「JR北海道グループ中期経営計画 2026」が4月1日に発表された。鉄道事業の内容は、従来の「選択と集中」に加えて新たな観光列車やボールパーク新駅などがある。グループ事業として不動産事業、ホテル事業、物販・飲食事業等を拡充する。総じて新しい取組みが感じられ、不祥事続きの暗闇から明るい未来を見通せる内容になった。

  • 特急「ライラック」。現在、札幌~旭川間を最速1時間25分で結んでいる

その中で、末尾に付した4ページが話題になっている。「中期経営計画 2026」以降の事業構想を紹介しており、とくに注目したい項目は「北海道新幹線札幌開業後の在来線高速化の検討」。札幌~新千歳空港間の所要時間を現行の最速33分から最速25分、札幌~旭川間の所要時間を現行の最速1時間25分から最速60分に短縮する。大胆だが不可能ではなさそうで、すぐにでも着手してほしいところだ。

とくに札幌~旭川間の最速60分は衝撃的だった。北海道新幹線が札幌駅まで延伸開業すると、函館~札幌間は最速1時間22分(整備新幹線の最高速度260km/hで試算した場合)となる。JR北海道は自費で360km/hへ追加工事を行うつもりで、さらに5分程度短縮される。また、函館市が構想する北海道新幹線の函館駅乗入れ構想もあり、実現すれば「はこだてライナー」への乗換え時間がなくなり、所要時間60分に近づく。つまり、札幌から北海道第2の都市である旭川と、第3の都市である函館がそれぞれ1時間で結ばれる。函館~旭川間が約2時間となれば、経済効果は大きいと思う。

新型車両とノンストップで160km/h走行ができそう

札幌~旭川間は全線複線で電化されている。直線区間も多く、恵まれた路線環境だと思う。現在は特急「ライラック」「カムイ」が最速1時間25分で走っている。「ライラック」と「カムイ」は車内設備に違いがあり、「ライラック」は6両編成でグリーン席がある一方、「カムイ」は5両編成でグリーン車はなく、指定席の一部が「uシート」になっている。「uシート」はかつて789系(1000番代)が快速「エアポート」に使用された際、唯一の指定席として運用された名残であり、現在は他の指定席と同じ料金だが「ちょっといい席」という位置づけになっている。

特急「ライラック」「カムイ」に使われる車両は789系。「ライラック」はかつて青函トンネル経由の特急「スーパー白鳥」で活躍した789系0番代、「カムイ」は781系を置き換えるために札幌圏へ投入された789系1000番代を使用している。どちらも設計最高速度は145km/h。789系0番代は青函トンネル等で140km/hを出し、789系1000番代は130km/hで運転していた。

かつて札幌~旭川間は最高速度130km/hで運転されていたが、現在は120km/hに抑えられ、性能を発揮できていない。2011年に起きた列車脱線火災事故の後、いくつかの車両に不具合が見つかり、2013年からメンテナンス体制を整えるために減速する処置を取った。これは函館~札幌間の特急「北斗」、札幌~帯広・釧路間の特急「とかち」「おおぞら」にも影響した。

130km/h時代に789系1000番代で運転された「スーパーカムイ」は、札幌~旭川間を最速1時間20分で走った。現在の120km/hより5分短縮できていた。単純に計算すれば、140km/hで1時間15分、150km/hで1時間10分、160km/hで1時間5分。160km/hが在来線の最高速で、北陸新幹線金沢延伸開業前に越後湯沢~金沢間などを結んだ特急「はくたか」が、北越急行ほくほく線内を160km/hで走行していた。

  • 札幌~旭川間のダイヤ。赤線が特急列車、青線が快速「エアポート」、黒線が普通列車(JR北海道公式サイトの時刻表をもとに、列車ダイヤ描画ツール「OuDia」で作成。緑の点線は貨物列車で、2023年の貨物時刻表をもとに推定した)

  • 実際にダイヤを描いて推定してみる。「ライラック1号」と「ライラック3号」のダイヤにノンストップダイヤ(紫)を重ねてみると、普通列車のダイヤを少し変更すれば実現できそうになった

あと5分はダイヤで解決しよう。「ライラック」「カムイ」は札幌~旭川間の途中で5駅に停車している。減速・停車・加速で1分増加するとみれば、札幌~旭川間をノンストップとすることで5分短縮できる。これで1時間になった。すべての列車をノンストップにすると、現在停車している駅の自治体から反発されそうだから、半分くらいをノンストップにしよう。なんとかなりそうではないか。

つまり、車両側で160km/h運行を可能とすることが実現への第一歩となる。鉄道趣味誌によると、789系0番代は青函トンネル内を160km/hで走行するための準備工事を実施していたそうだ。ただし、時期的に新型車両を検討すべきだろう。681系相当の動力性能に加えて、車体傾斜装置を採用すれば曲線区間の通過速度を上げられる。全列車をノンストップにする必要はないので、まずは3編成(2編成と予備の1編成)を製造して投入する。789系が2編成が余るので、札幌~室蘭間の特急「すずらん」で使用される785系と置き換える。

線路と信号の改良も必要

列車の高速化は、車両だけでは実現できない。線路側の強化や信号設備などの改良が必要になる。線路については停車駅・通過駅も含めた直線化が必要。動画投稿サイトでユーザーが作成した「前面展望動画」を見たところ、いくつか改善点が予想できた。

