NTTドコモビジネスが実施した独自調査(延べ回答数6,359件)によると、生成AIに取り組む企業(社内導入済み・社外展開検討中・社外展開済みの合計)は77%に達し、導入企業のうち約7割が生産性向上の効果を実感しています。その用途は文書作成・要約が最も多く、ナレッジDB化やコード生成といった、生成AIの出力が直接業務の価値に変わる「価値創出型」の用途にも広がりつつあります。生成AIは、多くの企業で成果を生み始める段階に入ったといえます。 ただし、効果の実感については、取り組みによって明確な開きがありました。また、高度な活用を組織的に広げようとすれば、扱うデータの機密度も出力の影響範囲も大きくなることから、統制が必要になります。
そこで、本稿では大規模な独自調査の結果を基に、生成AIの取り組みの成否を分ける2つの要素と、成果を出している企業が直面するリスクを明らかにしていきます。
活用の「深さ」がパフォーマンスを分ける
取り組み率77% — 勝負は「何に使うか」へ
当社の独自調査では、何らかの形で生成AIに取り組んでいる企業(社内導入済み・社外展開検討中・社外展開済みの合計)は全体の77%に上りました。このうち社内で導入済みの企業は56.5%です。回答者の約半数が情報システム・IT部門に所属しており、製造業・情報通信業・金融・保険業など幅広い業種を含みます。年商1,000億円以上の大企業が約31%を占めています。
生成AIの効果について回答した導入企業の生産性向上実感度を見ると、72.3%、約7割が向上を実感しています。一方で27.7%、ほぼ3社に1社は実感できていません。導入は広く成果に結びついている一方で、成果を出せている企業とそうでない企業の差がどこから生まれるのか。それが、本稿の最初の論点です。
広がる用途 ー「作業効率化」から「価値創出」へ
導入されている用途を見ると、文書作成・要約が76.3%と最も多く、メール作成や議事録の整理といった「既存の作業を速くする」用途が広く定着しています。注目すべきは、その先への広がりです。ナレッジDB化が61.7%に達し、コード生成(23.0%)、マーケティング(16.8%)、コールセンター(16.1%)といった用途にも展開が進んでいます。
なかでもナレッジDB化は、組織に蓄積された知識を生成AIで検索・活用できる状態にする取り組みです。コード生成は、価値を生むシステムの開発そのものに関わります。いずれも、生成AIの出力が直接業務の価値に変わる「価値創出型」の用途です。
なぜ、こうした深い用途が成果の差につながるのでしょうか。文書要約やメール作成は、基本的に個人の作業を速くするにとどまります。これに対しナレッジDB化やコード生成は、組織に蓄積された知識や開発工程そのものに作用するため、効果が複数の人・複数の工程に波及しやすいと考えられます。生成AIの活用は、個人の作業を速くする段階から、組織の業務価値を生み出す段階へと深まりつつあり、この活用の深さこそが、成果の差につながっていきます。
成果が一部の企業に偏ること自体は、日本に限った話ではありません。McKinseyの"The state of AI in 2025" ※1では、88%の組織がAIを定常的に業務利用している一方、EBIT(営業利益)への影響を全社レベルで実感している企業は39%にとどまり、5%超のEBIT貢献を達成した「AIハイパフォーマー」はわずか5.5%でした。PwCの"Want ROI from AI? Go for growth" ※2はさらに端的で、AI投資から得られるリターンの74%がわずか20%の企業に集中していると報告しています。母集団や設問設計は異なりますが、導入そのものより活用のあり方が成果を分けるという構造は、グローバルに共通していることが読み取れます。
大企業が求めているのは「コスパ」ではなく「コンサル力」
では、活用を深めようとしている企業は、支援パートナーに何を求めているのでしょうか。年商セグメント別に支援ニーズを見ると、信頼性はどの規模でも最重視される一方、その下の優先順位には規模による違いが表れます。
支援ニーズで規模を問わず最も重視されるのは信頼性(セキュリティ・情報管理)で、大企業でも53.2%が挙げています。特徴が表れるのはその次です。年商1,000億円未満の企業ではコストパフォーマンスが上位に来るのに対し、大企業ではコンサルティング力(51.8%)がコスパ(46.7%)を上回ります。コンサルティング力は年商1,000億円未満の企業と比べても大企業で高く、運用サポートも40.7%が求めています。ツールの費用そのものよりも、「どう組織に定着させ、価値創出型の活用をどう設計し、運用し続けるか」という、導入を伴走できる支援への期待が大企業ほど強いわけです。この構造が、次に論じる「統制の設計」への橋渡しになります。
統制の設計が次の競争軸になる
活用が深まるほど、統制の不在がリスクになる
前半でお示しした通り、成果を出している企業ほど用途が「価値創出型」に踏み込んでいます。ただし、こうした高度な活用には構造的にリスクが伴います。ナレッジDB化では社内の機密情報を生成AIに渡すことになりますし、コード生成では出力がそのままシステムに組み込まれます。マーケティング活用では生成コンテンツが顧客の目に触れることになります。活用が深まるほど、扱うデータの機密度と出力の影響範囲が大きくなるため、統制なしには組織的に展開できません。
この構造は、国際的なフレームワークも一致して指摘しています。Gartnerは、AIガバナンスはルールを定めるだけでは不十分であり、AIの活用拡大と自律化に合わせて統制を継続的に実行できる技術的基盤(AI TRiSM=AIの信頼性・リスク・セキュリティを統合管理するフレームワーク)が必要だと指摘しています。 ※3 また、NISTのAI Risk Management Frameworkは統治(GOVERN)機能を他の3機能の前提に位置づけています。統制は活用のブレーキではなく、活用を組織的に拡大するための土台です。 ※4
