YouTubeの利点活かし防災意識高めたい

――これまで手掛けた中で、印象に残っている企画や動画を教えてください。

佐藤:クロスメディアセンターに異動して最初に手掛けた「まいにち防災~災害を知り 命をまもる」という企画です。地上波のオンエアではほんの少ししか使われなくても、記者やカメラマンの手元には膨大な時間をかけた取材・撮影の記録があって。その中にもぜひ知ってもらいたい、伝えたい情報が大量にあるので、何か有効活用できないだろうかとカメラマン時代から考えていました。テレビで使用する場合には、放送に合わせて編集し、わかりやすくコンパクトにするのですが、YouTubeでは、30分撮り続けたものをそのまま全部見せてもいい。この利点を一番活用できると思ったのが災害。災害が起きたとき、どう始まって、どう広がっていくのかをすべて見せることで、将来の命を守る行動につながればというコンセプトで「まいにち防災」を立ち上げました。

たとえば東日本大震災の津波では、地震が起きてカメラマンが撮影を始めるわけですが、ノーカットの映像を見ると、何分後に津波が来て、何分後に街に被害が及んで、と、災害が進むスピードがすごく分かりやすい。このサイトでは、カレンダーや地図、「地震・津波」、「台風・大雨」、「大雪・寒さ」などのソートで過去のさまざまな災害時の動画を見ることができるようになっています。たくさんの方に見ていただけて、役に立ったと実感できました。

  • 特設サイト「まいにち防災~災害を知り 命をまもる」

山野:今年1月の能登半島地震で大きな被害を受けた、輪島朝市をとりあげるサイト「私たちの輪島朝市物語」も4月に立ち上げて、たくさんの動画や記事のほか被災前と被災後の画像を配信しています。このサイトのほかにも、 どの場所でどんなことが起きたのか、地図で位置を確認しながら動画で見られる「被害状況マップ」を作ったのですが、カメラが揺れて地震が起きるところから、30数分後に津波が来て、と一部始終の記録が残っているのは資料としても貴重だと反響がありました。

佐藤:「能登半島地震 被害状況マップ」 も、サイトを作るために新たに取材したのではなく、テレビ朝日系列各社で、かなりの数の取材クルーが現地に入って取材したものを集めて整理して掲載しているんです。視聴者の方が撮影した映像も、許可をいただいて掲載させていただいています。

  • 特設サイト「私たちの輪島朝市物語」

――まさに集合知ですね。

山野:ANNnewsCHの再生数上位は災害の動画が多く、関心の高さを感じます。災害時には登録者数や再生数が急激に増えて、正確な情報、最新の情報が求められていることを肌で感じられるので、応えていきたいです。特に能登半島地震では、地元の系列局の放送が止まってしまったので、YouTubeというプラットフォームの存在価値が高まったのかなと。

――テレビがない場所でも、スマホ一つで正しいニュースを見ることができるのは、大きな助けになりそうです。

山野:停電していても、スマホの電源が残っていたり、車でチャージできれば動画を見られるし、ストリーミングでこれまでの情報も一気に見ることができる。災害時には特に必要な情報源になり得ると思うので、有事の際、ANNnewsCHが何を発信できるか、どう助けになれるかをこれからも考えていきたいです。あとは、オンライン上に動画を公開しておくだけで、古い動画でも見ていただけることがあるので、災害が風化しづらいというか。いつどんなタイミングでも、災害の動画を見て怖さを認識して、自分に落とし込んで考えるきっかけが作れるのではと思います。

一番見られている動画は東日本大震災の津波

――これまで、印象的な再生数の伸び方をした動画があれば教えてください。

「2011年3月11日 東日本大震災 宮古市を襲った“黒い”巨大津波【まいにち防災】」

佐藤:「まいにち防災」を立ち上げた際に掲載した東日本大震災3.11の津波の動画は、3,800万回再生を超え、チャンネルで一番の再生数を記録しています。現在も、毎日のように新しいコメントが投稿され、視聴され続けています。

「オウム事件の真実…“幻の核武装計画”とは? 地下鉄サリン事件の真相は?【2020年3月放送】」

山野:ドキュメンタリーは昨今大きく伸びている分野。この動画もすでに1,000万回近く見られています。制作したディレクターはほかにも、警察庁長官狙撃事件や刑務所などのドキュメンタリーに携わっており、いずれも高評価を得ています。また、テレビ朝日系列をあげて制作しているドキュメンタリー番組『テレメンタリー』からも長く見続けられる動画が生まれており、視聴数だけでなく、チャンネル登録者増という点でも大きく貢献してくれています。

「台風対策『窓ガラスに養生テープ』にプラス 飛散防止役立つものとは【ファスト防災】 #shorts」

佐藤:いわゆるライフハック系の動画です。日常使いのアイテムに、ちょっとした工夫を施すことで災害時や防災に役立つ例をシリーズで紹介しています。内容やテンポがショート動画との相性がよく、若年層にもリーチできています。この展開で得た知見を活かして、今後はショート記者解説など次なるオリジナルコンテンツ開発を進めていきます。

――ありがとうございます。後編では、今後伸ばしていきたい点についてもお話をおうかがいします。