「恐れ多い」は相手に対して敬意を表すために、ビジネスシーンでよく使われる言葉です。具体的には、依頼時や感謝・お詫びを伝えるとき、遠慮するときなど、さまざまなシーンで使用できます。

本記事では「恐れ多い」の詳しい意味や例文、使い方の注意点などを紹介。「畏れ多い」との違いや言い換え表現、反対語もまとめました。

  • 恐れ多いとは

    「恐れ多い」の意味や使い方と例文、「畏れ多い」との違い、言い換え表現などを紹介します

「恐れ多い」とは? 意味や読み方、由来を解説

「恐れ多い」は「おそれおおい」と読み、次の2つの意味があります。

  • 目上の人に対して失礼になるため申し訳ない
  • 自分の身にはもったいない、ありがたい

つまり「恐れ多い」は相手に失礼なことがあるときや、逆に相手から何かしてもらったときに、謝罪や感謝、敬意などを表すために使います。

「恐れ」は「恐怖」という言葉に使われるように、何かを怖がる気持ちを表すことが多いため、それが謝罪や感謝、敬意を表すことについて不思議に思うかもしれません。実は「恐れ」には次の3つの意味があります。

  • 怖がる気持ち、不安
  • 敬意やかしこまる気持ち、畏怖(いふ)の念
  • 良くないことが起きるのではないかという心配

「恐れ多い」は1番目の意味だけでなく、2番目の意味が強く出た言葉だと考えていいでしょう。

「恐れ多い」を使用するシーン

「恐れ多い」はさまざまなシーンで使用できます。以下では「恐れ多い」を使用するのに適切なシーンを紹介します。

依頼するとき

目上の人に何か依頼するときには、申し訳ない気持ちを表すために「恐れ多い」がよく使われます。「恐れ多いことですが」といった前置きの後で依頼内容を告げると、丁寧な印象になるでしょう。

感謝やお詫びを伝えるとき

目上の人に何かしてもらったときに、感謝したり手間を取らせてしまったお詫びを表したりするのにも「恐れ多い」を用います。

遠慮するとき

「恐れ多い」には自分には過分であり申し訳ない気持ちを表す意味があるため、目上の人からの申し出を遠慮して断る場合にも「恐れ多い」を使うことがあります。

「恐れ多い」の使い方と例文

  • 「恐れ多い」の使い方と例文

ここでは「恐れ多い」の具体的な例文と、その解説を紹介するので、参考にして使い方をマスターしましょう。

「恐れ多いことですが、ご指南いただけますと幸いです」

目上の人物に何か依頼する状況で、こちらが恐縮していることを伝えるために「恐れ多い」を使う例です。ビジネスで上司や顧客に何か頼む場合によく用いられます。

「遠路はるばるお越しいただき、恐れ多い限りでございます」

こちらの例文では、相手がわざわざやって来てくれたことに対し、申し訳なさや感謝の気持ちを敬意と共に伝えています。

なお「~限り」はこの上ないことを表しており、意味を強める場合に使われる言い回しです。「うれしい限り」などの言い回しでも使われる表現なので、覚えておきましょう。

「恐れ多いのですが、こちらの商品についてご説明してもよろしいでしょうか」

話し掛けたり話題を変えたりするときの前置きとして「恐れ多い」を使う場合があります。「恐れ入りますが」と同じような使い方です。

「恐れ多くもこのような希望をかなえていただき、誠にありがとうございます」

恐縮していることを表すために、文頭に「恐れ多くも」という言い回しを使うこともよくあります。

「そこまでしていただくのは恐れ多いです」

「恐れ多い」には「自分には過分である」といったニュアンスがあるため、目上の人からの申し出を遠慮したりやんわりとお断りしたりするときにも使えます。

「恐れ多い」を使う際の注意点

  • 「恐れ多い」を使う際の注意点

「恐れ多い」は基本的に目上の相手に使う表現です。そのため、例えば顧客や上司など、はっきりと相手の立場が上の場合に使うようにしましょう。

一方、同じ立場の人や目下の人に対して使うと違和感が生じます。敬意を表しているつもりでも、場合によっては相手に疎外感を抱かせたり嫌みと受け取られたりしかねません。また目上の人でも、打ち解けた態度での付き合いを望む人だと嫌がられる可能性があります。

さらに、相手と面と向かって使う場合は、言葉だけでなく謙虚な態度で臨むことも重要です。姿勢を正し相手をまっすぐに見ながら会釈するなど、誠実に見えるように振る舞いましょう。

「恐れ多い」と「畏れ多い」の違い

  • 「恐れ多い」と「畏れ多い」の違い

「恐れ多い」は「畏れ多い」と書かれることもありますが、その違いは何なのでしょうか。結論から言うと、一般的には「恐れ多い」を使い、「畏れ多い」は特に畏敬の念を強調したいときのみに使います。

下記でより詳しく説明します。

一般的には「恐れ多い」

「恐れ多い」の「恐れ」には、前述のように「怖がる気持ち」「敬意やかしこまる気持ち」「良くないことが起きるのではないかという心配」という3種類の意味があります。実はそれぞれの意味に、以下のような漢字が当てられています。

  • 「恐れ」 : 怖がる気持ち、不安
  • 「畏れ」 : 敬意やかしこまる気持ち、畏怖(いふ)の念
  • 「虞」 : 良くないことが起きるのではないかという心配

