渡辺明名人への挑戦権を争う第81期順位戦(主催:朝日新聞社・毎日新聞社)は、10月19日(水)にB級2組5回戦の一斉対局が行われました。今回は5回戦から▲藤井猛九段(3勝1敗)―△戸辺誠七段(2勝2敗))戦を紹介します。

振り飛車党同士の一戦ということもあって、当然のごとく相振り飛車に。これまで9戦している両者(戸辺七段の5勝4敗)ですが、1局を除き、全て相振り飛車でした。本局は相三間飛車となりましたが、両者の中では最も多く指されている戦型です。 藤井九段が金無双を目指す形で玉を3八まで移動させたのに対し、戸辺七段は居玉のまま5三銀、6三銀、7二金の形を完成させます。あとは玉が8二まで入ればと考えられますが、8二だと先手の攻撃陣に狙われる(例えば端攻めが近くなる)可能性もあるので、居玉のままのほうがかえって安全ということもあります。この辺りのバランスのとり方が現代将棋のテーマの一つと言えます。

以下の順で藤井九段は左銀を4五、3四へと単騎突進させ、後手の歩をかすめ取ります。さらにこの銀は5六まで戻ってきました。手損には見えますが、銀にひもがついて安定したということも出来ます。それならば歩得の実利が生きてきそうです。

ゆったりした流れになると先手の歩得が生きると見たか、戸辺七段は△5四銀右と出て、次に△5五銀からの銀交換を目指します。銀を持ち合うのは互いの陣形の関係上、後手のほうに手段が多そうなので、このタイミングで藤井九段は▲9四歩と、得した歩を活用すべく端攻めに出ました。以下の順で後手は銀交換を、先手は9筋突破を目指し、お互いが我が道を行きます。さらに大駒を取り合う展開になるなど、局面はめまぐるしく動きますが、形勢としては難しい進行が続いています。

クライマックスは111手目の局面。藤井九段が▲9五桂と後手玉を縛った局面です。しかしまだ後手玉に詰みはありません。ここで△5七歩成ならば先手玉に詰めろが掛かりますが、▲8三銀△6三玉▲5五桂△同馬▲同金が詰めろ逃れの詰めろで先手勝ち筋になります。

戸辺七段は△4八金と王手で迫り、▲同飛△同馬▲同玉△5七角▲5九玉△9九飛と王手桂取りをかけました。▲6九香に△9五飛成と要の桂を取った手が、さらには4五の金にも当たっています。後手は次に4五の金を取るか、あるいは△9八竜と再度敵陣に侵入すればいずれも先手玉の詰めろになるので、こうなれば後手が勝ちそうですが、それを許さない好手が藤井九段の側にありました。

▲7五桂の詰めろです。これは△同歩と取られる形ですが、その順だと空いた空間に▲7四角と打つ手があり、先手の攻めはほどけません。戸辺七段は△7五同角成という非常手段を発動し、▲同歩に△5七歩成と迫りますが、▲5八歩が冷静な受けで先手の勝勢がはっきりしました。

戻って、111手目の局面では△4四銀という順がありました。対して▲同金は△同歩が先手玉の詰めろになります。銀に構わず▲4一飛成と詰めろを掛けるのは△4八金から長手数ながら先手玉に即詰みが生じています。△4四銀には▲6九香と詰めろを防ぎつつ急所の馬に働きかけて、難解な戦いのようです。

相振り飛車の熱戦を制した藤井九段が1敗を守りました。B級2組は折り返しの5回戦を終えて、5勝0敗でトップに立つのが連続昇級を目指す大橋貴洸六段、4勝1敗で木村一基九段、増田康宏六段、佐々木慎七段、行方尚史九段、藤井九段が続いています。

相崎修司(将棋情報局)

折り返し地点を終え、昇級争いの好位置につけた藤井九段
折り返し地点を終え、昇級争いの好位置につけた藤井九段