GIGAスクール構想の始動以降、ICT教育が普及するなか、世の中では生成AIをはじめとする革新的な技術が日進月歩で進化しています。こうした環境のなかで成長する児童・生徒に向け、いま必要とされる教育とはどのようなものなのでしょうか。また、指導する先生方にできることはなにか。初等教育課程を中心に教育方法や教育の情報化に関する実践研究に取り組む信州大学 学術研究院 教育学系・准教授の佐藤 和紀 氏に、先生方に向けた提供すべき学びのあり方について、お話をいただきました。
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博士(情報科学)、国立大学法人 信州大学 学術研究院 教育学系・准教授
佐藤 和紀 氏
文部科学省 初等中等教育局・視学委員、中央教育審議会 初等中等教育分科会・専門委員を務める。教育工学(教育の方法と技術、情報教育、メディア教育、ICT活用授業,教育の情報化)を専攻し、とくに小学校の学習指導にともなう教育方法の改善、情報化・DXを背景とする教育内容・教育方法・教材・学習支援システム・教員研修の開発、校務の改善など、研究分野は多岐にわたる。
ICTで得た情報をどう使うか、リテラシーを養う段階へ
――はじめに、NEXT GIGAについてお聞きします。文部科学省(以下、文科省)が示す基本方針と、授業において先生方に求められている「提供すべき学び」について教えてください。
佐藤 和紀 氏(以下、佐藤):GIGAスクール構想については、最近「NEXT」や「第2期」と呼ばれることが増えていますが、基本的な方針そのものが大きく変わっているわけではありません。ただ、生成AIの活用をきっかけに「NEXT」のイメージが強まっているとは感じています。
最新の方針として参考になるのは、文科省が昨年9月に公表した「令和8年度GIGAスクール構想・学校DX関係予算概算要求の概要」(※1)ですね。ここでは学習指導要領の改訂を見据えた重要事項として、「情報活用能力の抜本的向上」が示されています。
情報活用能力には、情報技術の「1.活用」「2.適切な取り扱い」「3.特性の理解」の3要素がありますが、児童・生徒を見ていると、このうちの2と3に課題があると感じます。「端末は使えるようになったものの、全体的な情報活用能力はこれから」ということです。個別最適な学びや、自己調整学習(※2)、主体的な学びなどは当然のこととして、先生方にはこの点を重視していただきたいと思っています。
――これまでGIGAスクール構想では、一人一台の端末を整備・使用することに重点が置かれていましたが、これからはそこで得た情報をどう扱うか、リテラシーを養うことが重要ということですね。
佐藤:はい。GIGAスクール構想への取り組みを先進されている先生方は、すでにそうした段階に踏み込んだ実践が行われています。生成AIについては、示される情報をどのように受け止め、取捨選択していくのかといった点はもちろん、児童・生徒自身が考え、学ぶ機会が少なくなってしまうのではないか…、といった懸念も意識されています。何を、どこまで、どのように活用すべきか、これが先生方にとっての課題となっています。
一方で生成AIには“できなかったことができるようになる”を与えてくれるという側面もあります。生成AIパイロット校(※3)に選定された、特別支援学級(中学校)では、「生成AIを使って、自分の苦手を補うアプリを作る授業」が行われていました。自己実現や身近な課題の解決に役立てるという意味で、とても興味深い取り組みだと感じています。どこで、どのような技術を使うのか、あるいは使わないのかについては、今後さらに議論が必要ですが、新しい技術によって、学習方法に新しい選択肢ができたという点は、確かな事実だと思います。
先生主導の授業から児童・生徒が選ぶ授業へ、学習観の転換が求められる
――お話いただいた生成AIの活用なども背景に、児童・生徒へ提供すべき学びはどのようなものになってきているのでしょうか?
佐藤:中央教育審議会(中教審)の教育課程企画特別部会では、GIGAスクール構想が“深い学び”につながっているかが問われています。“深い学び”とは、物事を多面的・多角的に考えて判断できるようにすること、思考力・表現力を総合的に発揮できるようにすることを目指すものです。反対に、テストで習熟度を測るようなものを“個別の知識”と呼んでおり、中教審が公表している資料(※4)では詳しく説明されています。
たとえば、掛け算の2の段、3の段、4の段を知るのは個別の知識です。その知識から「2の段と4の段は似ている」という発見をし、偶数とは何か、積算とは何かのように考えを広げたり、周りの友達や先生と議論して、ほかの知識を統合したりできるようになるのが“深い学び”です。
デジタル学習基盤は、こうした多様な児童・生徒に対応した個別最適な学びを実践するためにも活用されるべきだと思っています。
さらに一人ひとりへの支援を行っていくためには、先生方の学習観を変えてもらう必要もあります。ここで一つ、テストをしてみましょう。次の質問に対して、AとB、どちらに「賛同しやすい」と思うか考えてみてください。
A、Bどちらも大切なものですが、先生が主導するタイプの授業を行うならAを、児童・生徒自らに選択させるタイプの授業を行うならBのほうに賛同しやすいと思われます。個別最適な「学び」を取り組むためにはBの学習観が重要で、ここにICTを使うと、一人ひとりを支援しやすい学習環境や価値観、考え方になっていくと思われます。ただ、こうした学習観を理解してもらうのがなかなか難しい…。なぜなら、現在教壇に立つ多くの先生方はAの学習観で育ってきたからです。
――Bのような学習観を持ってもらうためには、どういったアプローチが有効なのでしょうか?