この3種類の意味は互いに重なる部分があり、明確に分かれているわけではありません。ただ使い分けとしては、一般的には「恐れ」を使い、敬意を特に強調する場合は「畏れ」を、心配を強調する場合は「虞」を使います。そのため、「畏れ多い」よりも「恐れ多い」がよく用いられるわけです。

また2010年に改訂されるまで「畏」は常用漢字に含まれておらず、「畏れ多い」は公的な文書や新聞などでは使用されていませんでした。当時「畏れ多い」の代わりに「恐れ多い」が用いられており、「恐れ多い」を見掛ける機会が多かったというのも、一般的に「恐れ多い」の方が浸透している理由です。

畏敬の念を強調するなら「畏れ多い」

「畏」という漢字は「畏怖」や「畏敬」といった熟語でも使われます。「畏」には、近づきがたいほどに崇高なものや神仏などに対して、かしこまり敬う、といった意味があります。

そのため、特に偉大な相手に対し、敬意やかしこまる気持ちを強調したい場合に「畏れ多い」を使用します。「畏」が常用漢字に追加された2010年以降は、新聞などでも「恐れ多い」と「畏れ多い」は使い分けられるようになりました。しかし、特に強調するときのみに用いられる表現のため、いまだに目にすることが少ないのです。

ただし、ビジネスシーンで「恐れ多い」と「畏れ多い」のどちらを使うべきかは、会社や業界の慣習によって異なる可能性があります。一般的には「恐れ多い」を用いますが、周りの人の使い方も確かめてみたほうがいいでしょう。

「恐れ多い」の類語・言い換え表現

  • 「恐れ多い」の類義語

ここでは「恐れ多い」のさまざまな類語や言い換え表現を紹介します。それらを理解して使い分けられれば、より自分の主張をはっきりと相手に伝えられますよ。ぜひコミュニケーション力を磨くための参考にしてください。

恐縮

「恐縮」は、恐れて身がすくむ、相手に申し訳なく思うことやその様子、謙遜する気持ちなどの意味を持ち、「恐れ多い」とよく似た言葉です。

恐れやかしこまるなどという意味の「恐」と、身がすくむ、ちぢこまる、かしこまるといった様子を表す「縮」という漢字が合わさって、相手に対し恐れ、かしこまるという意味となりました。

なお「恐縮」という言葉は主に書き言葉として使われます。

恐れ入ります

「恐れ入ります」と「恐れ多い」は非常に似た意味の言葉で、例えば「恐れ入りますが、ご指南いただけますと幸いです」「遠路はるばるお越しいただき、恐れ入ります」などのように、置き換えられることがよくあります。

ただし「恐れ入ります」の方が意味の種類が多く、あまりのことに驚く、などの意味もあります。例えば相手のあまりの力量に驚き、負けを認めたり感心したりしたときに「恐れ入りました」と言いますが、「恐れ多い」で同様の表現はしません。

また「恐れ多い」は「そこまでしていただくのは恐れ多いです」のように、「自分にはもったいない」と断る場合にも使えます。一方「恐れ入ります」には「もったいない」という意味合いはないため、それだけで断る表現として使うことはないでしょう。

ありがたい

「ありがたい」は多くの意味を持つ言葉ですが、中でも感謝の意を表すことが一般的です。「恐れ多い」も感謝の意を表すのに用いられるので、同じように使える場合があります。しかし「ありがたい」は感謝の意が中心であり、「恐れ多い」ほどかしこまる気持ち、礼を失することをおそれる気持ちが中心ではありません。

また「恐れ多い」は目上の人に使います。一方で「ありがたい」は立場が同じ人にもよく使用します。

もったいない

「もったいない」は、恐縮してしまうほど身に余ること、という意味があります。

「恐れ多い」には「自分の身にはもったいない」という意味があるため、「もったいない」で置き換えられることがあります。例えば「恐れ多いお言葉です」を「もったいないお言葉です」としてもあまり意味は変わりません。

僭越(せんえつ)

「僭越」は出過ぎたことをする、身の程をわきまえず失礼なことをする、という意味の言葉です。

「僭越ながら」と断って発言するような場合は、「恐れ多いですが」と言い換えられることがあります。

「恐れ多い」の対義語・反対の意味の言葉

  • 「恐れ多い」の反対語

「恐れ多い」は相手への敬意や畏怖を表す複雑な言葉のため、はっきりと定まった対義語はないと言えるでしょう。

しかしあえて言えば、「見下す」や「ないがしろ」といった言葉が、反対の意味だと言えるでしょう。

また自分に対して気を使いすぎてほしくないときには、「気軽に」「遠慮なく」「忌憚(きたん)のない」などが使えるでしょう。例えば、以下のような例文が考えられます。

  • 気軽に意見を聞かせてください
  • 遠慮なくどうぞ
  • どうぞ忌憚のないご意見をお願いします

「恐れ多い」を使いこなして、より豊かな表現を

「恐れ多い」は、謝罪や感謝、強い敬意を表現する言葉です。この言葉を使えば、ビジネスの場でも大切な相手に対して敬意を強調でき、仕事のコミュニケーションにおいても役立つでしょう。

しかし注意したいのは、相手との関係性や状況に応じた適切な使い分けです。例えば気軽な関係を望んでいる相手に「恐れ多い」を使うと、よそよそしい態度と受け止められ、逆に不興を買う可能性もあります。

状況に応じて「恐れ多い」を使いこなし、相手との信頼関係の構築と円滑なコミュニケーションを実現させましょう。