"せともの"の街、愛知県瀬戸市。この街は火の街・土の街と呼ばれ、昔から真っ白な陶土や自然の釉薬が採れるため、やきものの産地として栄えてきました。「ものをつくって、生きる」そのことに疑いがない。それゆえ、陶芸に限らず、さまざまな"ツクリテ"が山ほど活動する、ちょっと特殊なまちです。瀬戸在住のライターの上浦未来が、Iターン、Uターン、関係人口、地元の方……さまざまなスタイルで関わり、地域で仕事をつくる若者たちをご紹介します。

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Vol.17 ライダーズカフェ瀬戸店・オーナーDAVID YU

  • DAVID YU(ダビッド・ユウ)。名古屋・大須育ち。カスタマイズ自転車店「ライダーズカフェ」大須店、瀬戸店の2店舗経営中。二児のパパ

    DAVID YU(ダビッド・ユウ)。名古屋・大須育ち。カスタマイズ自転車店「ライダーズカフェ」大須店、瀬戸店の2店舗経営中。二児のパパ

2021年1月1日、藤井聡太くんの応援で賑わう「せと銀座通り商店街」に、カスタマイズ自転車店「ライダーズカフェ 瀬戸店」がオープンした。全国・海外で10店舗以上ある「ライダーズカフェ」で初めて暖簾分けという形で、22歳という若さで独立。2店舗目として、25歳で瀬戸に進出した。最初は都市部を考えたというが、あえて人通りが少ないローカルでの挑戦に踏み切った理由とは?

「ライダーズカフェ」とは?

  • オーダーメイド型の自転車店「ライダーズカフェ」

    オーダーメイド型の自転車店「ライダーズカフェ」

「ライダーズカフェ」は、現在、原宿、横浜ビブレ、名古屋・八事、金沢、大阪・アメ村、広島、福岡・今泉、韓国に店舗を持つ、オーダーメイド型の自転車店だ。

季節ごとに登場するオリジナルのフレーム、タイヤ、ハンドル、サドルなど、すべてのパーツが自由に選べる。しかも、なんと2万9,800円~とリーズナブルで、おしゃれな若者に人気を集めている。

本社は福岡県福岡市で創業。バイクやアメ車などの販売事業からスタートし、約10年前から自転車の事業をはじめ、現在では、全国展開している。

「ライダーズカフェは、比較的主要都市エリアで展開しているので、瀬戸店は異例ですね。お前大丈夫か!? と、会社の上の人たちからは心配されています(笑)」

18歳で「ライダーズカフェ大須店」を任される

  • 入社当初のダビ君

    入社当初のダビ君

そんなダビ君が、「ライダーズカフェ」で働き始めたのは、およそ7年前の18歳の時。高校卒業後、これから何をしようか迷っていた。

「大学に行って、教員になれたら嬉しいなあ、という思いもありました。ただ、母子家庭で大学へ行く金銭的な余裕がなかったと、すごくやりたいことではないのに、大学行く時間もお金も無駄。やりたいことを探したいなと思って、お金貯めて、バックパッカーでもやろっかな、と思っていたんですよ」

そんなある日、自転車を買おうと思い、ちょうど地元の名古屋・大須にオープンしたばかりだった「ライダーズカフェ大須店」へ足を運んだ。すると、そこには、ものすごい数のカラフルなサドルやハンドルなどが並び、衝撃だった。

  • カラフルなサドルやハンドルなどが並ぶライダーズカフェ

    カラフルなサドルやハンドルなどが並ぶライダーズカフェ

「今と比べると、種類はまだまだ少なかったんですが、当時の僕としては、なんやこの自転車屋は! と衝撃を受けました。『自転車が好き』というよりも、学べることがたくさんありそう、おもしろそうと思って、こんなところで働いてみたいなと思ったら、ちょうどアルバイトを募集していて、採用してもらえたんです」

2014年4月から働き始め、約2カ月後、「ライダーズカフェ」のボスがやってきた。話し合うと、社員を探していたということで、アルバイトから社員へ。さらに、店長は本社がある福岡の方だったため、引き継ぎをして福岡へと戻り、ほかに働いていた16歳の女の子とダビ君のふたりで店舗を任されることになった。

1カ月の売り上げは500万超え

  • 若くして大須店を任されることになったダビくん

    若くして大須店を任されることになったダビくん

なかなかの急展開に驚くが、さらに驚くのは、大須店の繁盛ぶり。当時、自転車ブームで、お店ができたばかりということもあり、なんと売り上げが毎月500万を超えることも。普通の自転車屋と違い、ただ売るだけではなく、すべてカスタマイズなので、日々、組み立てる時間も必要で、とにかく忙しかった。初めての仕事で、うまくいかないことも多々あった。

「社会人になりたてで、仕事がうまく回せなかったこともあるんですが、その当時、僕、失敗ばっかりしとったんです。それで、とりあえず離れて学べ、ということで、原宿店に行くことになりました」

  • 「ライダーズカフェ原宿店」にて

    「ライダーズカフェ原宿店」にて

大須店よりも狭いけれど、売り上げは倍以上。そういう場所で、半年間ほど勉強するはずだった。けれど、わずか1カ月で大須店へと戻ることになる。

「大須店の売り上げが、過去一下がったんですよ。それもあって、すぐ戻ることになりました。東京に行くことで実感したことは、大須の街で出会ったお客さんのありがたみです。僕は自転車をただ売っておしまいではなくて、自転車を買ってからを大事にしている。純粋にみんなが楽しく暮らせたらいいな、ぐらいの感覚で。

名古屋はコミュニティが狭くて、誰かを介せば、誰とでもつながれる。でも、東京の場合は、点々とコミュニティがあって、洗練されている街だからこそ、コミュニティをつくるまでが、難しいんだろうなって感じました。モノをたくさん売るにはいいんですけどね。それは感覚値として、とても学びになりました」

22歳で会社を独立。会社で初の暖簾分け店

  • ライダーズカフェ大須店

    ライダーズカフェ大須店

独立心旺盛なダビ君は、大須店では22歳までの4年間社員として勤務。その後、大須店を暖簾分けしてもらう形で、独立した。

2店舗目を立ち上げる構想は、早い段階で決めていた。独立して2年目には、現在、大須店を任せている子にはいずれ店を任せたいということを伝え、3年目で基盤もでき、瀬戸へと進出した。瀬戸に決めるまでは、都市部にするつもりだったという。

「京都とか、神戸、熊本とかカルチャーがあるところに出したほうがいいな、と思っていたんですよ。その時に、名古屋で“村”をつくっていた頃で、『さかさま不動産』のきょうちゃんに出会ったんです。

きょうちゃんと友だちになって、ローカルでの動きを見て、ローカルもおもしろそうだなと。名古屋駅近くの商店街『駅西銀座』とか、熱田神宮前商店街とかも、いいなーと話していたら、瀬戸がいいよ、とすすめられたんです」