生成AIブームの次の主戦場として、AIが現実世界で動く「Physical AI」への関心が急速に高まっている。産業用コンピュータで世界トップクラスのシェアを誇るアドバンテック(Advantech)は、この潮流に対してエッジAIを基軸としたPhysical AI戦略を打ち出した。
6月1日に台湾で開催された「Advantech World Partner Conference(WPC)2026」で登壇したエンベデッドセクタ プレジデントのMiller Chang氏は、「AIは今、デジタル空間から物理世界へ移行する転換点にある」と強調。同社の統合型エッジAIプラットフォームの全体像を示した。
エッジAI市場の拡大と「Physical AI」
エッジAI市場は急速に拡大している。調査によれば、2034年には約1,966億ドル規模に達し、年平均成長率(CAGR)は23.8%と予測される。成長の背景には、低遅延処理、データセキュリティの強化、リアルタイム処理ニーズの高まりがある。
こうした中、Miller Chang氏が提唱する「Physical AI」は、AIを単なるデータ処理から解放し、ロボティクスや製造、医療といった現実の物理的動作と結びつけることを基本的な概念としている。
生成AIがデジタル空間での情報生成を得意とするのに対し、Physical AIは現実世界を認識し、判断し、行動することを目的とする。
これは「感知(Perception)」「推論(Reasoning)」「実行(Action)」のサイクルをリアルタイムで回すことで、AIが“動く存在”として機能する世界観だ。AMR(自律搬送ロボット)やヒューマノイド、手術ロボットなどがその具体例である。
3層構造のエッジAI戦略
さらに同社はエッジAIを支える統合アーキテクチャ(全体像)として、以下の3層構造を提示する。
- Edge AI Embedded:既存機器に組み込み可能な AI モジュール
- Edge AI Appliances:用途別に最適化された推論エッジPC
- Edge AI Server:大規模データ処理を担うサーバー
最大の特徴は、Intel、AMD、NVIDIAなど複数のシリコンベンダーと連携する「マルチシリコン戦略」にある。用途に応じた最適なプロセッサ選定が可能な点が競争力となる。
開発を加速する「WEDA」
多様なハードウェア環境に対応するため、同社がPhysical AI戦略の中核として位置付けるのが、ソフトウェア基盤「WEDA(WISE-Edge Developer Architecture)」だ。
WEDAは開発から導入、運用までを統合したソフトウェア基盤で、AIエージェントとの連携を特徴とする。自然言語による指示を通じて、ダッシュボード構築やセンサー連携、コンテナ展開といった処理を自動化できる。
COMPUTEXで示されたPhysical AIの実装戦略
Miller Chang氏は、6月4日「COMPUTEX TAIPEI 2026」の講演において、Physical AIの実装アプローチをより具体的に説明した。
同氏は、エッジAIがPoC(概念実証)の段階を脱し、「本格導入フェーズに移行しつつある」と述べた。生成AIの普及によりクラウドAIが進化する一方、産業用途ではリアルタイム性やデータ保護の制約から適用領域はなお限定的だ。
これに対し、エッジAIは低遅延処理と現場でのデータ完結性を武器に、物理世界の意思決定基盤として存在感を高めている。
こうしたエッジAIの進化の延長に位置付けられるのがPhysical AIである。AIが単に分析するだけでなく、現実の環境を認識し、判断し、即座に行動へと結び付けることで、産業の在り方そのものを変革する可能性を持つ。
特にロボティクスは、その代表的な適用領域だ。産業用ロボットはこの約30年間で目覚ましく進化を示した技術領域で、現在ではAGV(無人搬送車)、AMR(自律搬送ロボット)、サービスロボット、さらにはヒューマノイドに至るまで、多様な形態でその活用ニーズが広がっている。
WEDAとAIエージェントが変える開発・現場オペレーション
アドバンテックにおいて、Physical AI時代の実装を支える中核技術がWEDAである。
