和歌山県かつらぎ町に本社を置く株式会社カネトは、「宅配弁当どばし」として同町周辺地域で介護食の宅配と見守り支援サービスを展開する企業だ。2004年に介護食宅配事業を始めた同社は当初、表計算ソフトと紙で顧客の情報管理を行っていたが、事業拡大を受けてその業務スタイルに限界が生じ、ノーコード/ローコード開発プラットフォーム・Claris FileMaker(以下、FileMaker)で開発したシステムを導入。情報管理・活用といった事務処理の面でも、利用者宅へ食事を届けるスタッフの外回り業務軽減においても目に見える効果を上げており、さらに近年は見守り時の緊急連絡を迅速化するため、Vonage APIを活用したSMS通知機能も取り入れている。

  • (写真)株式会社どばしの宅配弁当

地域の高齢化と向き合い、「食」で支える事業を開始

カネトの代表者・土橋靖弘氏が「宅配弁当どばし」を開業したのは、土橋氏の実家が家業で食料品店を営んでいたことに端を発する。

「大手流通企業に勤めていたのですが、30歳を前に一大決心をして実家に戻り、家業を継ぎました。両親と一緒に仕事をしていたところ、父が半年後に大病を患い他界しました。それを機に改めて地元を見渡すと、高齢化が進み、昔ながらの個人経営の食品店はどこも厳しい経営状況にありました。当時は、介護保険制度の創設(2000年)からそれほど時間が経っていない頃で、福祉サービスが全国で広がっていたこともあり、地域貢献を視野に入れて、高齢者向け宅配事業への転換を決めました」(土橋氏)

  • (写真)写真中央 株式会社カネト(宅配弁当どばし) 代表 土橋靖弘氏

    写真中央 株式会社カネト(宅配弁当どばし) 代表 土橋靖弘氏

こうして2004年、介護食・療養食に特化した在宅配食サービス「宅配弁当どばし」を立ち上げた。そこからは地域の介護事業所や介護関係者と協力関係を築き、サービスを近隣地域に広げていった。個人事業主としてスタートした「宅配弁当どばし」は、四半世紀近い歴史を刻み、現在では地元かつらぎ町に加えて橋本市・九度山町・紀の川市・岩出市にサービス提供エリアを拡大している。

さらに、行政が提供する見守り支援事業者の認定を受け、配食サービスに加えて高齢者の見守りも行っている。そこには契機となった出来事がある。

高齢者の独居が増えていた地元で配食を行っていた際、土橋氏は訪問先で独り暮らしの高齢者が倒れている事態に遭遇する。救急車を呼び、到着までその場で介助を行った。結果、大事に至らなかったが、その経験から土橋氏の中にある思いが生まれた。

「独居の高齢者を支援する行政の仕組みもまだ十分ではなく、当社のように各家庭を訪問する民間事業者がそうした場面で何らかの形で関わるのは意味があることだと気づきました。そこで、ニーズは高いものの現実には介護保険制度の中で手薄になっている見守り支援を配食と併せて行うことを思いつき、サービスを広げていったのです」(土橋氏)

表計算ソフトと紙による顧客情報管理の限界を実感

サービスを拡大していくなかで、同社では次第に顧客情報の管理に課題を感じるようになっていた。

当時、顧客情報は表計算ソフトに入力し、それを紙に起こして管理していたという。創業直後こそ顧客数は数十件レベルであったため、大きな問題はなかった。しかし事業が軌道に乗り、利用者が増えていくと、入力やデータ管理に多くの時間を割かなければならなくなり、土橋氏は限界を感じていた。

そこで土橋氏は、地元商工会議所の経営相談員に相談した。紹介されたコンサルタントからデータベース構築を勧められ、データベース化してみたものの、思うようにいかない。そして次に紹介されたのが Claris パートナーである合同会社イボルブの八木省一郎氏だった。

山間部でネットワークが不安定だとSaaSは使えない

配達スタッフの年齢層が比較的高く、ITに必ずしも詳しいスタッフばかりでないと聞いていた八木氏は、「Claris FileMakerなら紙に近い感覚でボタンを配置して使えるシステムを作れます。また、配達スタッフは業務でiPhoneを用いるのですが、山間部に入ると電波が届かず通信できないケースもあります。その際、SaaSの仕組みではシステム自体を使えませんが、FileMakerならオフラインでもローカルにデータを保存しておき、会社に戻ってからデータを同期することもできるので、それならFileMakerが最適でしょう、と話しました」と振り返る。

「前段の話として、他社のデータベースを一度構築したものの、うまく活用できなかったという過去の事情も聞いていたので、次はとにかく失敗しないようにとの意気込みで提案しました」と話す。

「提案を聞き、確かにFileMakerが当社の課題解決に最も合うと直感しましたし、いろいろと相談をするうちに八木さんが信頼できるパートナーになってくれると感じたので、FileMakerの採用を決断しました」(土橋氏)

