離れた場所の状況をリアルタイムで把握し、現場へ行かなくても確認できる。こうした取り組みを支えているのが、さまざまな機器をネットワークでつなぐIoTです。近年では、河川の監視や農地の環境計測、インフラ設備の異常検知など、社会インフラや産業分野の幅広い現場へ活用が進んでいます。
しかし、こうした活用が求められる現場の多くは、通信環境の確保が容易ではありません。農地や河川、山間部といった「本当にデータを取得したい現場」ほど、ネットワークを利用しにくく、必要な情報を安定して収集できないことが課題となっています。
この課題に対し、フルノシステムズは長年培ってきた無線LAN技術を生かし、新たな無線規格「Wi-Fi HaLow™(ヘイロー)」※を活用したIoTソリューションを展開しています。同社はIoT市場の現状をどのように捉え、社会課題の解決にどのような価値を提供しようとしているのか。株式会社フルノシステムズ IoT推進室 室長の川地 耕二 氏にお話をいただきました。
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株式会社フルノシステムズ IoT推進室 室長 川地 耕二 氏
身近なIoTから現場DXを支えるIoTへ、広がる活用と通信課題
──まず、IoTとはどのようなもので、現在はどのような場面で活用されているのでしょうか?
IoTは、さまざまな電子機器をネットワークにつなぎ、情報を収集・活用する仕組みです。身近なところでは、音声アシスタント機能を搭載したスマートスピーカーやスマート家電、見守り機器などにもIoT技術が活用されています。
一時期はIoTという言葉そのものが注目を集めていましたが、今では社会に広く浸透し、当たり前の技術になっています。私たちが日常的に利用しているサービスや情報の多くは、IoTによって収集されたデータが活用されています。
また、最近は活用領域も幅広くなっており、河川監視や農業、防災、インフラ設備の監視など、現場の状況を遠隔から把握するIoT、いうなれば「現場DXを支えるIoT」といえる活用が進んでいます。
──「現場DXを支えるIoT」とは具体的にどのようなものでしょうか?
「現場DXを支えるIoT」とは、人が現場へ足を運ばなくても、必要な情報をリアルタイムに収集・把握できる仕組みです。
例えば、河川監視では、豪雨時の水位変化や周辺状況をリアルタイムに把握できるほか、異常の早期検知にも役立ちます。農業分野では作物の生育状況や温湿度データを収集でき、設備監視では異常の兆候を検知してトラブルを未然に防ぐことが可能です。
昨今、少子高齢化や人手不足を背景に、限られた人員で広いエリアや多くの設備を管理する必要性が高まっています。そうした中、頻繁に足を運ばなくても現場の状況を把握できるIoTは、省人化や安全性向上を支える有効な手段としてとても期待されています。
私たちも、こうした現場DXを支えるIoTは業務効率化にとどまらず、防災やインフラ保全といった社会課題の解決にも大きく貢献できると考えており、その可能性に注目しています。
──IoTは身近にあるものでありながら、現場DXを支えるなど社会課題の解決においても役立つものなのですね。一方で、活用が広がるなかで現場ならではの難しさもあるのでしょうか?
そうですね。IoTの活用領域は広がっていますが、農地や河川、工場、インフラ設備などの広域かつ遠隔地では、データを取得したい現場ほど通信環境の整備が難しいという課題があります。従来のWi-Fiでは通信距離が不足し、LPWA(Low Power Wide Area:低消費電力で広範囲にわたる通信を実現する技術)では映像など大容量データの伝送に制約があるため、用途によっては必要な情報を十分に取得できないケースもあります。
──そうした課題を解決するうえで、通信にはどのような役割が求められるのでしょうか?
