地域住民の福祉増進を目的とした行政サービスを提供する地方自治体(地方公共団体)が担う分野は、福祉・教育・インフラ・防災・地域振興など多岐にわたる。少子高齢化に伴う働き手不足の波は地方自治体にも押し寄せており、限られた人的リソースで質の高い行政サービスを提供するため、業務のデジタル化に取り組む自治体は着実に増加している。実際、総務省をはじめ、厚生労働省、経済産業省、デジタル庁など、さまざまな省庁が自治体業務のデジタル化を支援しており、自治体DXの機運は高まりを見せている。

本稿では、厚生労働省の「生活保護業務デジタル化推進事業」を一例とし、省庁の各種補助金・助成金を活用した自治体DXのアプローチを確認。行政機関と金融機関をつなぐ預貯金照会電子化サービス「pipitLINQ」の導入により、膨大な事務処理に追われて被保護者の支援という本来の実務に注力できていなかった生活保護業務の負荷を軽減したデジタル化のユースケースから、“行政のデジタル化”における成功のヒントを紐解いていく。

生活保護ケースワーカーが本来の支援業務に注力するため、煩雑で手間と時間がかかる事務処理をデジタル化

  • (図)預貯金照会業務のフロー比較

「職員の業務負荷軽減」と「住民サービスの品質向上(住民の利便性向上)」の2つを目的とし、デジタル技術の活用、いわゆるDXに取り組む地方自治体は増加傾向にあるが、実現への道筋はけっして平坦なものではない。DXを推進するIT人材の確保は民間企業においても大きな課題となっており、自治体にとっても難易度の高いタスクといえる。ITに関する高度な知識とDXの実務経験をもった人材を確保できず、“何を”“どのように”デジタル化すればよいのかといった方向性すら明確化できない自治体も少なくないのが現状だ。

また多くの自治体では、紙の文書を用いた業務プロセスが根強く残っており、こうした独自のアナログ文化もDXの推進を阻む障壁となっている。もちろん、住民情報を扱う自治体の情報システムには強固なセキュリティ対策が求められており、新たなシステム・サービスの導入にあたっては安全性・信頼性も考慮しなければならない。さらにコスト面での課題もクリアする必要があり、アナログ中心で複雑化した業務を、限られた予算でいかに改善するか悩んでいる自治体DX担当者も多いはずだ。

そして、業務プロセスが複雑化し、担当者の負荷増大が問題となっている自治体業務の例として挙げられるのが、生活困窮者に対して最低限の生活を保障するとともに、自立に向けた支援を行う生活保護部門の業務となる。生活保護のケースワーカー(直接支援を行う相談専門職員)は被保護世帯の居宅を訪問し、現状の把握やきめ細やかな相談・支援などに従事するが、その一方で預貯金調査や収入申告の届出、ケース記録の記載などさまざまな事務処理を行っている。こうした事務処理が紙を用いたアナログ的なフローのままでは、生活困窮者の支援という本来の業務に注力できず、結果として職員・住民双方に多くの負担を強いる事態を招くことになる。

なかでも、金融機関に対して預貯金や取引履歴などを問い合わせる「預貯金照会」はケースワーカーへの負荷が高く、デジタル化により大きなメリットが期待できる業務となる。とはいえ、紙の書類で照会し、紙の書類で回答を受け取るといった従来の業務フローをシステム化(デジタル化)するのは、人材面・セキュリティ面はもちろん、コスト面での制約もある自治体にとって容易なミッションではない。

さらに、こうした業務をデジタル化するにあたっては、紙運用からの切り替え時に一時的な負担が生じる点や、既存業務と並行して運用せざるを得ない期間が発生する点を懸念する現場職員も少なくない。そのため生活保護業務全体を一気にデジタル化することは現実的ではなく、まずは既存の紙業務と併用しながら特に負荷の高い業務から段階的にデジタル化していくアプローチが求められる。

そこで注目したいのが、各省庁が展開している補助金・助成金制度を活用し、負荷の高い預貯金照会業務を効率化できるサービスを導入するというアプローチだ。

厚生労働省の生活保護業務デジタル化推進事業を活用し、預貯金照会電子化サービスを導入するというアプローチ

  • (図)生活保護業務デジタル化推進事業の全体像

厚生労働省が推進する「生活保護業務デジタル化推進事業」では、デジタル技術を活用した業務の効率化、及び負荷軽減を推進するための環境整備に対して初年度経費の補助(補助率3/4)を行っている。都道府県庁や市役所、福祉事務所設置自治体が利用することができ、想定される活用例として「預貯金調査(照会)のオンライン化」「生活保護の相談業務におけるタブレット活用」「OCRやRPAを活用した各種書類の自動データ化」など、主にアナログ業務からの脱却を図る施策が挙げられている。

