GIGAスクール構想による1人1台端末の配備や校内ネットワークの整備を経て、教育現場はいまNEXT GIGAと呼ばれる新たな過渡期を迎えています。学校や教育委員会のICT担当者は、今後どのような指針をもってICT環境を整備していくべきなのでしょうか。本稿では、教育工学の第一人者である東京工業大学(現・東京科学大学)名誉教授の赤堀 侃司 氏に、NEXT GIGAにおけるICT環境再整備のポイントを伺います。
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工学博士 東京工業大学(現・東京科学大学)名誉教授
赤堀 侃司(あかほり かんじ) 氏
東京工業大学大学院修了。静岡県の高等学校教諭から、東京学芸大学講師・助教授、東京工業大学教授、白鷗大学教授・教育学部長などを経て、一般社団法人ICT CONNECT 21名誉会長、一般社団法人日本教育情報化振興会名誉会長を兼任。教育工学を専門とし、現在も教育の情報化やICT活用教育の研究・普及に取り組んでいる。
GIGAスクール構想が開いた「子どもたちの可能性」
──まず、赤堀先生のご経歴と、GIGAスクール構想によって学校教育に生まれた変化について教えてください。
赤堀 侃司 氏(以下、赤堀):私の出発点は高校の教員です。その後、東京学芸大学、東京工業大学で教育研究やメディア研究に携わってきました。そのなかで、研究成果を教育現場でどう生かすかを追究するようになり、教育工学を専門としてきました。教育工学は、「子どもはどうすればより良く学べるのか」を、技術の活用も含めて考える学問です。たとえば、英語が苦手な子どもが音声入力を使い、自分が話した英語が画面上に文字として表示されることを面白がっているうちに、多くの英単語を覚えることがあります。従来の「書いて覚える」という学習法とは異なりますが、子どもが自ら学びに向かい、実際に英単語を身につけたのであれば、それは確かな学びの成果です。このような実践を重視し、教育現場で役立つ学習方法を研究することが教育工学だといえます。
その意味でGIGAスクール構想は、教育工学が長年目指してきた「子ども一人ひとりに応じた学び」が実践しやすくなった契機と捉えています。教師による一斉指導だけでなく、子どもが自ら学びを進めたり、協働的に学んだりする機会が増えたことは大きな変化です。
──GIGAスクール構想の成果は、どこにあったと見ていますか?
赤堀:GIGAスクール構想の大きな成果は、子どもたちの可能性の“蓋を開けた”ことだと思います。1人1台端末を持つ環境が整ったことで、端末は共用の道具ではなく、一人ひとりにとって相棒のような存在になりました。タブレットによって、自分の考えや作品を表現しやすくなり、これまで見えにくかった子どもたち一人ひとりの学びや発想も共有されやすくなりました。その結果、自分で調べ、考えをまとめ、発表するといった主体的な学びが広がったのです。
また、そうした子どもたちの変化を目の当たりにするなかで、ICTの教育的価値に対する教職員の理解も深まりました。子どもたちの可能性を引き出す手段としてICTが前向きに捉えられていることは、GIGAスクール構想がもたらした大きな成果の一つだと感じています。
NEXT GIGAで問われる「学習環境」の再設計
──NEXT GIGAを考えるうえで、ICT環境はどのように位置づけられるのでしょうか?
