政府は子育て支援として、生命保険料控除の適用限度額を引き上げる方針を示しています。現在、一般生命保険料の上限は4万円ですが、23歳未満の扶養親族がいる場合は6万円に引き上げられます。これによって、子育て世帯にどのくらいの恩恵があるのか、モデルケースを想定して、具体的な金額を計算してみたいと思います。

  • 「生命保険料控除」拡大で子育て世帯への影響は?

    「生命保険料控除」拡大で子育て世帯への影響は?

生命保険料控除の拡大とは

令和6年度税制改正では、子育て世帯の税優遇を大きなテーマに掲げています。その一つとして、子育て世帯の「生命保険料控除」の適用限度額の引き上げが検討されています。2024年に結論を得るとしていますが、現時点でわかっている内容をまとめてみます。

<内容>

    1. 生命保険料控除の中の「一般の生命保険料控除(新契約)」について、23歳未満の扶養親族がいる場合は、所得税の控除額の適用限度額が現行の4万円から6万円に引き上げられます。 なお、一般の生命保険料控除、介護医療保険料控除、個人年金保険料控除の合計適用限度額については、現行の12万円から変更はありません。
    1. 一時払いの生命保険については、控除の適用対象から除かれます。

生命保険料控除(新契約)

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    生命保険料控除(新契約) 出所: 「令和6年度税制改正大綱」をもとに筆者作成 ※新契約とは、2012年1月1日以降に締結した保険契約です。それ以前は旧契約となり控除の枠組みや控除額が異なります。 ※住民税についての記載はありませんが、所得税と同様の措置が行われると思われます。

一般の生命保険料控除・介護医療保険料控除・個人年金保険料控除の控除額(新契約)

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    一般の生命保険料控除・介護医療保険料控除・個人年金保険料控除の控除額(新契約) 出所: 国税庁「No.1140 生命保険料控除」をもとに筆者作成 ※現行制度のものです。改正によって払込保険料の基準が変わる可能性があります。

生命保険料控除は、1年間に払い込んだ保険料に応じて控除額が決まります。現行制度では、8万円超えると4万円(上限)がその年の所得から差し引かれます。これによって課税所得が減り、それに対して税率がかけられるので、税金の負担が少なくなります。

どのくらい税金が減るのか

次に示すモデル家族をもとにして、一般の生命保険料控除が2万円拡大したことで、どのくらい税金の負担が減るのか計算してみます。具体的にイメージできるように、所得税、住民税をそれぞれ計算してから、引き上げによる効果をみてみたいと思います。

<山田さん一家>

夫: 会社員(年収500万円)
妻: 扶養内パート(年収100万円)
子: 3歳

<加入している保険>

*生命保険(終身): 月額1万5,000円
年間18万円
*医療保険: 月額: 5,000円(夫)、月額3,000円(妻)
年間9万6,000円
※すべて2012年1月1日以降に契約したものとする

現行制度の場合

生命保険は「一般の生命保険料控除」の対象となり、年間払込保険料が所得税は8万円、住住民税は5万6,000円の基準を超えているので、所得税は4万円、住民税は2万8,000円がそれぞれ控除されます。

医療保険は「介護医療保険料控除」の対象となり、こちらも年間払込保険料から限度額が適用されるので、所得税は4万円、住民税は2万8,000円が控除されます。

合わせると、合計適用限度額は超えていないため、所得税は8万円、住民税は5万6,000円が所得金額から控除されます。

■所得税の計算

500万円-144万円(給与所得控除)=356万円(給与所得)

<所得控除>
基礎控除: 48万円
社会保険料控除: 75万円(年収の15%とする)
配偶者控除: 38万円
生命保険料控除: 8万円
控除合計: 169万円

356万円-169万円=187万円(課税所得)
187万円×5%=9万3,500円

所得税は9万3,500円となりました。
生命保険料控除によって4,000円所得税が減額されます。

■住民税の計算

<所得控除>
基礎控除: 43万円
社会保険料控除: 75万円(年収の15%とする)
配偶者控除: 33万円
生命保険料控除: 5万6,000円
控除合計: 156万6,000円

356万円-156万6,000円=199万4,000円(課税所得)

199万4,000円×10%=19万9,400円(所得割額)
5,000円(均等割額)
19万9,400円+5,000円=20万4,400円

住民税は20万4,400円となりました。
生命保険料控除によって5,600円住民税が減額されます。

改正後の場合

住民税は現段階でどのくらいの引き上げがあるのか不明なため、所得税のみ計算してみます。生命保険は「一般の生命保険料控除」の対象となり、23歳未満の子を扶養しているため、6万円が控除されます。医療保険は「介護医療保険料控除」の対象となりますが、こちらは引き上げがないため、現行の4万円が控除されます。合わせて10万円の控除額となり、合計適用限度額の12万円を超えないため、控除額はそのまま10万円となります。

■所得税の計算

356万円-171万円=185万円(課税所得)
185万円×5%=9万2,500円(所得税)

10万円×5%=5,000円
生命保険料控除によって5,000円所得税が減額されます。

所得税は税率がわかれば計算は簡単です。
控除額が2万円増えたことで、課税所得が2万円減るので、2万円の5%である1,000円所得税が減ります。年収500万円(税率5%)の人のケースではたった1,000円です。

住民税は現段階でどのくらい引き上げがあるのかわかっていませんが、3万5,000円~4万2,000円と一部報道にあったことから、仮に4万2,000円とすると、住民税は一律10%なので、1,400円住民税の負担が減ることになります。

所得税の場合、税率が高くなれば、それだけ効果は高くなりますが、課税所得900万円~1,800万円(年収にすると1,400万円~2,300万円あたり)の人が該当する税率33%であっても6,600円負担が減る程度です。

生命保険料控除を有効に使うには

試算した結果、改正によって一般の生命保険料控除の限度額が子育て世帯には2万円拡大するも、効果は数千円程度であることがわかりました。しかし、使える所得控除を使わないのは別問題です。現行の4万円の適用限度額を使い切っていない人、介護医療保険料控除や個人年金保険料控除を活かしていない人は、今一度、控除が適用できるかどうか確認してみるといいでしょう。

学資保険は一般の生命保険料控除に入る

一般の生命保険料控除には学資保険も入ります。学資保険に加入していたら忘れずに生命保険料控除の申請をしましょう。ただし、年間払込保険料が8万円を超えると、それ以上いくら該当する保険に加入していても、控除額が増えることはありません。年8万円というのは月にすると6666円です。万が一に備える生命保険に1本加入していたら、それで一般の生命保険料控除の枠は埋まってしまう可能性が高いでしょう。

医療保険は介護医療保険料控除の対象に

医療保険は旧契約(2011年12月31日以前の保険契約)では、一般の生命保険料控除の対象でしたが、新契約(2012年1月1日以降の保険契約)では介護医療保険料控除の対象となります。そのため、これまで一般の生命保険料控除の適用上限を超えてしまって活かせなかった場合も、新契約の医療保険であれば、介護医療保険料控除の適用限度額の4万円が使えることになります。

無理に保険に入る必要はない

ここで試算したとおり、生命保険料控除は適用限度額が設定された所得控除であるため、思ったほど税金は減らないと感じたと思います。生命保険料控除を目的で保険に入る人はいないと思いますが、今回の改正が実施されると、子育て世帯への保険の勧誘が活発になるかもしれません。年間で数千円の減額のために必要ない保険に加入して毎月保険料を払い続けるのは本末転倒です。控除の上限となる年間払込保険料が8万円超えたら、それ以上いくら保険料を払っても控除額が増えることはないので、必要な保険だけしっかり吟味して加入するようにしましょう。