FileMakerで配達・管理の現場に寄り添うシステムを構築

顧客情報を効率的に入力・管理できるようにするこのシステムは、土橋氏の実現したいことを八木氏が機能として落とし込み、実装していく形でアジャイル開発が進められた。

「配達スタッフは食事の宅配に加えて見守り支援も行うため、利用者宅訪問時にシステムに入力する情報量がとても多くなるのですが、それをボタンで簡素化してiPhoneで入力できるように(八木氏が)工夫してくれました。このボタン配置に限らず、八木さんは私が要望を出すと解決につながる仕組みを画面上に形にし、さらに2手3手先の提案までしてくれます。伴走だけでなく、むしろ積極的に引っ張ってくれる点がとてもありがたかったですね」(土橋氏)

八木氏はこうした使いやすい画面構成を容易に実現できる点に加えて、FileMakerならではの利点をこう話す。

「画面を(土橋氏と)一緒に見ながら必要な機能を開発できるのもFileMakerのよいところです。盛り込みたい要素や工夫すべきポイントについて二人で議論しながら、アジャイル形式で開発を進めていきました」(八木氏)

八木氏が中心となってFileMakerで開発したこのシステムは「Meal Delivery System」、略してMDSと名付けられ、2022年8月にまずは配達部門で稼働を開始。続いて管理部門でも使われるようになった。現在は、配達スタッフが12台のiPhoneで、また管理側は土橋氏を含む3人が3台のiPadと2台のデスクトップPCで利用している。

  • (図)FileMakerにより開発されたMeal Delivery System

    FileMakerにより開発されたMeal Delivery System

八木氏が「巨大なシステムです」と笑顔で話すように、盛り込まれた機能は幅広い。まずは一人ひとりの顧客について、聞き取りの結果をもとに、食事が必要なタイミング(曜日や1日に必要な食数)、食事のタイプ(普通食、減塩食など)、持病や心身の特性上留意すべき内容、加えて各個人の好みなどがデータベースで管理されている。

  • (図)宅配弁当どばし 利用者カルテ様の入力画面

    宅配弁当どばし 利用者様カルテの入力画面

  • (図)聞き取りをもとに、配達時の弁当の内容・個数・配達日を設定する

    聞き取りをもとに、配達時の弁当の内容・個数・配達日を設定する

そのうえで実際の配達に際し、配達スタッフがその日の配達コースや配達個数、配達以外で求められる作業(容器回収など)、見守り対応の有無を設定・確認し、現地で配達を終えたら配達完了のボタンを押す。加えて、見守りサービスの報告内容も入力していく。さらには配達時に必要な作業を確認するアラートが表示されるほか、トラックの走行距離などもデータ化し管理される。

  • (図)配達員はiPhoneでMDSを使用し、配達時のコースや配達個数を確認する

    配達員はiPhoneでMDSを使用し、出発前の点検や見守りの報告を行う

一方、会社にいる管理側では配達スタッフの入力した情報が画面ですぐに可視化されるので、情報のチェックはもちろん、リアルタイムで対応が必要なものも一目で確認できる。従来のように配達スタッフが帰社してから報告をすべて聞き取り、紙にまとめて次に引き継ぐという膨大な作業は不要になった。土橋氏はMDSの使い勝手をこう評価する。

「配達スタッフからは、その場で感じたことを簡単に入力できるのがよい、という声を聞きます。一方、管理側で使う私と数人の社員にとっても、とにかく直感的に使えるシステムという印象が強くありますね」(土橋氏)

Clarisパートナーと使いやすいシステムに向けて工夫を重ねる

システム構築にあたり、八木氏は次のような点を意識したと話す。

「表計算ソフトと紙で入力・管理を行っていた時代、配達側・管理側双方に多種多様な書類があり、それぞれに詳細な情報が記されていたので、各書類の情報を整理してシステム化するよう努めました。また、健康や持病、食品アレルギー、個人の嗜好など、多様な情報をシステム上でわかりやすく扱えるよう画面構成や入力方法を工夫しました」(八木氏)

  • (図)顧客の情報管理画面で疾患やアレルギー、食の嗜好までも管理できる

    顧客の情報管理画面。疾患やアレルギー、食の嗜好までも管理できる

このシステムの導入に際し、土橋氏は「何より、紙からデジタルに変わることへの抵抗感を持たれないよう配慮しました。スタッフは65歳以上の方々が多く、ITリテラシーへの不安もあったため、まずは限定的な機能に絞ってスローインで導入しました」と振り返る。これが功を奏して配達スタッフも興味を示し、利用が着実に浸透していった。そうして利用するなかで上がってきた要望については八木氏に伝え、例えば文字が小さく見づらいという意見があれば文字を大きく見やすく改良するなどアップデートも重ねている。

