アップルが、2023年の新モデルとなる新しいApple Watch「Apple Watch Series 9」と「Apple Watch Ultra 2」を9月22日に発売しました。新機能の「ダブルタップ」も含めて、新しいApple Watchを約2週間ほど使ってみて分かった魅力と、少し物足りなく感じた点をレポートします。

  • 2023年モデルのApple Watch Ultra 2(右)と、Apple Watch Series 9(左)/45mmアルミニウムケース・ミッドナイト

最新S9チップの搭載により中味が大胆に進化

2023年のApple Watchの外観は、2022年モデルからほぼそのまま変わっていません。Series 9はSeries 8から、Ultra 2は初代のUltraからデザインを引き継いでいます。筆者が試したSeries 9のミッドナイトは色も同じ。Series 9とUltra 2は、ケースなど本体のパーツに再生素材を2022年のモデルよりも多く使っていますが、見た目の色合いや金属の持つ質感に優劣の違いもなさそうです。

どちらのApple Watchも、新製品は「中味の進化」に注目するべきです。決め手になるのは、アップルが独自に設計したAppleシリコンの「S9 SiP」(システム・イン・パッケージ)です。チップの高い性能と最新のwatchOS 10、ハードウェアとソフトウェアの連携によって、2023年モデルのApple Watchユーザーだけが楽しめる斬新な機能が生まれました。

S9チップは、前機種であるSeries 8に搭載されたS8チップよりも60%多い56億個のトランジスタを持つデュアルコアCPUと、最大30%高速なGPUを搭載しています。歴代のApple Watchの中で最もパワフルなチップです。

  • ふたつの新しいApple Watchは、アップルが独自に設計した「Apple S9」チップを搭載しています

watchOS 10のために再設計されたスマートスタック(ウィジェット)などのアプリで、正確で滑らかな動作を実現します。スマートスタックは、文字盤を表示している状態からDigita Crownを回すと起動。アプリの更新情報を見たり、タップするとアプリに移動するショートカットとしても機能するwatchOSの新しいユーザーインターフェースです。スマートスタックには、最大7件のウィジェットが置けます。

このスマートスタックに、Apple Watch Series 9/Ultra 2に搭載される、ハードウェアが実現する新機能の「ダブルタップ」が加わると鬼に金棒です。

  • Apple Watchに初めて採用されたウィジェット機能「スマートスタック」。ウィジェットは、最大7件の大きめなカードと、3件のコンパクトなアイコンスタイルのウィジェットがスマートスタックとして選択できます

「ダブルタップ」が便利な場面とは?

ダブルタップは、高性能なS9チップにより実現する機能です。10月のwatchOS 10のソフトウェアアップデートで追加を予定しています。

ダブルタップでは、Apple Watchに内蔵するセンサーが読み出した情報を束ねて、独自のアルゴリズムによりアプリケーションの操作などを行います。S9チップには、機械学習系のタスク処理に特化する4コア構成のNeural Engineがあります。Neural Engineは、Series 8よりも最大2倍速くなりました。

新しいApple Watchは、本体に加速度センサー、ジャイロスコープ、光学式心拍センサーがあり、それぞれのセンサーがウォッチを身に着けているユーザーの動きや手首の血流などを判定します。親指と他の指を軽く「トントン」とたたいてダブルタップするジェスチャーが行われると、watchOSのさまざまな操作に変換される仕組みです。

  • ダブルタップのジェスチャー操作が行われると、Apple Watchの画面に青い指のアイコンが表示され、操作を受付けたことが視覚的にも分かります

筆者がダブルタップを便利に感じたシーンはいくつかありました。例えば、自転車で走行中に「サイクリング」のワークアウトが自動検出された時です。これまでは、Apple Watchの画面にアラートが表示されると、いったん自転車を停止して左手首に着けたApple Watchの画面を、右手の指でタップして計測を開始していました。

【動画】屋外でサイクリングを始めたところ、ワークアウトを自動検出。Apple Watchの計測開始アイコンをダブルタップで選択して、自転車に乗ったままワークアウトの計測を開始できます

ダブルタップがあれば、ワークアウトを開始するアイコンを指のジェスチャーで選択できるので、自転車に乗ったままでも安全に操作ができます。

時計アプリの「タイマー」機能は、開始と停止をダブルタップで操作できました。キッチンで料理や片付けものをしている時には、Apple Watchを濡れた手で触る必要がなくなるので便利に感じられると思います。