赤堀:NEXT GIGAは、単なるICT機器の更改ではなく、ICTを「便利な道具」から「学びの質を高める環境」へと設計し直すものです。これまでは紙やノートの代替としてICTを見ることが多かったかもしれません。しかし、これからは学び方そのものを質的に変えていく必要があります。クラウドやデジタル教科書、ネットワーク、生成AIといった技術は、子どもたちにとっては作品づくりやその振り返り、探究学習、宿題、部活動を支えるものになります。また、先生方にとっても、教材づくりや評価、成績管理、校務処理を支える基盤になっていくものです。
ICT環境が学習の基盤となることで、学びのあり方そのものも変わります。これまで重視されてきたのは、教科書の内容をどれだけ理解したかという「コンテンツベース」の学びでした。しかし、これからは情報を読み解き、何が重要かを考え、話し合いを通じて他者に伝え、協働していく力を育む「コンピテンシーベース」の学びが重要になります。もちろん知識そのものはこれからも重要ですが、先生が一方的に教えるだけでなく、子どもたちが自ら調べ、考え、対話しながら学びを深められるようにすることが大切です。そのためには、先生が知識を教える場面と、子どもが主体的に学ぶ場面を適切に組み合わせながら、授業をどうデザインするかが問われます。
ICT環境の整備は「学びの姿」から逆算する
──ICT環境を整備する際に教育委員会や学校関係者は何を重視すべきでしょうか?
赤堀:まずは安定したネットワークの構築です。端末活用が日常化すれば、ネットワークが遅い、つながらないという課題は、そのまま授業の停滞につながります。たとえば、ネットワークが10分止まってしまったとして、それが45分授業のなかであれば大きな損失です。必要な容量とスピードを確保し、故障時にはすぐに対応できる体制を整えなければなりません。企業が提供するオンラインヘルプや、ICT支援員との連携も活用しながら、先生方と子どもたちが安心して使うことができる環境にしていくことが大切です。
──現場では、どのような課題が起こりやすいのでしょうか?
赤堀:典型的なのは、探究的な学びを実践しようとする場面での課題です。たとえば体育の授業で、バスケットボールのシュートフォームをタブレットで撮影し、動画を共有しながら「どの角度や動きならシュートが入りやすいのか」をグループで分析するといった活動が想定されるとします。
このとき表面化しやすい課題が、体育館に十分なネットワーク環境が整備されておらず、動画の共有や活用がスムーズに行えないことです。しかし、本質的な課題はネットワークが不足していることそのものではありません。子どもたちの学び方が変化し、学習の場が教室の外へ広がっているにもかかわらず、その変化を前提としたICT環境の設計ができていないことです。
タブレットを使うこと自体が目的ではなく、学習活動に必要だからこそICTを活用する。その視点で考えると、学校のネットワーク整備も単にアクセスポイントを設置するだけでは不十分です。教室や体育館はもちろん、空き教室や廊下なども含め、子どもたちが学ぶ場所全体を見据えてICT環境を設計していく必要があります。
──いまお話しいただいたような課題の解消を踏まえ、整備計画全体を進めるうえで、どのような考え方が必要になりますか?
赤堀:整備計画というと、機器の選定やネットワーク構成などを考えがちですが、まず大事なのは「逆向き設計」です。つまり、「子どもたちにどのような学びを実現してほしいのか」というゴールから逆算します。
たとえば、探究的な学びを実現したいのであれば、その活動に必要な場所や利用シーンを想定し、それを支えるネットワークや機器の構成を設計していきます。教科の内容理解と探究的な資質・能力の育成を両立するために、ICT環境をどう整備するかを考えることが重要です。
あわせて重視したいのが、現場の困りごとを出発点として考える「デザイン思考」です。ネットワークがつながりにくい、端末が故障しやすいなど、現場の課題を把握したうえで整備計画や予算化を進める必要があります。行政だけで進めるのではなく、現場の教員や専門家、企業も交えながら検討し、PDCAサイクルを回して改善していくことも重要です。
次期学習指導要領を見据え、探究と多様性を支える学習環境へ
──次期学習指導要領を見据えると、ICT環境にはどのような役割が求められますか?