WEDAは、産業用AI開発のプロセスを4つのステージに分解する。
- デジタルツイン:仮想空間での学習・検証
- ソフトウェア定義:コンテナベース開発
- ロボティクス制御:リアルタイム処理
- AIエージェント:現場判断の自動化
「デジタルツイン」では、仮想空間上でAIモデルの学習と検証を行い、実環境への適用精度を高める。次に「ソフトウェア定義」により、システムの機能はコンテナベースのアプリケーションとして柔軟に構築される。「ロボティクス制御」ではリアルタイムOSにより物理動作の即応性を確保し、最後に「AIエージェント」が現場での判断を担う。
講演では、AMRを用いた「Sim to Real(シミュレーションから現実へ)」の実例も示された。仮想環境で学習したAIが実機に展開されると、自律的なエージェントとして機能する。
例えば通路に障害物が出現した場合、VLM(視覚言語モデル)で状況を理解し、オペレーターに通知して判断を仰ぐ。これはAIが単なる自動化ツールから、現場の意思決定を支援する“パートナー”へ進化していることを示している。
さらに、自然言語によるプロンプトを通じて開発を行う仕組みも導入されており、ダッシュボード構築やコンテナ展開といった処理を自動化できる。
エコシステムで加速するPhysical AI
Miller Chang氏は、Physical AIの実現には、エコパートナーとの連携が不可欠であると強調する。
シリコンベンダー、センサーメーカー、ソフトウェア開発企業、システムインテグレーターといった多様なプレイヤーが連携し、共通基盤としてWEDAを活用することで開発効率と導入スピードを高める。すでに50社以上のパートナーがロボティクス領域でプロジェクトを進めており、講演ではヒューマノイドロボットのデモも披露された。Physical AIが概念ではなく実用段階をこえ、実用フェーズに入りつつあることを印象付けた。
WPCおよびCOMPUTEXを通じて明らかになったのは、アドバンテックがPhysical AIを単なるビジョンではなく、実装可能な産業基盤として提示している点だ。
ハードウェア、ソフトウェア、開発環境、そしてエコシステムを統合することで、AIは「分析」にとどまらず、「行動」へと役割を拡張している。
Physical AIは、AIを現実世界に実装するための次のステップであり、アドバンテックはその中核を担う“インダストリー・イネーブラー”としての役割をグローバルに強めつつある。
エッジAIを起点に、現実世界の意思決定やオペレーションの在り方を再定義する動きは、今後の産業構造そのものを変えるインパクトを持つ。
一方で、Physical AIの概念自体はNVIDIAが提唱してきたものだが、今回のアドバンテックの発表が示したのは、それを実際の産業システムへと落とし込むための具体的な実装基盤である点にある。
アドバンテックが示したのは、Physical AIを支えるコンピューティング基盤の青写真だ。
AIの価値が「生成」から「行動」へと広がる中、エッジAIベンダー各社の競争軸も変化しつつある。
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Physicalロボットとともに登壇するMiller Chang氏 〜「COMPUTEX TAIPEI 2026」講演より〜
台湾で発表された、最新のテクノロジーや革新的なソリューションを日本で体験できるイベント「Edge AI Day Japan 2026」 が、8月28日(金)に東京・秋葉原「アキバプラザ」にて開催される。
当日は、インテル、AMD、NVIDIAといった主要半導体メーカーによる講演も予定されており、エッジAIの最前線に触れられる貴重な機会となりそうだ。
エッジAIに関心を持つ企業担当者や技術者にとって、見逃せないイベントと言えるだろう。
▼事前登録はこちら
「Edge AI Day Japan 2026」8月28日(金)東京・秋葉原「アキバプラザ」 ※イベント詳細ページは、公開され次第、本リンクよりご覧いただけます。
※この記事はアドバンテック株式会社による記事の転載です。
[PR]提供:アドバンテック株式会社



