データやAIへの投資が進む一方で、十分なデータを保持しながらも、意思決定の遅れや部門間のサイロ化に悩んでいる企業は少なくない。市場データ、商品企画、開発、調達、販売、商品情報。それぞれの業務でデータを保有していても、プロセス全体がつながっていなければ、変化する市場や顧客ニーズに素早く対応することは難しい。
「ビジネスが停滞する原因は、データの量ではなく、企画から計画、そして顧客に伝えるところまでの一連の流れがつながっていない点にある」と指摘するのは、セントリックソフトウェア Centric PLM セールスマネジャー 福島裕太氏とCentric PXM アカウントエグゼクティブ 小岩峻一氏だ。
2026年9月15日-16日に開催されたオンラインセミナー「TECH+ データ×イノベーションEXPO 2026. Sep. イノベーションの停滞要因を打破するデータの活かし方」で、商品ライフサイクル全体を貫くEnd-to-Endのアプローチを解説した。
「計画する」「開発する」「伝える」― 商品コンセプトから顧客接点までをつなぐ
米シリコンバレーに本社を構えるセントリックソフトウェアは、ファッション、スポーツ、化粧品、食品・飲料、家具・生活雑貨から総合小売のプライベートブランドまで、世界で2万を超えるブランドが導入されている。福島氏はまず、同社が掲げる「計画する」「開発する」「伝える」という3つのキーワードを提示した。セントリックのソリューション群は、この3つのキーワードに沿って、市場や競合を理解し、商品を計画・開発し、調達・生産して売り場に届けるまでの一連のプロセスをEnd-to-Endで支援する。
市場を「感覚」ではなく「データ」で読む ― Centric Market Intelligence
この一連のプロセスの起点となるのが、AIで市場情報を収集・分析する「Centric Market Intelligence」である。
同ツールは、人が服を見て「ノースリーブ、青いレース、カクテルドレス、膝丈」と特徴を捉えるのと同じ視点をAIに持たせ、画像とテキストから商品の属性情報を自動で読み取る。この粒度の情報を、自社だけではなく、競合各社の商品から毎日取得できる点が特徴だ。競合との品揃えの過不足や展開色の割合、さらにはECサイトにおける値引き率の推移などを、感覚ではなく数字で把握することできる。
「各社の値引き率の推移を見て、自社が動くタイミングを決めることもできます」(福島氏)
分断された計画業務を1つの基盤へ ― Centric Planning
「Centric Planning」は、市場分析から戦略策定、販売、そして終売までの商品ライフサイクルを、1つの基盤で支えるソリューションだ。
福島氏は、意思決定がリアルタイムに進まない要因として、Excelに代表されるシステムの分断、デザイン・MD・バイヤー・品質管理など部門間の調整作業、そしてデータやAIから有効な情報を引き出しにくいことの3点を挙げた。
Centric Planningはこれに対し、計画の元となる商品データの構造化、標準テンプレートによる集計・調整作業の自動化、トレンドや競合データを取り込んだ最適化・自動提案という3つの側面から、速く精度の高い判断を後押しする。
実際に導入した企業では、計画サイクルを1カ月から1週間に短縮。営業利益率を5.6%から12%へと2倍以上に高めた事例もあるという。
最もデジタル化が遅れた領域を変える――Centric PLM
そして、商品企画・開発・調達業務を効率化するのが「Centric PLM(Product Lifecycle Management)」だ。
福島氏が着目するのは、この領域の重要性とデジタル化の遅れのギャップだ。サプライチェーンのなかで、製造・物流などの川下プロセスはIT化が進んでいるが、上流の企画・調達業務はいまだにExcelやメール、PDFといった属人的なアナログ管理が主流となっている。しかしこの領域は、アイデア出しから出荷までに要する時間の60〜80%、オペレーションコストの30%を占める、非常に重要なプロセスだ。
Centric PLMは、仕様書やデザイン書、発注書などを一元管理し、点在する情報を探す手間や二重入力を排除する。常に最新情報へアクセスできる状態をつくることで、部門横断で進捗状況を可視化し、タスクの抜け漏れを防ぎリードタイムを短縮できる。
そして、福島氏が「実は一番大きな効果だと考えているのが、ものづくりのノウハウを蓄積し、標準化できることです」と語るように、過去の成功パターンやベテランの知見をシステム内にテンプレートとして蓄積できる点も強みだ。属人化を排除し、業務の再現性確保や品質の底上げが可能となる。
