ドラマ『セクシー田中さん』(日本テレビ)の原作者・芦原妃名子さんが、今年1月に脚本の作成過程におけるドラマ制作側との見解の相違を告白し、その経緯を説明した文書を削除した後、「攻撃したかったわけじゃなくて。ごめんなさい。」という言葉を残して急死したことは、テレビ界だけでなく、世間に大きな衝撃を与えた。

多くの制作者が心を痛める中、これまで『ナニワ金融道』『きらきらひかる』『闇金ウシジマくん』『カイジ 人生逆転ゲーム』といった漫画原作のヒットドラマ・映画を生み出してきた山口雅俊氏もその1人。自ら脚本・監督も手がける同氏は、どのような姿勢で原作の映像化に向き合っているのか。様々なドラマ賞を受賞した人気作の続編『おいハンサム!!2』(東海テレビ・フジテレビ系、毎週土曜23:40~)を手がけ、6月21日には映画版も公開される同作の事例も含め、話を聞いた――。

  • 『おいハンサム!!』シリーズ 脚本・演出・プロデューサーの山口雅俊氏

    『おいハンサム!!』シリーズ 脚本・演出・プロデューサーの山口雅俊氏

“これを映像化することにとにかく意味があるんだ!”と突き進む

フジテレビでキャリアをスタートした山口氏がプロデューサーデビューしたのは、青木雄二氏の原作漫画をドラマ化した『ナニワ金融道』(96年)。映像化にあたっては、映画界の有名監督との競合になったが、「こちらがフジテレビのまだ実績もない新人プロデューサーであろうと、青木さんも出版社もすごくフラットに見てくれました」(山口氏、以下同)といい、時間をかけて権利を勝ち取った。

その時から一貫しているのは、「原作者が投げかけている“問い”を見つけ、映像化することによってそれに“答え”を出す」という覚悟だ。

「よくある“オリジナルを作るには間に合わないから、原作を持ってきました”みたいなケースは、だいたい失敗します。そうではなく、誰か1人がものすごい熱量を持って“これを映像化することにとにかく意味があるんだ!”と情熱と志を持って突き進んでいくことが大事ではないでしょうか」

そこで行うのは、原作が訴えようとしているもの、原作のスピリッツを探し出し深く理解すること。「読み込むのは当たり前、大前提です。『おいハンサム!!』の原作の伊藤理佐さんとお話ししていたら、“山口さんのほうが私の漫画に詳しいですね(笑)”と言っていただいた。それくらいの(原作との)向き合いが必要」という。

人気原作者の作品は、連載が始まる前から映像化権の争奪戦が始まることもあるが、「そういう作品をドラマや映画にするのは、自分がわざわざやらなくていいのかなと思います。どうやって実写化するのか、誰も手を付けないような作品のほうがいいですね」という姿勢だ。

  • 『おいハンサム!!』原作の伊藤理佐氏

『ナニワ金融道』『闇金ウシジマくん』で出した“驚き”と“答え”

撮影現場でも原作漫画を読んでいたという『ナニワ金融道』で出した一つの“答え”はキャスティングにあった。

「中居(正広)くんが演じた主人公の灰原が、大阪の金貸しの世界に入って成長するという話で、一番最初の“大阪のカネと欲望の本音の世界”の洗礼を受けるのが入社した街金融『帝国金融』の先輩・桑田という男との出会いなんですが、この役を小林薫さんがOKしてくれたというのが大きかった。あの当時、桑田という一見ふざけた“エグい”キャラクターを、状況劇場の看板俳優で、テレビでも山田太一さん脚本の『ふぞろいの林檎たち』に出演するなど硬派で端正なイメージの小林薫さんに演じさせるというのは、誰も思いつかなかったでしょう。でも、結果的に中居くん、小林薫さん、そして社長には緒形拳さんという帝国金融のキャスティングに有無を言わせぬ“驚き”があって、ものすごい人気漫画を生み出した青木雄二さんに対する映像化する側としてのアンサーになったと思います」

『闇金ウシジマくん』(10年、MBS)においても、山田孝之の主演というキャスティングが当初“驚き”をもって、結果、好意的に受け入れられたことに加え、「そもそも闇金業者が主人公というドラマなんてできないとか、タイトルから“闇金”を外さなきゃダメだという話もあった中で、地上波ギリギリのところでとにかくオンエアすることに意味があった。結果、自分なりに(原作の)真鍋(昌平)さんに答えることができたかな」と振り返る。