防災の日を迎えるこの時期、自治体や公共施設では防災対策を見直す機会も増えるのではないでしょうか。近年は地震や台風、豪雨などの自然災害が相次ぎ、2026年7月には「令和8年熊本地震」が発生するなど、多くの人々が影響を受けました。避難所の開設や備蓄品の確保に加え、住民が必要な情報を得られる通信環境の整備も欠かせないものとなっています。なかでも重要性を増しているのが、災害時に誰でも利用できるWi-Fi環境の整備です。

本記事では、株式会社フルノシステムズ(以下、フルノシステムズ) 営業部 二課 エリアリーダー 玉本 健氏に、災害時ネットワークの課題と同社が提供するWi-Fiモードセレクターをご紹介いただきました。

  • 株式会社フルノシステムズ 営業部 二課 エリアリーダー 玉本 健氏の写真

    株式会社フルノシステムズ 営業部 二課 エリアリーダー 玉本 健氏

災害時のWi-Fiは、避難所運営を支えるライフラインに

――まず、玉本さんの現在のご所属と担当業務について教えてください。

営業部二課に所属し、山梨県・群馬県・栃木県を中心としたエリアを担当しています。主に文教市場(学校や教育機関)や、自治体や公共施設などのお客様に対し、パートナー企業の方々と連携しながら無線LANを中心としたネットワーク機器の営業活動を行っています。

近年は、日常的なネットワーク利用に加え、防災対策の一環として、災害時にも使えるWi-Fi環境整備のご相談が増えています。平常時に便利に使えるだけでなく、災害時に確実に機能するネットワークをどう整えるか。そこまで含めてご提案をすることが、私たちの重要な役割になっています。

――――防災という観点から、通信インフラの重要性をどのようにお考えですか?

災害時、住民の方々はスマートフォンを使ってさまざまな情報を取得します。安否確認のほか、被災状況や避難情報の確認、行政から発信される情報取得などです。これらの情報を得るための通信は、電気や水道と同じく、重要なライフラインの一つだと考えています。

特に避難所では、多くの方が一斉に情報を必要とします。携帯電話回線が混雑することもありますし、端末の通信容量や契約内容によって必要な情報へ十分にアクセスできない方もいらっしゃいます。そうした状況において、避難所にWi-Fi環境があることは大きな安心につながります。

一方で、防災対策というと非常食、発電機、毛布、簡易トイレなどの防災備蓄に目が向きやすく、通信環境の備えは見落とされがちです。しかし、災害発生時に必要な情報へ迅速にアクセスできるかどうかは、避難生活の質や安全性にも大きく影響します。重要なのは、災害時に確実に利用できる状態を平常時から整えておくことです。

――自治体や公共施設におけるWi-Fi環境の整備状況について、フルノシステムズではどのように捉えていますか?

GIGAスクール構想や自治体のDX推進を背景に、学校や公共施設でのWi-Fi環境整備は、ここ数年で大きく進んだと感じています。校内や庁舎内のネットワーク、市民向けの公衆無線LANなど、Wi-Fiを活用する場面は着実に広がっています。

日頃の営業活動を通じて感じるのは、避難所となる学校や公共施設でも、平常時の業務利用や教育利用を前提として整備されている一方で、「災害時に住民へどのように開放するのか」「誰が切り替え作業を行うのか」「その手順は訓練で確認されているのか」といった運用面まで十分整理できていないケースも少なからずあることです。

そもそも防災対策は、設備を整えて終わりではありません。災害時に現場での運用まで含めて備えることが重要です。Wi-Fiもその一つであり、いざというときに誰でも確実に利用開始できる状態を整えておかなければなりません。私たちが文教・公共分野のお客様と長く向き合ってきたなかでも、この「運用まで含めた設計」の重要性を強く感じています。

  • 株式会社フルノシステムズ 営業部 二課 エリアリーダー 玉本 健氏のインタビューカット

「00000JAPAN(ファイブゼロジャパン)」に対応しているだけでは、十分とは限らない?

――災害時用のWi-Fiとして「00000JAPAN」があります。改めて、どのような仕組みなのかご説明をお願いします。

00000JAPAN(※)は、大規模災害時に通信事業者や自治体などが公衆無線LANを無料開放するための災害用統一SSIDです。東日本大震災の教訓を背景に、災害時でも避難された方々がスマートフォンやパソコンから簡単にインターネットへ接続できる環境づくりとして広まりました。

利用者は、事前登録や認証、暗号キーの入力といった煩雑な作業をしなくても、00000JAPANのネットワークに接続できます。災害時の情報収集や安否確認を支える仕組みとして、重要な役割を担っています。

――災害時に00000JAPANを利用できるようにする際、現場ではどのような課題が想定されますか?

課題となるのは、「災害時に00000JAPANを確実かつ迅速に利用可能な状態にできる運用体制を整えられているか」という点です。00000JAPANに対応した機器を導入していても、災害発生時に誰が開放を判断し、誰が設定変更を行うのかが明確でなければ、迅速な運用はできません。

公衆無線LANを災害時用の設定に切り替える場合、多くはネットワーク管理システムにログインし、平常時の設定から切り替える必要があります。運用管理を委託先が行う場合は、緊急時の連絡体制や対応フローを事前に整理しておくことも重要です。また、避難所の現場では、通信設備の操作に慣れている担当者であっても、作業には時間を要することがあります。

さらに災害発生時は、避難所開設、住民対応、庁内連絡、物資確認など、多くの業務が同時に発生します。ネットワークに詳しい担当者がその場にいるとは限りませんし、ログインパスワードや設定手順が特定の担当者に依存しているケースも見受けられます。

担当者の異動や引き継ぎによって、運用に関する知識やノウハウが属人化してしまうこともあります。そのため、いざという時に操作方法が分からないという事態も起こり得ます。実際に一部の自治体のお客様からは、「災害時に誰が00000JAPANへ切り替えるのか決まっていない」「防災訓練では避難所開設までしか行っておらず、Wi-Fi開放手順までは確認していない」といった課題も聞かれます。

物理キーで切り替える、現場起点の防災Wi-Fi運用

――こうした運用課題に対して、貴社はどのような考え方でソリューションを提供されているのでしょうか?

私たちが重視しているのは、「平常時に活用しているWi-Fi環境を、災害時においても必要とされるWi-Fi環境として確実に機能させること」です。平常時の運用から00000JAPANを利用できる状態へ、いかにスムーズに切り替えられるかが重要なポイントとなります。

フルノシステムズは、学校や自治体・公共施設向けの無線LANを長年提供してきました。そのなかで、現場のネットワーク運用には、製品仕様だけでは捉えきれない課題があることを実感しています。学校であれば授業や校務、自治体であれば庁内利用、市民サービス、防災対応など、施設ごとに運用の目的や制約が異なります。

だからこそ私たちは、単に無線LANやネットワーク機器を提供するだけでなく、「誰が使うのか」「どのタイミングで切り替えるのか」「災害時にどのような体制で運用するのか」まで踏み込んで提案しています。Wi-Fiモードセレクターは、文教・公共分野で培ってきた知見から生まれた製品だと考えています。

――Wi-Fiモードセレクターとは、具体的にどのような製品なのでしょうか?

Wi-Fiモードセレクターは、当社の無線LANアクセスポイント「ACERA(アセラ)」シリーズやネットワーク管理システム「UNIFAS(ユニファス)」と連携し、平常時のWi-Fiから物理キーで00000JAPANに簡単に切り替えられる仕組みです。

  • 無線LANアクセスポイント「ACERA EW770」と、Wi-Fiモードセレクターの写真

    無線LANアクセスポイント「ACERA EW770」と、Wi-Fiモードセレクター。このキーを回すだけで運用モードの切り替えが可能

たとえば学校では、平常時は教職員用ネットワークや児童・生徒用ネットワークを提供し、災害時には避難者向けに00000JAPANを開放するといった運用が考えられます。UNIFASでは、オンラインモードとオフラインモードそれぞれに平常時と災害時の設定をあらかじめ登録できるため、災害発生時には物理キーを対応するモード側に回すだけで、00000JAPANを開放できます。

管理画面にログインしたり、複雑な設定変更をしたりする必要はありません。「物理キーを回すだけ」という直感的な操作で切り替えられるため、ネットワークの専門知識を持たない職員や施設管理者でも対応しやすい点が大きな特長です。

また、あらかじめ設定しておけば、災害時に対応したモードに切り替えた場合でも教職員用ネットワークは維持し、避難者向けには00000JAPANを開放するといった柔軟な運用も可能です。平常時に戻す際も、キーを戻すだけで済みます。

――物理キーの操作だけで切り替えられるのは、独特な手法ですね。この製品は、どのような発想から生まれたのでしょうか?

もともとは、学校現場でのニーズが出発点でした。たとえば学校の運動会や学校行事の際に、通常の校務用・教育用ネットワークとは別に、保護者向けのWi-Fi環境を簡単に切り替えて提供できないか、という発想から生まれました。その後、防災意識の高まりや00000JAPANの普及を受けて、今のかたちになっています。

――災害時の現場において、「操作が簡単であること」は大きな価値になりますね。

その通りです。災害時の現場では、複雑な操作を求めること自体がリスクになります。マニュアルを探す時間、管理画面に入る手間、ログインパスワードが分からない不安。こうした要素が少しでもあると、必要とされる通信インフラの提供が遅れてしまう可能性があります。

Wi-Fiモードセレクターは、誰が見ても操作しやすい物理キー方式です。属人化を避け、避難所にいる職員や施設管理者がその場で確実に切り替えられる環境を構築することは、災害時の通信確保において大きな意味を持つと考えています。

戸田市の運用にみる「現場で使える」防災Wi-Fi

――これまでの導入事例について教えてください。

代表的な事例の一つが、埼玉県戸田市です。戸田市は、自治体としていち早く00000JAPANの取り組みに理解を示され、全国の自治体で初となる00000JAPAN認定自治体となりました。

同市では、公共施設20か所に市民向け公衆無線LANサービス「いいとだスポット」を整備するとともに、市内18校の小中学校体育館にもWi-Fi環境を導入しています。平常時は公共施設で市民向けWi-Fiとして、学校では教育用ネットワークとして活用し、災害時には避難所の開設状況に応じて、施設単位で00000JAPANへ切り替えられる仕組みです。

  • 埼玉県戸田市のWi-Fi切り替え運用のイメージ図

    埼玉県戸田市の切り替え運用

――実際の運用面では、どのような工夫がされているのでしょうか?

戸田市では、避難所開設時に使用する防災用電話機材とあわせて、Wi-Fiモードセレクターや操作マニュアルを保管しています。避難所開設時に必ず用意する機材と一体で管理することで、「どこにあるか分からない」という事態を防ぎ、普段ネットワーク機器に触れていない職員でも手順を確認しながら切り替えられるようにしています。当社も導入・構築だけでなく、こうした運用面の検討にも関わらせていただきました。

――導入後は、どのような点が評価されていますか?

特に評価されているのは、平常時と災害時の使い分けがしやすいことです。平常時は暗号化通信やSNS・メールアドレスによる認証を活用し、利用者の安全性に配慮した市民向けWi-Fiサービスとして提供できます。一方、災害時には00000JAPANとして避難所単位で開放でき、大規模災害時には各避難所で一斉に開放することも可能です。2019年10月、台風19号が発生した際には、Wi-Fiモードセレクターで00000JAPANを開放し、避難された1,700名以上の方が利用されたと伺っています。

また、製品機能だけでなく、当社の関わり方についても評価をいただいています。検討段階から導入、構築、運用方法の検討まで参加し、個別の要望にも耳を傾けながら対応してきました。現場の声を聞き、運用に寄り添い、一緒に仕組みを育てていくこと。そこに、フルノシステムズの強みがあると考えています。

――文教・公共分野の現場を知ることが、製品づくりにもつながっているのですね。

そうですね。学校や自治体、公共施設では、ネットワークを「どう使うか」だけでなく、「誰が、どのタイミングで、どのように切り替えるか」まで考える必要があります。そうした運用面に向き合ってきた経験が、Wi-Fiモードセレクターのような製品につながっていると考えています。

  • 株式会社フルノシステムズ 営業部 二課 エリアリーダー 玉本 健氏のインタビューカット

「Wi-Fiがある」から「いざという時に使える」へ

――最後になりますが、自治体・学校・公共施設のご担当者があらためて確認しておくべきWi-Fi環境整備のポイントについて、メーカーの視点からアドバイスをお願いします。

繰り返しになりますが、「Wi-Fiを整備しているか」だけでなく、「いざという時に、現場でWi-Fiが迷わず使える状態になっているか」です。

避難所となる学校や公共施設では、発災直後から避難者対応や情報収集など多くの業務や対応に追われます。そのような状況下で、誰が00000JAPANを利用可能な状態にするのか。操作手順や役割分担が整理されているのか。防災訓練のなかで接続確認まで行えているのか。こうした運用面の確認が、災害時の通信確保を左右します。

併せて、00000JAPANは誰でも接続しやすいよう、暗号キーの設定なしで提供されるため、利用者への注意喚起も欠かせません。平常時のWi-Fiとは異なる点を理解し、個人情報や重要な認証情報の取り扱いに注意していただく必要があります。利用にあたっては、緊急時の安否確認や情報収集を目的とした利用に留めていただくことも大切です。

災害時の通信環境は、整備した瞬間に完成するものではありません。平常時にどのように使い、災害時にどのように開放し、誰でも同じ手順で扱えるようにするのか。そこまで見据えて初めて、防災の備えとして機能します。

「Wi-Fiがある」から、「いざという時に現場で確実に使える通信インフラ」へ。その視点で通信環境を見直すことは、住民の安心を支えるだけでなく、自治体や公共施設の防災力を高める一歩になるはずです。

――貴重なお話ありがとうございました。

(※)00000JAPAN(ファイブゼロジャパン)とは?
2011年の東日本大震災をきっかけに、災害時に誰でも無料で利用できる公衆無線LANの必要性が注目されるようになりました。2014年にはWi-Biz(一般社団法人 無線LANビジネス推進連絡会)が「大規模災害発生時における公衆無線LANの無料開放に関するガイドライン」を制定・発表し、そのなかで提唱されたのが災害用統一SSID「00000JAPAN」です。Wi-Bizから00000JAPAN認定を受けた自治体や通信サービス事業者、機器装置の提供事業者は、災害時に00000JAPANを開放できます。フルノシステムズも2017年より、00000JAPAN認定事業者として防災Wi-Fi環境づくりを支援しています。

  • フルノシステムズのWi-Fiモードセレクターの写真

    フルノシステムズのWi-Fiモードセレクター。物理キーを回すことで運用モードの切り替えが可能。

関連リンク

株式会社フルノシステムズ
https://www.furunosystems.co.jp/

防災Wi-Fiソリューション
https://www.furunosystems.co.jp/products/wifisolution/bousai_wifi/

無線LANアクセスポイント「ACERA(アセラ)」
https://www.furunosystems.co.jp/products/musenlan/

無線ネットワーク管理システム「UNIFAS(ユニファス)」
https://www.furunosystems.co.jp/products/productservice/unifas/

[PR]提供:フルノシステムズ