2020年の『半沢直樹』(TBS系)以来、ひさびさの大ヒットとなった『VIVANT』(TBS)の余韻が残る中、秋ドラマがスタート。

トリプル主演の月9ドラマ『ONE DAY~聖夜のから騒ぎ~』(フジテレビ)、今年2期目の放送となる『大奥 Season2』(NHK総合)、『silent』のスタッフが再集結したクアトロ主演の『いちばんすきな花』(フジ)、ヒットを連発する新井順子プロデューサー×塚原あゆ子監督が手がける『下剋上球児』(TBS)などの話題作がそろい、序盤からネット上にコメントが飛び交っている。

主要作がそろったこのタイミングで、「本当に質が高くて、今後期待できる作品」をドラマ解説者の木村隆志がピックアップ。俳優名や視聴率など「業界のしがらみを無視」したガチンコで、2023年秋ドラマ主要25作の傾向とおすすめ5作(前編)、目安の採点付き全作レビュー(後編)を挙げていく。

2023年秋ドラマの主な傾向は、【[1]各ドラマ枠が“変化球”を選択 [2]ベテラン女優たちが面目躍如】の2つ。

  • 鈴木亮平

    『下剋上球児』出演の鈴木亮平 撮影:蔦野裕

■傾向[1]各ドラマ枠が“変化球”を選択

今秋は各局のドラマ枠が、これまでのジャンルやイメージを度外視するような作品をそろえている。

まずフジの月9ドラマ(月曜21時台)は、2018年夏からほぼ刑事・医療・法律に限定していたが、前期はひさびさに原点の恋愛に戻り、さらに今期はクリスマスイブの1日を1クールで描く『ONE DAY~聖夜のから騒ぎ~』を放送。

テレビ朝日の火曜21時台は、それまで金曜深夜帯で5シリーズ放送されていたホームコメディ『家政夫のミタゾノ』を思い切って移動。「内容はそのままにゴールデン帯で放送」というテレ朝としては異例の戦略が見られる。

日本テレビの水曜ドラマ(22時台)は、主に職業ドラマと恋愛の2本柱だったが、今秋は笑って泣けるホームコメディ『コタツがない家』を放送。

  • 小池栄子

    『コタツがない家』出演の小池栄子 撮影:蔦野裕

フジの水曜21時台は、2022年春のスタート以来7作目で初めてファンタジー作の『パリピ孔明』を放送。

テレ朝の木曜ドラマ(21時台)は、刑事・医療がメインだったが、今秋は家族の介護や愛人との同居などを描く異色作『ゆりあ先生の赤い糸』を放送。

TBSの金曜ドラマ(22時台)は、深夜帯に「飯テロ」として選ばれることの多い料理がテーマの『フェルマーの料理』を放送。

TBSの日曜劇場(21時台)は、『VIVANT』を筆頭にスケールの大きい物語が選ばれがちだが、今秋は地方高校の弱小野球部が舞台のヒューマン作『下剋上球児』を放送。

あえてこれまでのイメージから離れることでインパクトを与えようとしているのだろう。また、ここ2年弱の間にドラマ枠が急増したことで、枠のイメージにとらわれていたら、かぶったり、埋もれたりなどのリスクがあり、各局のプロデューサーには思い切った企画が求められている。

『下剋上球児』は野球のシーンにアニメーションを使うなど演出面での新たなトライも目立ち、多くの作品がある中で見てもらうための競争が熾烈になっているのは間違いない。いずれにしても、「これまで培ってきた枠のイメージから離れる」という思い切った勝負をしているため、明暗が大きく分かれることになりそうだ。

  • 中谷美紀

    『ONE DAY~聖夜のから騒ぎ~』出演の中谷美紀

■傾向[2]ベテラン女優たちが面目躍如

前期の夏ドラマを振り返ると、ゴールデン・プライム帯で放送された新作の14作中9作が20代俳優の主演ドラマであり、しかも全員が民放で初めてか2回目だった。ちなみに30代以上の主演女優は50代の若村麻由美のみであり、いかに若返りが図られていたかが分かるだろう。

