1話完結型でありつつ、ラストへ向けてすべての“つじつま”がきっちりと合わさっているSFラブコメディの『時をかけるな、恋人たち』(カンテレ・フジテレビ系毎週火曜23:00~)。吉岡里帆と永山瑛太演じる、常盤廻(めぐ)と井浦翔(かける)の時を超えた“恋の超展開”の放送も、いよいよ今夜最終回を迎える。

残すところ1話を前に、すべての仕掛け人である脚本家の上田誠氏にインタビュー。果たして、その頭の中身はどうなっているのか。企画の立ち上がりに始まり、本ドラマの根底に流れる“優しさ”の秘密に迫ると、「理想的な、消えない恋心を毎話書いている感じだった」「恋の持つエネルギーをリスペクトしている」と、熱い答えが返ってきた。

  • 『時をかけるな、恋人たち』最終回より=カンテレ提供

「なんかいい」の感覚が、実は大事

――今回の企画は、当初どのように立ち上がったのでしょうか。

タイトルから入りました。結構急ぎでタイトルと大枠だけを作って、とりあえず企画書だけ出そうと(笑)。カンテレの岡光寛子プロデューサーと一緒に。『時をかけるな、恋人たち』って、なんか良さそうだよねって。その「なんかいい」って感覚は、実は大事なんです。高校生のころ『古畑任三郎』(フジテレビ系)が流行っていて、僕も好きでした。そのとき文化祭で隣のクラスが、オリジナルの脚本で『古畑任三郎』をやって、ちゃんと面白かったんです。優れたパッケージなら、高校生が書いても面白いものができる。三谷幸喜さんの力はすごいです。それはもちろんなんですけど、パッケージの力も侮れません。逆に言うと、パッケージがふにゃふにゃしてたら、中身をいくら頑張っても、鮮やかな作品にならない。

――なるほど。

今作に関しては、タイムパトロールもののラブコメディということで、キュッとしたものが、自分のなかに見えたんです。パターンも作れるなと。SFって、なかなかみんなが乗りやすいものを作りづらいんですけど、これならできるかもと思いました。

――今回も、上田さんワールドが素晴らしい時間ものです。そして連続ドラマということで、いつも以上に複雑です。ファンとしては純粋に楽しんでいますが、一体どうやって作っているのかと。

気が狂いそうな図解があります。巨大迷路を作っていくようなものですからね。全11話の中でどう展開していくか。最初は、1話完結ものとしてずっと行くというプランもあったんです。でもそうじゃなくて、途中で2人の恋がダイナミックに進む展開にしようと。だったら5話まではパトロール編にして、そこから逃避行編に移ろうという大きな構造が決まって、そこからは逃避行して時間をどんどん遡っていくのか、逆に現在に近づいていくのかといったことを決めていき、各話のテーマが見えてきました。そして漫才師の話(4話)や、ホストの話(3話)、逃避行編では両親に関わるエピソード(6話)を入れようなどと決まっていきました。各話の中で、その話だけを見ても独立して面白くありながら、連続しても面白いというのを意識しましたね。

  • 脚本を担当した上田誠氏

SFの力を借りて、恋愛の“副作用”もぶち破ってしまおうと

――教師と生徒の話(2話)や、ホストの話などは、少しハードルの高い恋愛ともいえます。

今って、恋愛が完全にポジティブなものとして受け入れられるわけじゃない時代性ですよね。もちろん健全に恋愛する分にはいいんですけど。たとえばかつては略奪愛とか『高校教師』(TBS系)とか、そういったものも、ドラマとしてエンターテインメントになっていた。でも今描くには微妙ですよね。恋愛の“副作用”というか、良くない作用の方にも注意が向くようになっている。とはいえ、恋愛の、すべてをぶっちぎるパワーみたいなことって、エンターテインメントとしてやっぱり面白い。それを存分にやるためにも、SFの力を借りて、絶対に破ってはいけない時間の歴史の因果を破って逃避行するということが、エネルギーを生む仕掛けになればと。ハードルの高いものを超えることが、SFによって、応援してもらえるような設計にできたらなと思いました。

――これらのエピソードは象徴的ですが、全編を通じて優しさが貫かれていて、それは上田さんの目線なのかなと。

たとえば愛ってじわじわ育まれていくものかもしれないですけど、恋はもっと温度が高いというか、刹那的で理想的なイメージがあるんです。「マギー&キケロ」を伝説の恋人と言っているのも、彼らがずっと恋し合っているふたりだからで。そんな状態でいられたらめちゃくちゃいいよなと思っているし、僕自身、いろんな人と出会って何かしていくときに、ずっと恋し合えている状態でいられたら一番楽しいし、熱い関係性ですよね。そんなことを肯定したり応援したい。だから理想的な、消えない恋心を毎話書いている感じだったのかもしれません。恋の持つエネルギーを、僕自身がリスペクトしているんです。

――最終回に向けてメッセージをお願いします。

僕自身、ドラマを見るときに、集中して真摯に楽しみたいタイプですし、そういうドラマを作りたいと常々思っています。このドラマも、ちゃんと1話から見ていって楽しみに覚えておいたことが、花開きます。きちんと見てきた醍醐味を感じられる作品になっている、それを裏切らない造りになっていると思います。一緒に走ってきてくださってありがとうございます。『サマータイムマシン・ブルース』でもそうでしたが、最後は“ブルース”っぽい味わいもありますし、それだけで終わらない仕掛けも用意しています。ラストまでお付き合いください。

――ありがとうございました!最終回、楽しみにしています。

■上田誠
1979年、11月4日生まれ、京都府出身。劇作家、演出家、脚本家、構成作家。劇団ヨーロッパ企画の代表であり、全ての公演の脚本・演出を務める。2017年に舞台『来てけつかるべき新世界』で第61回岸田國士戯曲賞を受賞。主な作品に映画『サマータイムマシン・ブルース』『前田建設ファンタジー営業部』『リバー、流れないでよ』、劇場アニメ『夜は短し歩けよ乙女』『四畳半タイムマシンブルース』、ドラマ『魔法のリノベ』などがある。