第82期A級順位戦(主催:朝日新聞社・毎日新聞社)は、開幕局となる豊島将之九段―稲葉陽八段戦が6月14日(水)に関西将棋会館で行われました。対局の結果、矢倉の力戦を117手で制した豊島九段が名人挑戦に向け好スタートを切りました。

矢倉の横歩取り型

先手となった豊島九段は初手に角道を開けて矢倉を志向します。飛車先の歩交換ののち横歩を取ったのは積極的な作戦で、本局は矢倉において流行しつつある力戦形に落ち着きました。後手の稲葉八段は歩損の代償に角を上がって先手の飛車をけん制。昼食休憩を前に盤上はすべての実戦例を離れ、ここから順位戦らしい長考合戦が始まります。

手番を握る稲葉八段は前線に繰り出した金銀で先手の飛車を圧迫する方針を継続しますが、この直後に先手の豊島九段に好手が出ました。自陣の桂取りを放置して4筋に歩を合わせたのが手筋。十字飛車の筋を含みに後手の角筋を止めてしまえば、稲葉八段は先手の飛車が2筋に戻るのを拒否できません。この手を境に局面は豊島九段のペースに転じました。

豊島九段が小駒の攻め繋ぎ快勝

穏やかな第二次駒組みに入り、豊島九段は自玉をカニ囲いから派生した堅陣に収めます。逆転の手段を求める後手の稲葉八段が2筋に飛車を回ったのに対しても、豊島九段の対応は冷静でした。軽い歩打ち一本で飛車先逆襲を抑えつつ、一転して左辺に角を転換したのが明るい大局観。これによって稲葉八段の金銀3枚は盤上右方に取り残された格好です。

優勢となった豊島九段は小駒を駆使して一歩ずつ稲葉玉への寄せの網を絞ります。終局時刻は23時36分、自玉の受けなしを認めた稲葉八段が投了。中盤で飛車の救出に成功してから緩みない指し回しで攻め切った豊島九段が、名人挑戦に向け好スタートを切りました。2回戦で豊島九段は佐々木勇気八段、稲葉八段は渡辺明九段との対局が組まれています。

  • 2017年の初参戦以来、豊島九段はA級初戦の成績が5勝1敗と相性が良い(1期は名人)(写真は第6期叡王戦五番勝負第4局のもの 提供:日本将棋連盟)

    2017年の初参戦以来、豊島九段はA級初戦の成績が5勝1敗と相性が良い(1期は名人)(写真は第6期叡王戦五番勝負第4局のもの 提供:日本将棋連盟)

水留 啓(将棋情報局)

この記事へのコメントは、こちらからお願いします。