一方で今秋はアラフォー以上のベテラン女優が主演として起用されている。ゴールデン・プライム帯では、『ONE DAY~聖夜のから騒ぎ~』の中谷美紀(47歳)、『コタツがない家』の小池栄子(42歳)、『ゆりあ先生の赤い糸』の菅野美穂(46歳)、『ハイエナ』(テレ東)の篠原涼子(50歳)、『セクシー田中さん』(日テレ)の木南晴夏(38歳)。

深夜帯でも、『けむたい姉とずるい妹』(テレ東)の栗山千明(39歳)、『ブラックファミリア~新堂家の復讐~』(読売テレビ・日テレ)の板谷由夏(48歳)などが主演を務めている。

しかも小池と木南は民放ゴールデン・プライム帯の連ドラ初主演であり、板谷は連ドラ初主演。これまでバイプレイヤーとして連ドラを支えてきたベテラン女優が主演に起用されていることが興味深い。

演技力と知名度に疑いの余地はないだけに、難しいジャンルやテーマの作品に挑むとき、彼女たちの力が必要だったのだろう。とりわけ3人のダメ男を養う役の小池栄子、妖艶なベリーダンスを見せる木南晴夏、夫の愛人たちと対峙して怒り叫ぶ妻役の菅野美穂、娘の命を奪った一家への復讐に燃える母役の板谷由夏の熱演が評判を集めている。


  • 桜田ひより

    『家政夫のミタゾノ』『あたりのキッチン!』出演の桜田ひより 撮影:宮田浩史

  • 木南晴夏

    『セクシー田中さん』出演の木南晴夏

これらの傾向を踏まえた今クールのおすすめは、『あたりのキッチン!』(東海テレビ・フジ)、『下剋上球児』、『セクシー田中さん』の3作。

『あたりのキッチン!』は、数あるグルメドラマの中でも、人間ドラマとのバランスは最高レベル。自分を変えようと不器用ながらも一歩踏み出すヒロインを演じて共感を誘い、料理とともに人々の心を温めていく。料理の演出1つ取っても、作品全体から手間暇をかけるような温かさがただよい、日本のドラマが持つ普遍的な魅力が随所に感じられる。

『下剋上球児』は、包容力と危うさを併せ持つ主人公を鈴木亮平が繊細に演じ、単なるスポーツサクセスドラマに留まらない『日曜劇場』らしさを体現。美しくも懐かしいロケ映像に加えて、サスペンスを織り交ぜることで視聴者を巧みに引きつけている。

『セクシー田中さん』は、木南晴夏のダンスシーンだけでも見る価値アリだが、コンプレックスを克服していく過程や、生見愛瑠との絆も見どころ十分。序盤は女性目線に特化した物語で男性の描き方が一面的だが、中盤以降に性別を超えた爽快劇になることを期待したい。

  • 吉岡里帆

    『時をかけるな、恋人たち』出演の吉岡里帆

  • 多部未華子

    『いちばんすきな花』出演の多部未華子

『時をかけるな、恋人たち』は、「30分1本勝負!」のこだわりを詰め込んだSFコメディ。バカ、シュール、ナンセンスなどの小ネタを散りばめつつも映像はスタイリッシュで、サラッと楽しめてカラッと笑える作品に。平日23時台にしては贅沢なドラマと言っていいだろう。

その他、『いちばんすきな花』は、クアトロ主演+男女の友情という最高難度の設定をさばく生方美久の脚本が巧み。坂元裕二を彷彿する良くも悪くも理屈っぽいセリフの応酬は好き嫌いが分かれるが、オリジナリティは際立っている。

「視聴率や先入観だけで判断して見ない」というのはもったいないだけに、TVerや各局の動画配信サービスなどでチェックしてみてはいかがだろうか。

■2023年秋ドラマおすすめ5作

  • No.1 あたりのキッチン! (東海テレビ・フジ系 土曜23時40分)
  • No.2 下剋上球児 (TBS系 日曜21時)
  • No.3 セクシー田中さん (日テレ系 日曜22時30分)
  • No.4 時をかけるな、恋人たち (カンテレ・フジ系 火曜23時)
  • No.5 いちばんすきな花 (フジ系 木曜22時)