「けんもほろろ」の「けん」の意味は?
「けんもほろろ」という言葉を聞いたことはありますか? 取りつくすべもなく相手から拒絶された際などに使える言葉です。今回は「けんもほろろ」の意味や語源、使い方などについて、ライティングコーチの前田めぐるさんに解説してもらいました。
「けんもほろろ」という言葉に対して、あまり好ましいことではないような印象を持っている人は多いと思います。一体どのような成り立ちがあるのでしょうか?
剣の刃先がホロホロとこぼれるくらい無残に打ち負かされること? それとも、権力を持っている人がボロボロになるくらい打ちのめされること?
今回はそんな「けんもほろろ」の正確な意味や使い方について、解説します。
「けんもほろろ」とは、どういう意味?
「けんもほろろ」を辞書で引いてみました。
けんもほろろ
(「けん」も「ほろろ」も、キジの鳴き声。それと「けんどん(慳貪)」を掛けたものか)無愛想に人の相談などを拒絶するさま。取りつくすべもないさま。
(『広辞苑 第七版』岩波書店)
以上のように、取りつくすべもなく相手から拒絶された場合などに用いる言葉です。
ちなみに、「けんどん(慳貪)」の意味は以下の通りです。
慳貪(けんどん)
(1)物を惜しみ貪ること。けちで欲ばりなこと。
(2)なさけ心のないこと。むごいこと。また、愛想がないこと。邪慳(じゃけん)。
(『広辞苑 第七版』岩波書店)
(2)の愛想がないことなどの意味と、キジの鳴き声を掛け合わせて、「けんもほろろ」という言葉になったのですね。
「けんもほろろ」の語源とは?
ここでは、「けんもほろろ」の語源をさらに深く紹介していきます。
「けん」も「ほろろ」もキジの鳴き声
辞書によれば、「けん」も「ほろろ」もキジの鳴き声で、それが無愛想に聞こえることから使われるようになった慣用句だと分かります。
また「けん」については、態度や言葉がとげとげしていて不親切なさまを表す「突慳貪(つっけんどん)」の“慳”でもあり、それと掛けたという説もあります。
そこで、「“剣”ではなく“慳”、“突慳貪(つっけんどん)”の“慳”ね。剣とは関係なかったか」と思うかもしれません。
ところが、辞書によっては「“剣突”や“慳”の“けん”」との記載も見つかるので(『慣用句・ことわざ・四字熟語辞典』東京堂出版)、剣の文字が全く無関係なわけでもありません。
剣突(けんつく)
荒々しく叱り付けること。荒い小言。
(『広辞苑 第七版』岩波書店)
こうなると、不愛想なだけでなく、先鋒鋭く荒っぽい様子も感じられます。
「ほろろ」は、羽音でもある?
さて、ほとんどの辞書には「けん」も「ほろろ」もキジの鳴き声とだけ書かれています。
一体どれほど無愛想な鳴き声なのか、多くの鳥がいる中でことさらキジが素っ気ない鳴き声なのか……と思いますよね。
確かに「けん」は、カ行でもありちょっと尖った語感があることから、つっけんどんな感じはありそうですが、「ほろろ」についてはどうなのか。普段キジの鳴き声を聞く機会がないだけに気になります。
そこで、さらに「ほろろ」について調べてみると、「鳴き声」であると同時に「羽音」という記載も見つかりました。
ほろろ・打つ
(「ほろろ」はキジ、山鳥などの鳴き声、羽音を表す語)キジ・山鳥などが羽ばたきをする、また羽ばたきをして鳴く。
(『故事俗信ことわざ大辞典』小学館)
「ほろろ」は鳴き声でも、羽音でもあるようです。また、羽ばたきをして鳴くことも意味しています。
「ほろろ」については、古今和歌集に次のような歌があります。
・妻恋ひに 飛び立つきじの ほろろとぞ鳴く
この和歌では、雄のキジが雌を恋しがって、飛び立つ時に鳴く様子が詠まれています。
You Tubeで「キジの鳴き声」と検索して聞いてみると、確かに「ケンケン」と鳴いています。そして、立ったまま羽をばたつかせて鳴くので、羽音も聞こえます。
動画からは、「ケンケン」と鳴いてから「ホロホロ」というような羽音を立てるキジの様子が見てとれました。
以上のことから、「けんもほろろ」は、
・「ケンケン」「ホロホロ」というキジの素っ気ない鳴き声
・「ケンケン」と鳴いてから「ホロホロ」と羽音を立てる音
に由来した慣用句であるといえます。
「けんもほろろ」は、どんな時使えるのか?(例文付き)
さて、そんな「けんもほろろ」を実際に仕事やプライベートで使うとしたら、どんな場面が考えられるでしょうか。
例えば、次のようなことを申し込んで断られた場面が想定できます。
・依頼
・相談
・提案
・営業
断られた本人が誰かに報告する場合だけでなく、その様子を第三者の誰かに伝える場合にも使えます。
また「けんもほろろだった」という使い方以外に、助詞を加えて「けんもほろろに〜」「けんもほろろの〜」という使い方もできます。
依頼(講演・出演・仕事など)を断られた時
例文
・最近話題になっている教授に講師を依頼したが、けんもほろろだった。
相談事(悩み相談、買収など)を断られた時
例文
・専務はK社の社長に買収話を持ち掛けたが、けんもほろろの結果だったらしい。
提案(企画や見積もりの提案など)を断られた時
例文
・先方に企画書を受け取ってもらったまではいいのですが、最後まで読んでもらえないまま「話にならん」とけんもほろろに突き返されました。
営業(営業や面談など)で断られた時
例文
・新規開拓しようと張り切って飛び込み営業しましたが、けんもほろろに断られました。
「けんもほろろ」の類語・言い換え表現
ここでは、「けんもほろろ」の類語や言い換え表現を紹介していきます。
「取りつく島がない」
「取りつく島がない」とは、「頼りにしてすがるところがない。相手の態度が冷淡で、近づくこともできない様子」という意味です。
例文
・何とかもう一度契約を考え直してほしいとお願いしましたが、取りつく島がない状況でした。
「木で鼻をくくる」
「木で鼻をくくる」とは、「ひどく無愛想で素っ気ない様子」という意味です。
例文
・少しは期待していたのに、木で鼻をくくったような返事だった。
「にべもない」
「にべもない」とは、「愛想も素っ気もない様子」という意味。
「にべ」とは、魚の浮き袋(にべ)から作る粘り気の強いニカワのことでもあり、その粘りがないことから、素っ気ない様子を表します。
例文
・一度だけでもと面会を申し込んだが、にべもなく拒否された。
知らない言葉に出会ったら、まず調べてみよう
慣用句の中には、今回の「けんもほろろ」のように、自然の動植物が出てくるものがあります。
日本古来の自然と共にある暮らしの中で生まれた表現が、時代を超えてもなお、実感を伴って人々に用いられ続けるというのは、なかなか難しいのかもしれません。
それでも、言葉の意味を知っていれば、それを聞いた時に戸惑う機会は確実に減るでしょうし、表現の幅も広がるはずです。
そのためにも、知らない言葉に出会ったら、まずその場で調べてみることが大切だといえそうですね。
(前田めぐる)
※画像はイメージです
※この記事は2020年08月25日に公開されたものです