顧客価値のラストワンマイル。AI時代に求められる情報整備とは
後半に登壇した小岩氏は、「良い商品をつくれば、それだけで顧客に魅力や価値が伝わるわけではない」と切り出し、つくられた商品をどのように市場や顧客へ届けていくか解説した。
現在、企業内には仕様、価格、画像、動画、販促テキストなど多種多様な情報が存在している。しかし、それらが基幹システムやファイルサーバー、個人のPC、あるいは担当者の頭の中などに分散するサイロ化が起きており、全社的な連携が取れていないケースが多い。
検索エンジンやECサイトだけではなく、外部のLLMサービスやAIエージェントが商品の調査・比較・推薦を行う購買行動が増えている。こうした環境では、従来のような手作業による情報集約・更新のままでは対応が難しくなりつつある。
「企業側は、AIからの流入や購買を前提として商品情報を適切に管理・整備しておく必要があります」(小岩氏)
AIに商品を正しく理解・推薦してもらうためには、以下の4つの要件を満たす情報整備が不可欠だという。
- 構造化されていること:人の目だけではなく、名称やスペック属性などのメタデータが整理され、AIが扱える形になっている。
- 一貫していること:チャネルやシステム間で表記や値、定義に矛盾がない。
- 意味・関係性が明確であること:原料の産地やつくり方、関連商品とのカテゴリー構造など、関係性をAIが推論できる。
- 正確で最新であること:古い価格や仕様が残っていると誤った回答につながる。常に最新の状態を反映する仕組みが必要。
つまり、AI活用を進めるためには、AIそのものを導入するだけでは不十分だ。その前提として、人にもAIにも利用できる、信頼性の高い商品情報基盤を整備する必要がある。
「信頼できる唯一の情報源」を確立し、分断された情報をつなぐCentric PXM
こうしたAI時代の情報整備と発信を強力に支援するのがCentric PXMである。
PXMは大きく3つのステップで企業の情報を統合・最適化する。まず、PLMやERP、ファイルサーバーなどに散在する情報を集約する「オンボーディング」。次に、集めた仕様データに説明文や画像・動画などを紐付け、マーケティングや販売用途に合わせて内容を充実させる「エンリッチメント」。そして最終的に、WebサイトやEC、店舗など、各チャネルに求められる最適な形式で情報を配信する「シンジケーション」だ。
この基盤を支えるのが、正確に構造化された商品情報を管理する「PIM(Product Information Management)」、画像や動画などのデジタルアセットを管理する「DAM(Digital Asset Management)」、そして顧客接点や用途に応じて商品体験を最適化する「PXM(Product Experience Management)」の3つだ。
これらを統合することで、社内外のどこからアクセスしても「ここを見れば確かな情報がある」という「SSOT(Single Source of Truth:信頼できる唯一の情報源)」を確立できる。手作業によるマニュアル対応から脱却し、常に最新かつ最適な情報を提供し続ける仕組みが実現されるのだ。
PLMとPXMをつなぐことで、商品データが「顧客価値」へ変わる
冒頭で示したように、セントリックのソリューションは市場分析から商品情報の配信までを一気通貫でカバーする。だからこそ企業は、自社の課題に合わせて上流のPLMから着手することも、川下のPXMから着手することもできる。ただし本来、これらのプロセスは一体だ。優先度や状況に応じて段階的に整えながら、最終的にプロセス全体をつなぐことが、顧客価値の提供には欠かせない。
AI時代に重要なのは、単にAIを使うことではない。市場を理解し、その情報を商品計画や開発へ反映し、より良い商品をより速く市場へ送り出す。そして、その商品の価値を、正確で魅力的な情報として顧客へ届ける。
さらに、その情報を人だけではなくAIも正しく理解・活用できる状態で管理し、その価値や魅力を正しく伝えられる状態をつくること。つまり、使用、商品、顧客をつなぐデータ基盤を構築し、商品ライフサイクル全体の意思決定とアクションを高速化することが、AI時代の商品ビジネスにおけるデータ活用の本質と言えるだろう。
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