「見守りの様子について、現場で見て、聞いて、感じたことをMDSに入力していきますが、スタッフにより感じ方はそれぞれ。ですから、回答入力は選択式にし、それ以外の複雑な内容はiPhoneのマイクで録音してテキスト化するという工夫を盛り込みました」(土橋氏)

見守り報告のメニューには「元気でした」「やや心配」「要連絡」を用意。例えば「やや心配」を選ぶと、さらに深掘りする画面へ移り、より詳しい内容を入力するといった具合だ。また、報告内容には「不審者」という項目もある。これは、怪しい訪問者や電話がなかったかを手軽に報告できるようにした。「やや心配」や「要連絡」の場合、状況によっては配達スタッフの帰社を待って対応すると間に合わないこともあり得る。そのため、Vonage API を活用した機能を追加し、FileMaker に入力すると、管理者にSMSで即時通知が飛ぶよう改良を施した。

「SMSで管理者に通知する機能を追加装備したことで、やや心配な段階から管理者側も利用者の方のリスク状態を認識し、現場で緊急事態が起きたとき、配達スタッフが平常心を保ちながら適切に対応できるよう密接なコミュニケーションが図れます。スタッフ側も管理側が伴走しているという安心感があるので落ち着いて対応できるという声も聞いています」(土橋氏)とその意図を説明する。

業務時間の大幅削減と顧客サービス向上に大きな成果

導入の具体的成果としては、まず現場での入力が簡便になったことだ。配達スタッフが日報に記入し、それを管理側がヒアリングして監査(引き継ぎ報告)するまでの業務が劇的に効率化された。

「紙ベースで行っていたときは配達スタッフ1人当たり30分から40分ほどかかっていたのが、いまは15分程度で監査まで済み、半分から3分の1の時間に減っています。配達スタッフは昼に10人、夜に6人いるので、16人分の作業時間と負荷が大きく削減されたことになります」(土橋氏)

また管理側においても、1日約400件に上る報告をヒアリングする作業は相当な物理的負担となっていたが、上記のように配達スタッフが現場で入力する内容で十分になり、ヒアリングはほぼ不要になったため、監査までの業務を大幅に簡素化できたという。加えて、配達スタッフが空いた時間を有効活用し、既存の担当とは別の配達コースを習得することも可能になった。

「従来は1人2コースが限度でしたが、3コース目を習得してもらうことで1つのコースを担当できるスタッフを増やせます。シフトが柔軟に組めるようになるのでこれは今後、より大きな負荷削減につながっていくと期待しています」(土橋氏)

さらに大きな効果も出ていると土橋氏。「システム化により顧客サービスのレベルが数段上がりました。この業態は引き継ぎの伝達事項が非常に多く、従来のように紙だけで行っていたら配達現場も管理側も疲弊し、入力ミスや漏れなどのヒューマンエラーも起きかねません。MDS導入でその懸念が劇的に減り、利用者やご家族の間でも満足度が高まっていることを感じます」と明かす。

今後について土橋氏は、「まだアイデアレベルですが」と前置きしながら将来を見据えてこう語る。

「見守り報告を利用者の家族とケアマネジャー、自治体にリアルタイム共有する機能はすでに実装しているのですが、自治体は個人情報保護の観点から活用には慎重になっています。今後は自治体にもより深く理解をいただき、私たちが現場を見て発信する情報を介護や疾患予防、健康寿命延伸、熱中症予防等に役立てられる仕組みづくりをいま思い描いています。このように自社の業務改善にとどまらず、地域を巻き込んだ医療・介護のDXに注力していきたいとの思いが強くあります」(土橋氏)

そのうえで、システム構築・活用の構想を次のように語る。

「MDSを実装してから3年近くが経ち、既往歴や疾患、食べ物の嗜好、アレルギーなど各利用者に紐づく医療情報や食事情報などのデータベースも充実してきました。その情報を医療機関などさまざまな現場で活用してもらい、これまでになかった価値を生み出せるようにしたいです」(土橋氏)

これに対してシステム担当の八木氏も「たまったデータを地域貢献はもちろん、カネト様のビジネスでもどんどん役立てていただきたいですし、当社としても他の医療現場での経験や気づきを活かして有用なソリューションを開発していきたいと考えています」と応えた。

最後に、同様の課題を抱える事業者がシステム導入を検討する際のアドバイスとして、土橋氏は「FileMakerは能動的に扱えて、思い描いた使いやすい画面構成を手軽に実現できます。たとえITに詳しくなくても、現状の課題解決やアイデアの実現に向け、イボルブのように信頼できるパートナーを得て密に話し合い、意見のキャッチボールをしながら進んでほしいと思います」という言葉を贈ってくれた。

  • (写真)宅配弁当どばしはこれからも地域に密着した支援をしていく

    宅配弁当どばしはこれからも地域に密着した支援をしていく

>> Claris FileMakerの45日間無料評価版はこちら <<

関連リンク

宅配弁当どばし 公式サイト
Claris 公式 Webサイト

[PR]提供:Claris