【動画】Apple Watch Series 8の場合。「タイマー」アプリを起動して計測を開始するまで、複数回数の画面タップ操作が必要でした

【動画】Apple Watch Series 9の場合。スマートスタックに「タイマー」を登録しておけば、タイマーをスタートするまでに途中いくつかのステップが省略できます

ダブルタップは、ローンチ当初は指による「2回タップ」にのみ対応します。将来は2回以上のタップ動作を認識したり、他のハンドジェスチャーと組み合わせることもできたら、さぞ便利じゃないだろうかと思う反面、複数の操作方法を覚えるのも面倒な気がします。アップルも、とりあえずシンプルなダブルタップから導入を始めて、反響を見ながら手を加えることも検討しているのかもしれません。

レスポンスが速くなるSiriの音声操作

Apple Watchのようにディスプレイが小さなデバイスの場合、画面タップやボタンを使わないハンズフリー操作の使用感が向上することに大きな意味があります。

音声アシスタントのSiriも、S9チップの処理性能が向上したことによって、都度クラウドにつながなくてもリクエストをデバイス上で処理できるようになりました。

天気予報を聞いたり、言葉の検索などは従来どおりクラウドにつながるので、タイマーや目ざましの設定のようにデバイス上で処理が完結するリクエストをSiriに頼んでみました。最新モデルのUltra 2は、S8チップを搭載する初代のUltraよりも体感で微妙な差が分かるほどに処理が速くなっています。

【動画】初代Apple Watch UltraでSiriを呼び出してみました。十分に使えるレベルのレスポンスですが、最新モデルのUltra 2に比べるとやや反応が遅く感じられます

【動画】Apple Watch Ultra 2では、デバイス上の処理でSiriの呼び出しと操作がより速く実行されます

クラウドに接続しないことは、Siriへのリクエストがより安全に処理されることを意味しています。年内にはSiriを使って、ユーザーの健康データをApple Watchから入力できるようになります。当初は、対応する言語がユーザーの人口規模の関係から英語と北京語に限られるため、その便利さを日本語で実感できる時期は少し先になりそうですが、つい面倒で忘れがちになる服薬やバイタルのデータ記録が声による操作で手間なくできればデータの密度が高まり、正確性が増してきます。

高機能かシンプルか? おすすめの文字盤

Apple Watch Ultra 2には、新しい文字盤「モジュラーUltra」が加わりました。時刻のほかに最大7つのコンプリケーションと、ベゼルにも情報が配置できます。

  • 表示できる情報量が多く、Apple Watch Ultraの本体のデザインにもベストマッチする文字盤「モジュラーUltra」

watchOSのコンプリケーションは、アプリの情報を素速く参照したり、アプリの本体に最短でアクセスするためにとても便利です。ただ、最新のwatchOS 10では新設されたスマートスタックのウィジェットは、コンプリケーションと同じ役割を果たすことができます。

そのため、スマートスタックを活用すれば、「写真」や「スヌーピー」「アーティスト」のようにコンプリケーションの情報が少なめな文字盤が選びやすくなり、結果的にApple Watchの画面に視線を落としている時間が少し短くなると筆者は感じました。デジタル・デトックス的な効果が得られるのかもしれません。

日本対応が待ち遠しい「iPhoneを正確に探す」機能

新たにS9チップを搭載する2023年のApple Watchは、やはりダブルタップが斬新で好印象でした。ダブルタップの処理は、S9よりも前の世代のチップでは対応し切れないという理由から、筆者が使っている初代Apple Watch Ultraには今後も対応する予定がありません。そのため、Apple Watch Series 9を買い足したくなってきます。どうせならば、見た目から即座に最新のSeries 9であることがわかる、アルミニウムケースの「ピンク」も良さそうです。

新しいApple Watchについて、ひとつ物足りなく感じる点があります。S9チップが搭載する第2世代の超広帯域無線(UWB)チップが実現する、ペアリングしたiPhoneの「正確な場所を見つける」機能、ならびに第2世代HomePodとのメディアコントロール連携が、日本国内の無線規制に触れることから使えないことです。特に、筆者は自宅で、あるいはたくさんの手荷物と一緒に持ち歩いているはずのiPhoneを見失うことがよくあるので、正確な追跡機能の国内導入が「早め」に成就することを期待しています。

  • Apple Watch Series 9とUltra 2は最新世代のUWBを搭載していますが、無線電波の規制により日本国内ではまだiPhoneの「正確な場所を見つける」機能が使えません