赤堀:次期学習指導要領では、探究、多様性、実現可能性の確保が重要な観点になります。探究とは、分からないことを追求することです。その過程では、自ら調べるだけでなく、集めた資料や自分の考え、作品、振り返りを蓄積し、仲間や先生と共有できる環境が欠かせません。クラウドやネットワークはそうした学びを支える基盤になります。
また、多様性という観点では、一人ひとりの興味・関心や理解のスピード、得意・不得意に応じた学びが求められます。ICTを活用することで、それぞれに適した教材や学習方法を選択しやすくなり、多様な学び方を支えることができます。
──探究や多様性は教育の方向性として理解しやすい一方、「実現可能性」は少し意味合いが異なるように感じます。どういった点から重要になるのでしょうか。
実現可能性は非常に重要です。どれだけ優れた教育理念や学習活動を考えても、学校現場で継続的に運用できなければ意味がありません。教師や子どもたちが無理なく活用できることはもちろん、必要な端末やネットワーク、クラウド環境が安定して利用できることが前提になります。
これからは仲間と協力しながら学ぶ場面も増えていくため、子どもたちが主体的に情報を活用できる環境づくりと、それを支える確かなICT基盤がますます重要になるでしょう。
学校・教育委員会・企業が連携して学びを支える
──確かなICT基盤を構築するにはどういったことが重要になるのでしょうか?
赤堀:教育委員会をはじめ教育機関のICT担当者は、国や自治体の方針、学校現場、保護者の声の間に立ちながら、環境整備を進める難しい立場にあります。しかも、その担当者が技術の専門家とは限りません。だからこそ、企業が果たす役割も小さくなく、担当者のパートナーとして伴走いただきたいと願っています。担当者は技術を学び、企業は教育を学ぶ――そんな相互理解を深めていくことが大切だと思います。
また、企業には導入後の運用まで含めた支援をお願いしたいです。端末やネットワークは導入して終わりではありません。トラブルが起きたときにすぐ対応できる体制や、安心して相談できるサポート体制が必要です。加えて、校務DXが進むほどセキュリティの重要性も高まります。人はどうしてもミスをするものですから、そこも企業の技術で支援してもらいたいですね。
──最後に、これからの学校教育とICT環境について、赤堀先生のお考えや担当者に向けたアドバイスをお願いします。
赤堀:これからの学校教育は、先生方だけ、教育委員会だけ、企業だけで支えられるものではありません。子どもたちの学び方が多様になり、生成AIのような学びの可能性を広げる技術も登場するなかで、それぞれが持つ知見を持ち寄り、互いを理解しながら取り組んでいく必要があります。子どもたちが安心して学び、先生方が安心して教育活動に取り組める環境を整えていくためにも、学校、教育委員会、企業が力を合わせて取り組むことが重要です。NEXT GIGAにともなうICTの再整備は、そうした連携の上に成り立つ学びの基盤づくりだと思います。
──貴重なお話ありがとうございました。
株式会社フルノシステムズは、1984年に古野電気株式会社のグループ企業として設立された、無線LANを中心としたネットワーク機器メーカー。業務用無線LAN「ACERA(アセラ)」シリーズを中核に、安定性と信頼性を重視した無線LAN製品・ソリューションを提供し、文教、自治体、物流、医療など幅広い分野への導入実績を持つ。
なかでも文教分野においては、全国47都道府県での導入実績を誇り、1人1台端末環境を支えるネットワーク基盤として、多台数端末の同時接続に強い「ACERA」と、数百台規模のアクセスポイントを一元管理できる無線LAN管理システム「UNIFAS(ユニファス)」を組み合わせることで、「授業を止めない」安定した通信環境を実現している。現在、NEXT GIGAを見据えた端末更新や活用の高度化が全国で進むなか、長期運用を前提とした無線LANインフラの提供を通じて、教育現場のICT活用を支え続けている。
関連リンク
株式会社フルノシステムズ
https://www.cm.com/ja-jp/
無線LANアクセスポイント「ACERA(アセラ)」
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無線ネットワーク管理システム「UNIFAS(ユニファス)」
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フルノシステムズの取り組み
フルノシステムズでは、学校・教育機関で進められているICT環境の再整備を「NEXT GIGA」と捉え、これに取り組む皆さまを支援するための特設サイト、成功のポイントや導入事例をまとめた冊子をご用意しています。\NEXT GIGAの検討・推進にぜひお役立てください/
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