特に紙を用いた預貯金照会業務は、手続きに手間がかかるだけでなく、保管書類の増加といった課題も顕在化しており、システム化を急務と捉える自治体は少なくない。生活保護業務デジタル化推進事業を利用すれば、システムの導入コストを1/4に抑えられるため、コスト面でのハードルをクリアできる。業務負荷軽減につながる機能やシステムの堅牢性・安定性、導入のしやすさ、セキュリティといった要件から最適なシステム・サービスを選定できることは、生活保護業務のDXを推進するうえで非常に大きなメリットといえる。

そして上記の要件を満たした行政機関向けサービスとして、多くの自治体が採用しているのが、NTTデータが提供する預貯金照会電子化サービス「pipitLINQ(ピピットリンク)」だ。行政機関から金融機関への預貯金照会業務をオンライン化することで、生活保護ケースワーカーの事務処理負担を軽減することが可能となっている。国内ほぼすべての金融機関が参加している「ANSERサービス」(残高照会や入出金明細の連絡、顧客の口座からの振込・振替といった各種金融取引を行えるバンキングサービス)と同じシステム基盤で動作し、行政機関と金融機関を横断した全国統一型の仕組みを提供する。直感的に操作できるUI(ユーザー・インタフェース)を採用しており、統一フォーマットを使って簡単かつ迅速にWeb経由で依頼、回答状況の確認が行えるようになっている。これにより、紙での処理・郵送などアナログ的な手法にかかっていた時間を大幅に短縮でき、非常に高い業務改善効果が期待できる。

すでに1,181の行政機関、454の金融機関がpipitLINQを導入しており、行政機関と金融機関をつなぐ預貯金照会サービスのスタンダードとしての期待が高まっている。

導入しやすさと機能性、堅牢性を併せ持つ「pipitLINQ」が預貯金照会業務の効率化に寄与

  • (図)pipitLINQ導入による業務変化(幸手市の例)

pipitLINQを導入して預貯金照会業務の効率化を実現している都道府県や市役所は数多くあるが、そのなかで生活保護部門でのユースケースとして、国の補助金・助成金を活用してpipitLINQを導入し、生活保護部門の業務負荷軽減を実現したという埼玉県・幸手市の事例を紹介したい。

照会・返答した書類を順次綴じていくというアナログ的な業務により、保管物の増加や綴じ込みミスの発生といった課題が顕在化していた幸手市役所の生活保護部門では、課題解決に向けてシステム化の検討を開始。そのなかで「pipitLINQ」を試験導入し、作業の効率化や書類削減など大きな効果が得られることを確認したうえで本格導入を決定した。試験導入期間は無償で試すことができ、導入後も1年間は国の補助金を利用できたため、導入のハードルは低かったという。

また、本格導入にあたっては、いきなりすべての照会業務を切り替えるのではなく、負荷の高い業務から着手し、対応可能な金融機関から順次電子化を進めることで、現場職員の負担を抑えながら運用を定着させていった。従来業務との併用期間を設けることで、業務フローの変化に無理なく対応できた点も、スムーズな定着につながったという。

同市では、生活保護の申請時に日本年金機構、銀行、生命保険関連など35カ所に照会をかけており、各機関に対して3〜4通の書類を送付していたが、そのうち5カ所の照会にpipitLINQを導入。保管する書類を削減できたことに加え、紙の照会と比べて回答までにかかる時間が短縮されるなど、生活保護業務の効率化を実現している。同市の生活保護部門では、pipitLINQに対応する機関の増加に合わせ、電子照会の範囲を拡大していく予定だ。

このように、多くの地方自治体で活用され、国内金融機関の利用も加速しているpipitLINQは、生活保護業務のデジタル化はもちろん、自治体DXの推進を考えるうえでも見逃せない選択肢といえる。導入のしやすさや利便性の高さは、IT人材不足に悩んでいる自治体にとって大きなメリットであり、ANSERサービスと同じ堅牢性の高いシステム基盤を採用することで自治体特有のセキュリティ強靱化にも対応。人的リソースの削減や作業時間の短縮など費用対効果も高く、各省庁の補助金・助成金制度を有効活用することでコスト面での懸念も払拭できる。

生活保護部門をはじめ、デジタル化の必要性と実現に向けたハードルの高さを実感している自治体担当者ならば、「国の補助金・助成金制度」×「行政機関と金融機関をつなぐpipitLINQ」による預貯金照会業務のデジタル化を通じて、自治体DXの課題解決に向けた“気づき”を得られるはずだ。

NTTデータでは、こうした移行期や運用定着期における現場の課題にも寄り添い、またベンダーとも連携しながら、自治体ごとの状況に応じた活用支援を継続的に行っている。

関連リンク

pipitLINQ 公式サイト
pipitLINQ 導入事例一覧
生活保護業務デジタル化推進事業(P.124) | 厚労省

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