たとえば上幌向駅は島式ホームのため、駅の前後に複線の間隔を広げるための小さなS字カーブがある。ここは単式ホームの対向配置にすれば、直線的な複線になる。峰延駅は単式ホーム対向配置だが、上下線の間に中線があったようで、小さなS字カーブがある。ここも片側のホームの位置を移動させて直線的な配置にしたい。このように、小さなS字カーブを持つ駅は他にもあって、すべてを改良するにはコストが膨大となってしまう。せめてS字カーブ区間を延ばして曲線を緩和できないだろうか。

軌道強化とは、おもにカーブ区間で外側のレールにかかる荷重に対応すること。速度が高くなるほど荷重も大きくなるから、まくらぎを強固なタイプに交換し、まくらぎの間隔を詰めて本数を増やすなどで対応する。直線区間も含めてロングレール化、伸縮継ぎ目も必要だろう。

曲線区間のうち、厚別駅付近は上下線の間隔が広い。内側の曲線を外側に寄せれば、曲線半径を緩和できる。カーブは全体的にカントを強め(外側のレールを高く)にする。江部乙~妹背牛間、深川~納内間はカーブ途中に踏切があり、カントを強めにすると道路側が凸凹になって危険かもしれない。行政と相談して直線側に移設したほうがいい。

苗穂駅や岩見沢駅のような分岐器がたくさんある駅は、分岐器のレイアウトを変更するなどで、なるべく列車が直線的に構内を通れるようにしたいところ。さらに、新幹線で採用されている「ノーズ可動式分岐器」に交換したい。「ノーズ」とは分岐器の合流部の三角形の部分で、一般的には他のレールと隙間を作って、車輪のフランジを通す構造になっている。ノーズ可動式はこの部分を可変して隙間をふさぎ、車両の通過時の安定性を高めている。

  • 一般的な分岐器とノーズ可動分岐器(筆者作成)

線路の次は信号関係。踏切は列車を検知してから警報機や遮断機が作動する。列車が高速化すると、現在よりもっと手前の位置で検知させないと間に合わない。すべての踏切で検知位置の検証、変更が必要になる。ホームで通過列車を警告するブザーや案内放送のタイミングも調整する。

江別駅から旭川方面は、列車の運行本数が少ないせいか、閉塞区間が長いような気がした。閉塞区間とは線路を一定距離で分割し、1区間に1列車のみ入れるようにして、衝突を防ぐしくみ。前面展望動画を見ていたら、見通しが良いにもかかわらず黄色信号が出ており、しばらく減速が続いた。ひとつ先の閉塞区間に先行列車がいて、待避駅に到着していないようだった。

閉塞区間をもっと短い単位にすれば、減速区間も短くなり、もっと先行列車に近づける。ただし、閉塞区間をすべて見直すくらいなら、移動閉塞を採用したほうがいい。移動閉塞は列車の位置をリアルタイムで把握し、先行列車との間隔を一定に保つしくみ。新幹線が採用しており、高速走行中は先行列車と十分な間隔を保ち、駅の手前で詰まったときはぎりぎりまで先行列車に近づく。デジタルATCか無線式ATCの採用で可能になる。

札幌~新千歳空港間は大胆な線路改良が必要

札幌~新千歳空港間の高速化も同じ手順で高速化できる。こちらも直線区間が多いし、高架区間もあって線路の状況は良い。列車の運行本数が多いので、「エアポート」だけでなく、普通列車も加速力の高い車両を導入し、追い越される駅まで逃げ足を速く、追い越された後は速やかに追いかけられるダイヤにする。

千歳線はボールパーク新駅の設置により、追越し可能な駅が増える。北広島駅もボールパーク新駅に向けた増発列車の折返しに必要な改良が行われる。新千歳空港駅付近の移転と複線化が実現すれば、8分短縮は十分可能と思われる。

  • 新千歳空港駅のスルー化については2018年にも報道された。南千歳駅からの支線を複線化し、新千歳空港新駅を室蘭方面および石勝線方面へ直通できる構造にするという内容だった(筆者作成。本誌記事「新千歳空港駅に大規模改修構想、気動車の地下駅乗入れは大丈夫か」より再掲)

JR北海道は新幹線札幌開業まで新幹線工事に注力するとしており、在来線の高速化は開業後の取組みになるとのこと。経営資源の「選択と集中」が続いているためだが、実施して乗客が増える見込みがあるなら、国や道の支援を受けてでも先行して着手してほしいと思う。たとえば新千歳空港からレンタカーで道央・道北・道東方面へ向かっていた人が、札幌駅や旭川駅まで快速列車や特急列車に乗り、これらの駅からレンタカーを利用するという流れを作れるかもしれない。

さらに期待すべきこととして、この高速化が宗谷本線、石北本線、石勝線などの「130km/h運転解禁」となることが挙げられる。前出の通り、2013年から130km/h運転区間が120km/h運転に抑えられてきた。130km/h運転が復活すれば、JR北海道の特急列車網がもっと便利になる。いっそ2014年に開発中止となったキハ285系も復活させて、140km/h運転をめざしてほしい。

まだ先の話とはいえ、JR北海道から鉄道の魅力向上を図る構想が出たことがうれしい。幹線の収益力を上げて、ローカル線の観光列車を充実させる。鉄道が便利で楽しくなれば、北海道は世界中から注目され、魅力の向上に寄与すると思う。