佐藤:私が何か話をするというよりも、実際にBのような授業を試してみて、まずは児童・生徒が少しずつ変わり、それを見た先生が変わるというケースが多いです。あと、Bタイプの授業に納得できていない、あるいはどうやればいいのか分からないという場合には、Bタイプの授業を見てもらうのが一番早いですね。文科省のリーディングDXスクール事業(※5)は、まさにこの授業を見る機会を先生方に提供するもので、さまざまな学校のさまざまな授業を見られる仕組みが整えられてきました。
――ICT活用が進んでいる学校がある一方、まだGIGAスクール構想の初期段階にある学校もあると聞きます。そういった学校の先生方には、どのようなことをアドバイスされていますか?
佐藤:いきなり授業に使うのではなく、まずは校務でICTを使ってみることを勧めています。ICTは便利なものという印象を抱いてもらい、毎日触れてもらうことで使い方も覚えていく――そうすることで、授業で使う際の抵抗感もなくなっていきます。
ただ、ICTの活用が楽しくなったとしても、単なるコンピュータマニアになってもいけないと思います。ICTはあくまで探究のため、“深い学び”を実現させるために活用するものです。活用すること自体が目的になってしまってはいけませんね。
児童・生徒が大人になったとき、必要な力とは何か
――今後もGIGAスクール構想が進むなか、重要なテーマとして捉えておくべきこととは何でしょうか?
佐藤:先ほども触れましたが、やはり情報活用能力です。生成AIの活用はその典型ですが、これからは情報リテラシーやインターネット時代だからこその道徳観、ハルシネーション(※6)に対するファクトチェックなどについてもカリキュラムで採り上げることになります。教科書に書かれた情報と違い、インターネットで得た情報は「本当に正しいのか」を判断するところから始めなければなりません。私たちとしてもどんな教材をつくるのか、どんな研修が必要なのかなど、やらなければならないことは数多くあります。
加えて、新しい技術が出てくると、学校が指導する前に、児童・生徒が先にそうしたものに触れ、何らかの事件を起こしてしまう、巻き込まれてしまうといったことが懸念されます。学校は後手に回らざるを得ない状況ですが、今後はこれをいかに逆転させるかを考えることも重要ですね。
――最後に、全国の先生方に向けメッセージをお願いします。
佐藤:私たち教育者の仕事は、いまの子供たちが大人になったとき、社会でやっていけるように育むことだということを意識していただきたいですね。教員の仕事は多忙で、1日1日が精いっぱいだと思います。それでも20年後の社会ではどんな力が求められるのか、大人になった教え子たちがその力を持てているのか、そういったことを頭のどこかに置いて、ときには仲間同士で議論することも大切だと思います。
――貴重なお話ありがとうございました。
(※1)令和8年度GIGAスクール構想・学校DX関係予算概算要求の概要
(※2)第4回総則・評価特別部会 2025年12月15日月 学びの自己調整等に係る位置づけ
(※3)リーディングDXスクール生成AIパイロット校
(※4)教育課程企画特別部会 論点整理参考資料集
(※5)リーディングDXスクール
(※6)AIが、実在しない事実や情報をあたかも実際にあるもののように生成・知覚してしまう現象のこと。
株式会社フルノシステムズは、1984年に古野電気株式会社のグループ企業として設立された業務用無線機器メーカー。業務用無線LAN「ACERA(アセラ)」シリーズを中核に、安定性と信頼性を重視した無線LAN製品・ソリューションを提供し、文教、自治体、物流、医療など幅広い分野への導入実績を持つ。
なかでも文教分野においては、全国47都道府県での導入実績を誇り、1人1台端末環境を支えるネットワーク基盤として、多台数端末の同時接続に強い「ACERA」と、数百台規模のアクセスポイントを一元管理できる無線LAN管理システム「UNIFAS(ユニファス)」を組み合わせることで、「授業を止めない」安定した通信環境を実現している。現在、NEXT GIGAを見据えた端末更新や活用の高度化が全国で進むなか、長期運用を前提とした無線LANインフラの提供を通じて、教育現場のICT活用を支え続けている。
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