだといえる。