企業におけるデータやAIの活用が本格化するなか、障害やサイバー攻撃を前提としたインフラ設計の重要性が高まっている。TECH+は2026年7月28日、オンラインセミナー「リライアビリティからレジリエンスへ、AI時代のインフラはどう設計すべきか」を開催し、データレジリエンス(復旧力)を軸に、これからのインフラ設計の在り方を探った。
データ基盤は「増やす」から「守る」設計へ
冒頭の基調講演では、株式会社ギックス(以下、ギックス)上級執行役員 岡大勝氏と、TECH+編集長 小林行雄による対談が行われた。「AI時代のインフラ再設計 データ基盤は“増やす”から“守る設計”へ」をテーマに、サーバー、ストレージ、セキュリティを個別に捉えるのではなく、統合的に設計する新しいデータ基盤の考え方について紹介した。
岡氏は、クラウドとオンプレミスを適切に使い分ける重要性を強調した。国際情勢の変化に伴う地政学リスクや、メモリー価格高騰などによるクラウド利用コストの上昇を背景に、システムの全面的なクラウド移行にはリスクも伴うと指摘。また、オンプレミス環境の廃止によって、企業の開発力やインフラの構築・運用ノウハウが失われかねないと警鐘を鳴らした。
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(右)株式会社ギックス 上級執行役員 岡大勝氏、(左)TECH+編集長 小林行雄
さらに岡氏は、データの機密性や重要度に応じてクラウドとオンプレミスを使い分けるべきだと説明。生成AIの活用が進むなか、センシティブデータを保護する観点から、「守るべきデータは守る」という設計思想が重要になるとの考えを示した。
また近年は「システムの信頼性」から「サービスの信頼性」へと重視する対象が移り、障害を前提としたデータの分散配置や復旧体制が求められているという。そのうえで、企業はロバストネス(堅牢性)だけでなく、障害発生後の回復力である「レジリエンス」を重視した設計・運用を進めるべきだと指摘した。
Dell Private Cloudが実現する柔軟なインフラ運用
続いて登壇したデル・テクノロジーズ株式会社(以下、デル・テクノロジーズ)インフラストラクチャー・ソリューションズ営業統括本部 製品本部 PowerFlex & Dell Private Cloud製品 スペシャリストの羽鳥正明氏は、企業のインフラ運用を取り巻く課題を踏まえ、Dell Private Cloudが提供する価値について解説した。
羽鳥氏は、企業のITインフラを取り巻く環境が大きく変化していると指摘した。ハイパーバイザーのライセンス要件の変化により、特定ベンダーへの依存が高まる懸念があるほか、AI需要の拡大によりメモリーやストレージの価格も上昇している。さらに、運用自動化のツールが部門や環境ごとに分断され、管理が複雑になるケースも増えているという。
こうした課題に対応するには、特定の仮想化基盤に縛られず、既存のサーバーやストレージを活用しながら、運用をできるだけ標準化・自動化できる仕組みが重要になると説明した。
その解決策として紹介されたのが「Dell Private Cloud」である。羽鳥氏は、同ソリューションについて、HCIのようなシンプルな導入・運用性と、3階層インフラが持つ柔軟性を組み合わせた基盤だと説明した。専用のハードウェアやアプライアンスではなく、デル・テクノロジーズの標準的なPowerEdgeサーバーと同社のストレージで構成でき、既存資産も活用しやすいという。
また、コンピュートとストレージを分けて構成できるため、必要なリソースを個別に拡張しやすい点も特徴だ。従来型のHCIで起こりがちなリソースの無駄を抑え、サーバー台数やライセンス、ストレージ容量にかかるコストの最適化につなげられる。
さらに、中核となる「Dell Automation Platform」により、サーバーやストレージ、ハイパーバイザーの構築・運用、アップデート作業などを自動化できる点も強みだ。デル・テクノロジーズが事前に検証したブループリントを活用することで、クラスターの構築や拡張、更新作業を標準化し、手作業によるばらつきや担当者依存を抑えられるという。
Dell Private Cloudは、VMware vSphere Foundation (VVF)、VMware Cloud Foundation (VCF)、Red Hat OpenShift、Nutanix Cloud Platformに加え、Microsoft Azure Localにも対応しており、複数の仮想化基盤を選択できる点も強みとなる。既存環境で使っていたPowerEdgeサーバーを、将来的にAzure Localのクラスターへ転用することも可能だ。羽鳥氏は、Dell Private Cloudを通じて、手元の資産を活かしながら複数の仮想化基盤を柔軟に選択できる環境を整えることで、インフラ運用の標準化と効率化を進められると訴えた。
高度化するサイバー脅威にどう備えるか
さらに、3つ目のセッションでは、デル・テクノロジーズ インフラストラクチャー・ソリューションズ 営業統括本部 SRP営業本部 事業推進担当部長 西賴大樹氏が、サイバーレジリエンスの向上において、デジタルデータやそれらを格納するストレージにフォーカスし、激甚化するサイバー脅威に対抗するための対策を解説した。
西賴氏は、サイバーレジリエンスについて、サイバー攻撃を防ぐだけでなく、被害発生中や被害後に事業を継続・復旧するための対応能力であると説明。防御に100%はないことを前提に、攻撃を受けた後の対応力と復旧力をあらかじめ整備しておく重要性を指摘した。
また、サイバー被害後の復旧は、従来のBCP(事業継続計画)のように「できるだけ早く元通りに戻す」とは異なるアプローチが求められると説明。単なるデータリストアだけでなく、環境の再構築も手段として視野に入れ、全てを一度に元通りに復元することは困難がゆえ、最低限再開すべき業務を見極め、段階的にビジネスを復旧させる“合理的な着地点”を設定する必要があるという。
そのうえで同氏は、復旧を可能にするデータを保つためには、イミュータビリティ(改ざん防止)、アイソレーション(データ隔離)、インテリジェンス(脅威分析)からなる「3つのI」が重要だと強調。AIの悪用などにより攻撃が高度化するなか、ストレージレベルでのデータ保護に加え、ハードウェアレベルでの対応を組み合わせつつ、外部ネットワークから隔離してデータを保護するエアギャップ技術などを組み合わせることが求められていると指摘した。
AI時代に求められるインフラ設計とは?
オンラインセミナーの最後には、「リライアビリティからレジリエンスへ、AI時代のインフラはどう設計すべきか」をテーマにパネルディスカッションが行われ、AI時代に求められるインフラ設計についての議論が交わされた。
登壇したのは、ギックス 上級執行役員の岡大勝氏、デル・テクノロジーズ 執行役員 インフラストラクチャー・ソリューションズSE統括本部 統括本部長の森山輝彦氏、デル・テクノロジーズ SRP営業本部 事業推進担当部長の西賴大樹氏の3名で、モデレーターはマイナビ TECH+編集長の小林行雄が務めた。
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パネルディスカッションの様子。
左からマイナビ TECH+編集長 小林行雄、ギックス 上級執行役員 岡大勝氏、デル・テクノロジーズ 執行役員 インフラストラクチャー・ソリューションズSE統括本部 統括本部長 森山輝彦氏、デル・テクノロジーズ SRP営業本部 事業推進担当部長 西賴大樹氏
「オンプレ回帰」の背景にあるもの
冒頭、小林は、AIに関わるデータや基盤、運用を自国・自社の管理下に置く「ソブリンAI」という言葉が浸透し始めたことを踏まえ、近年注目される「オンプレミス回帰」の背景について質問した。
岡氏は、この流れは突然始まったものではなく、クラウド利用が一般化した当初から、ROI(Return On Investment:投資対効果)や運用コストを理由にオンプレミスへ戻す企業は一定数存在していたと説明した。さらに現在は、AIの普及によって計算資源の消費が急増しており、その傾向は一段と強まる可能性があると指摘した。
一方、森山氏は「クラウドかオンプレミスか」という二項対立で考えるべきではないと語った。
デル・テクノロジーズでは以前から「Cloud by Design」という考え方を掲げており、クラウドとオンプレミスを適材適所で組み合わせるハイブリッド環境こそが理想的なインフラ設計だという。
パブリッククラウドには複数のサービス形態があり、オンプレミスにも自社データセンターや外部事業者の設備を利用するホスティングなど、多様な選択肢が存在する。こうした選択肢を、企業ごとの運用体制やコスト、データ配置まで含めて総合的に設計することが重要だと強調した。
西賴氏はさらに、セキュリティの観点から議論を補足した。各国でデータ保護規制が強化されるなか、重要データを国内や自社環境で管理する必要性は高まっている。一方で、オンプレミスへ集約さえすれば必ず安全というわけでもない。
近年のランサムウェア攻撃では、一つの環境が侵害されることで、バックアップを含めて信頼性を失うケースも少なくない。そのため、クラウド、オンプレミス、さらには複数クラウドへデータを分散配置する「ハイブリッド・マルチクラウド」が、レジリエンス向上の鍵になるとの見方を示した。
クラウドとオンプレミスはどう使い分けるべきか

株式会社ギックス 上級執行役員 岡大勝氏
小林は続いて、「企業はクラウドとオンプレミスをどのように使い分けるべきか」と問いかけた。
これに対し岡氏は、多くの大企業ではすでにマルチクラウドの活用が一般化していると説明。基幹系システムはオンプレミス、分析系はクラウドといったように、ワークロードごとに最適な配置を検討する動きが進んでいるという。
一方で、データはさまざまな場所へ分散し始めており、レイクハウス構想のような統合的なデータ管理基盤の重要性も高まっていると指摘した。また、データが分散するほどバックアップ戦略も重要となり、テープ保管を含めたバックアップの見直しも再評価され始めているという。
西賴氏は、企業側でも「どのようなシステムがクラウド向きで、どのようなものがオンプレミス向きなのか」への理解が進みつつあるのではないかと指摘した。
岡氏は、クラウドは「必要な時だけ使う」オンデマンド利用を前提とするため、24時間稼働する基幹システムのような用途では、必ずしもコストメリットが出るとは限らないと説明。一方で、データセンター運営や運用管理まで含めたトータルコストで考えれば、クラウドを選択する合理性は十分にあるとした。
さらにAIの普及により、トークン課金やワークロード課金といった新しい料金体系が広がっており、利用方法によってはコストが急増するケースもあるという。岡氏は、生成AIの利便性だけでなく、その裏側で消費される膨大な計算資源や実行コストも踏まえ、クラウドとオンプレミスを適材適所で設計することが重要になるとの認識を示した。
データを軸にインフラ設計を考える
議論は、AI時代におけるハードウェア調達や運用基盤の在り方へと移った。
小林は、AI需要の拡大によってGPUやメモリー、SSDなどの価格高騰や調達難が続くなか、企業のインフラ投資にどのような影響が及ぶのかを問いかけた。
森山氏は、その前提として「ソブリンAI」の考え方がインフラ設計そのものを変えつつあると説明した。これまで企業がクラウドを採用してきた大きな理由は、使いやすさや豊富なサービス群にあった。しかしAI時代には、「企業価値の源泉となるデータをどこに置くべきか」という視点が欠かせなくなっているという。
生成AIや分析AIが活用するデータの中には、企業競争力に直結する情報も少なくない。そうした重要データはオンプレミスで管理しつつ、用途に応じてクラウドも活用するなど、「データを中心に考えるハイブリッドクラウド設計」が今後ますます重要になるとの考えを示した。
一方で、AI向けインフラ需要の高まりは、サーバー部品の供給にも影響を及ぼしている。森山氏は、現在は価格上昇だけでなく、必要な部材そのものが調達できないという他ベンダーの声も聞こえてきていると説明。そのため、企業は価格だけでなく、調達タイミングまで含めた計画を立てる必要があると指摘した。
インフラは「最適化」と「運用の簡素化」を両立する時代へ

デル・テクノロジーズ株式会社 執行役員 インフラストラクチャー・ソリューションズSE統括本部 統括本部長 森山輝彦氏
こうした状況の中で紹介されたのが「Dell Private Cloud」の考え方だ。
森山氏は、従来のハイパーコンバージドインフラ(HCI)は運用が容易である一方、CPUやメモリー、ストレージを個別に最適化しにくいという課題があると説明した。
AI時代にはワークロードごとに必要なリソースが大きく異なる。たとえばストレージだけを増設したい場合でも、従来型の構成では不要なCPUやメモリーまで追加しなければならず、コスト増につながるケースがある。
Dell Private Cloudは、サーバー、ストレージ、ネットワークを個別に最適化しながら、クラウドのように統合管理できる点が特徴だ。運用の簡素化とコスト最適化を両立し、AI時代のインフラ投資における投資対効果を高めやすいという。
岡氏も、「メモリーやSSD価格が高騰する現在だからこそ、必要な部分だけを柔軟に拡張できる仕組みの価値は大きい」と評価した。さらに、クラウド価格も将来的には部材価格の高騰が反映される可能性が高いことから、「クラウド一辺倒ではなく、複数の選択肢を持つことが重要だ」と改めて強調した。
「止めない」から「素早く復旧する」へ

デル・テクノロジーズ株式会社 SRP営業本部 事業推進担当部長 西賴大樹氏
終盤では、本セッションのテーマである「リライアビリティからレジリエンスへ」という考え方について議論が交わされた。
西賴氏は、近年のランサムウェア被害では、導入時は数か月から数年かけて構築したシステムを、数日で再構築しなければ企業活動そのものが停止してしまうケースもあると指摘した。
そのため、インフラは構築時から「セキュア・バイ・デザイン」を意識し、誰でも迅速に再構築できるよう抽象化された設計を採り入れることも重要だという。これは、災害やサイバー攻撃から素早く復旧するためのレジリエンスを高めるうえでも欠かせない考え方だと語った。
岡氏も、ハードウェアやハイパーバイザーが変わっても運用スクリプトやアプリケーションをそのまま利用できるよう、レイヤーごとの抽象化を進めることが重要だと説明。クラウドで構築したコンテナベースのアプリケーションをオンプレミスでも段階的に利用できる環境を整えることが、現実的な移行シナリオになるとの考えを示した。
さらに議論では、AIの進化によって脆弱性の発見スピードも加速していることが紹介された。ソフトウェアの迅速なパッチ適用やオンライン更新を前提としたシステム設計、機器を停止させることなく順次更新できる構成など、レジリエンスを前提とした運用設計の必要性についても意見が一致した。
レジリエンスがAI時代の新たな設計思想に
最後に登壇者は、これからのシステム担当者に向けてメッセージを送った。
岡氏は、「まずは自社システムにレジリエンスという考え方を当てはめて考えてほしい」と呼び掛けた。レジリエンスを難しく捉えすぎず、自社のシステムに当てはめたときに何が課題になるのかをイメージすることが第一歩になると説明した。
森山氏は、これまでシステム設計で重視されてきたRAS(Reliability、Availability、Serviceability)の中でも、「Reliability(信頼性)」に代わって「Resilience(回復力)」を重視すべき時代になりつつあると指摘。「レジリエンスを忘れないでほしい」と強調した。
西賴氏も、レジリエンスを前提にRASを捉え直す必要があると応じた。Availability(可用性)については、システムが止まらないことだけでなく、停止時にも機能を補完・担保できる仕組みが重要になると説明。そして、「Serviceability(保守性)についても、企業活動を継続するためのSustainability(持続可能性)の視点を取り入れ、今後のシステム設計やプランニングを見直してほしい」と締めくくった。
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