現在、解決策の一つとして注目しているのがWi-Fi HaLowです。これは、従来のWi-Fiよりも長距離の通信が可能で、映像伝送にも対応できる無線規格です。農地や河川、山間部といった「通信環境の整備が難しい現場」でも活用が期待されており、2022年から日本でも利用可能になりました。
実際に、自治体や企業を中心に実証実験が活発に進められており、河川監視や防災、インフラ監視といった分野では導入も始まっています。ただ、市場全体としてはまだ立ち上がりの段階です。今後は、Wi-Fi HaLowだからこそ実現できるユースケースを増やしながら、その価値をさらに広げていく必要があると考えています。
Wi-Fi HaLowが実現する長距離通信とIoTソリューション
──そうした可能性に着目して、フルノシステムズではどのようなアプローチをされているのでしょうか?
私たちは長年にわたり、学校や自治体など高い信頼性が求められる現場で無線LANを提供してきました。そうした通信技術や運用ノウハウを生かすことで、Wi-Fi HaLowは地域社会の課題解決に大きく貢献できる可能性があると考えています。
そこで、日本でWi-Fi HaLowが利用可能になったタイミングでIoT推進室を設立しました。また、Wi-Fi HaLowならではのユースケースを創出していくため、日本でいち早く技術適合認証を取得し、対応製品の開発と市場展開を進めてきました。その取り組みの一環として、2023年には対応アクセスポイント「ACERA (アセラ)331」の販売を開始しています。
ただし、社会課題を解決するには通信技術だけでは不十分です。現場の状況を取得するセンサーやカメラなどのエンドデバイス、データを収集・伝送するネットワーク、さらには取得したデータを分析して価値ある情報へと変換するAIまでを組み合わせ、課題解決型のソリューションとして提供していくことが重要になります。
当社は長年培ってきた無線ネットワーク技術を強みにしながら、「802.11ah推進協議会」を通じて、製品開発に強みを持つ国内外のメーカー、課題解決型のシステム構築を得意とするシステムインテグレーターとの連携を進めています。
単に通信機器を提供するのではなく、デバイス、ネットワーク、AIをつなぐ「ハブ」として、さまざまなパートナーと協力しながら社会課題の解決につながる実用的なIoTソリューションの実現に取り組んでいます。
林業・防災・インフラ監視で進むWi-Fi HaLow活用事例
──現在取り組まれているプロジェクトにはどのようなものがありますか?
現在、林業やインフラ監視、防災分野でIoT、特にWi-Fi HaLowの実証実験や導入を進めています。
具体的な事例としてまずご紹介したいのが、林業における人手不足や安全性向上といった課題の解決を目指し、徳島県那賀町で進めているIoT活用です。町の大部分が森林を占める同地域では、林業が基幹産業となっています。しかし、林業従事者の高齢化や人手不足が大きな課題となっており、担い手不足が深刻化しています。こうした背景から、作業の省人化や安全性の向上が求められています。
特に課題となっているのは、伐採した木材をケーブルで搬出する「架線系集材作業」です。伐採現場まで車両が入れないケースも多く、架線系集材が広く行われています。
そのなかでも、木材をワイヤーで運搬するためにフックへ固定する「荷かけ作業」は、作業員が木材の近くで作業しなければならず、危険性の高い工程として知られています。架線系集材における死亡災害の多くはこの荷かけ作業中に発生しており、作業員の安全確保や労働災害の防止が重要なテーマとなっています。
従来も、木をつかむグラップル(伐採した樹木をつかみ取る機械)を無線で操作する仕組みはありました。しかし、伐採現場と搬出先が遠いため、作業員の一人は伐採木の近くまで移動して操作する必要があり、もう一人は搬出先で操作を行うなど、複数人での作業が前提でした。また、斜面の移動や木材付近での作業には労働災害のリスクも伴っていました。
そこで当社はWi-Fi HaLowの長距離通信と、遠隔操作に必要となる高精細な映像を安定して伝送できる通信環境を提供することで、作業員が安全な場所からカメラ映像を確認しながらグラップルを操作できる実証実験に参画しています。
この取り組みにより、作業員が伐採木の近くまで移動する必要がなくなり、危険な場所での作業の削減や省人化につながる可能性が見えてきました。安全性向上と人手不足解消の両立が期待されています。
──林業以外ではどのような現場で導入が進んでいますか?