統制の不在がもたらす経済的インパクトも、具体的な数値で見えてきています。Gartnerは「2027年末までにAIエージェントプロジェクトの40%超がコスト超過・事業価値の不明確さ・リスク統制の欠如を理由に中止される」と予測しています。 ※5 さらに「2027年までに、40%の企業がガバナンスの欠陥が本番稼働後に判明したことを理由にAIエージェントを降格・廃止する」との予測も示されました。 ※6 一方、PwCの"2025 US Responsible AI Survey" ※7によると、AIガバナンスを業務に「組み込み済み」と回答した企業は全体の33%にとどまります。つまり、統制を設計済みの組織はまだ少数派であり、早期に着手すること自体が差別化要因になり得る状況です。
統制不在がもたらす3つの具体的リスク
統制のないまま活用が広がると、3つの経路でリスクが顕在化します。第一に、シャドーAIです。従業員が個人アカウントで顧客データを生成AIに入力すれば、データは社外に渡ってしまいます。第二に、ハルシネーションにもとづく業務判断です。生成AI出力を検証なしに採用すれば、契約条件の誤認や財務報告の不正確さが法務・財務リスクに直結します。第三に、著作権・知的財産リスクです。生成AIが作成したコンテンツの権利帰属が不明確なまま外部公表すれば、レピュテーションリスクが生じます。
経営が答えるべき5つの問い
では、統制の設計とは具体的に何をすることでしょうか。Gartner AI のTRiSM、NIST AI のRMF、総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン」の3つのフレームワークには、共通する統制領域があります。これを「経営として何を決めるべきか」の粒度で再整理すると、5つの問いに集約されます。
どの問いから着手すべきかは、自社の状況によって異なります。たとえば現場での利用がすでに広がっている場合は問い2(シャドーAIの可視化)や問い3(情報区分とアクセス制御)が先になり、対外公表物にAI出力を使い始めた段階なら問い4(品質管理と人間の関与)の優先度が上がります。まず5つの問いを順に点検し、自社で「まだ答えが定まっていない問い」から着手されることをお勧めします。
結び 「活用の深さ」と「統制の設計」を同時に動かす
生成AIの勝負は「導入の有無」から、「何に使うか」と「いかに統制を設計するか」の2軸に移行しました。そしてこの2つはトレードオフではありません。統制を設計すれば、現場は使える領域が明確になり、むしろ活用が進みます。
まず1つ、経営として線を引くこと。それが残りの課題を動かす起点になります。生成AIへの取り組みが8割近くに達した今、「これ、誰が決めるべきか」という問いを放置すること自体が、最大の経営リスクになりつつあるのではないでしょうか。
【著者】 中川 和久
NTTドコモビジネス ビジネスソリューション本部
ソリューションサービス部 インテリジェントIoT部門法人のお客さま向けに、生成AIをはじめとするデジタル活用の提案・コンサルティングを担当。課題整理から活用構想・導入提案までを支援している。
→ 生成AI(Generative AI)|法人のお客さま|NTTドコモビジネス
NTTドコモビジネスの生成AI活用に関するソリューションについては、以下をご覧ください。
本レポートは、当社の独自分析にもとづくものです。掲載の数値・分析結果は分析時点のものであり、市場環境の変化により変動することがあります。統制に関する議論は、活用実態データから導かれる論理的推論と、国際的フレームワーク(Gartner AI TRiSM、NIST AI RMF1.0、総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン」第1.2版)にもとづく考察を含みます。グローバル調査は母集団・設問設計が当社調査と異なるため、数値の直接比較ではなく傾向の裏付けとして参照しています。
外部調査の出典
Alex Singla, Alexander Sukharevsky, Lareina Yee, Michael Chui 他。2025年6〜7月実施のオンライン調査、105カ国1,993名が回答(年間売上10億ドル超の企業所属が38%)。
https://www.mckinsey.com/capabilities/quantumblack/our-insights/the-state-of-ai
2025年10〜11月実施、25セクター・6地域の上級管理職(Director以上)1,217名が回答。回答者の91%が上場企業、76%が年間売上10億ドル超。
https://www.pwc.com/gx/en/issues/technology/ai-performance/want-ai-roi-go-for-growth.html
https://www.gartner.co.jp/ja/articles/ai-governance-trism
https://nvlpubs.nist.gov/nistpubs/ai/nist.ai.100-1.pdf
https://www.gartner.com/en/newsroom/press-releases/2025-06-25-gartner-predicts-over-40-percent-of-agentic-ai-projects-will-be-canceled-by-end-of-2027
https://www.gartner.com/en/newsroom/press-releases/2026-05-26-gartner-says-applying-uniform-governance-across-ai-agents-will-lead-to-enterprise-ai-agent-failure
https://www.pwc.com/us/en/tech-effect/ai-analytics/responsible-ai-survey.html
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