このほか、埼玉県秩父市では、Wi-Fi HaLowとIPカメラを活用した人流・交通量の可視化にも取り組んでいます。観光地の混雑状況や交通量を把握することで、オーバーツーリズム対策や観光客の満足度向上に役立てられています。
この取り組みでは、フルノシステムズが提供するWi-Fi HaLowの長距離通信とリアルタイム映像伝送技術を活用し、離れた場所に設置したIPカメラの映像を収集しています。映像を活用した人流・交通量の把握を可能にすることで、地域課題の解決にIoTを活用した好例といえるでしょう。
さらに、今年度は総務省の地域社会DX推進パッケージ事業の一環として、徳島市でWi-Fi HaLowと準天頂衛星システム「みちびき」を活用した小学生の通学路見守りの実証事業を予定しています。
この取り組みは、南海トラフ巨大地震の発生を想定した防災対策の一環です。子どもたちに小型のGPS端末を持ってもらい、準天頂衛星「みちびき」を通じて、登下校中の位置情報を把握できる環境の構築を目指しています。
災害が発生した際には、AIがそれぞれの子どもの居場所から避難すべき場所を割り出し、端末に内蔵したスピーカーを通して誘導する仕組みも検討しています。当社は、こうした多数の端末から送られる位置情報を安定して収集するとともに、緊急時に必要な情報を確実に届けるための通信環境の構築を担っています。
2026年の秋ごろから実証実験を始め、来年には製品化まで持っていきたいと考えており、学校と地域を結ぶ新たな通信インフラとしての活用が期待されています。
その他、大雨が発生した時の河川監視などにも、当社の技術が採用されている事例もあるものの、市場全体を見ると現場のIoTの活用を支えるWi-Fi HaLowはまだ立ち上がりの段階です。「Wi-Fi HaLowだからこそ実現できるソリューション」や「誰もがイメージできる代表的なユースケース」は、これからさらに創出していく必要があると感じています。
社会課題解決を支える技術パートナーとして期待が高まる
──IoT事業を進めるなかで、事業を取り巻く市場環境やニーズなど、感じている変化はありますか?
最も大きな変化は、これまで接点の少なかった業界の方々からの問い合わせが増えたことです。従来は、教育機関向けの無線LANメーカーとして認知されることが多かったのですが、現在では、自治体やインフラ事業者、農業・林業関連事業者など、幅広い分野のお客様から相談をいただくようになりました。
また、ご相談いただく内容も大きく変化しています。以前は「無線LANを導入したい」「通信環境を整備したい」といった設備導入に関する相談が中心でした。ただ最近では「人手不足を解消したい」「現場の安全性を向上したい」「災害に強い地域づくりをしたい」といった社会課題そのものに関するご相談が増えており、さまざまな現場でIoT活用への期待が大きくなっていることを実感しています。
当社に対する期待も、無線機器メーカーから社会課題解決を支える技術パートナーへと広がってきていると感じています。
──最後に、今後の展望をお聞かせください。
現在、Wi-Fi HaLowは920MHz帯を中心に利用されていますが、今後は850MHz帯への対応も進む見込みです。さらなる長距離通信や障害物透過性の向上が期待されており、防災や見守り、インフラ監視などの分野で新たな可能性が広がると考えています。
私たちは、単に通信機器を提供する会社ではなく、さまざまなパートナー企業と協力しながら社会課題を解決する「プラットフォームの担い手」になることを目指していきます。
フルノシステムズが強みとするネットワーク技術とデバイス開発力を土台に、AIやアプリケーションのパートナーとの協業をさらに進めることで、現場で本当に役立つソリューションを社会に提供し続けていけるはずです。
──ありがとうございました。
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Wi-Fi HaLow対応 アクセスポイント「ACERA 331」
※ Wi-Fi HaLow™はWi-Fi Allianceの商標です。
[PR]提供:フルノシステムズ














