DXや働き方改革の波は、民間企業はもちろん、都道府県・市町村といった地方公共団体(自治体)にも押し寄せている。少子高齢化に伴う労働人口の減少などの影響により、働き手不足は深刻化しており、デジタル技術の活用による業務の効率化・省力化はもはや不可欠。とはいえ、民間企業・公的機関を問わず、デジタル人材の確保は非常に困難なミッションであり、なかでも市町村においては、1人の担当者が情報システム系やDX周りの業務を担う“ひとり情シス”が状態化しているケースもめずらしくないのが現状だ。
こうした状況のなか、総務省の全面的なサポートにより、都道府県と市町村が連携したDX推進体制の構築と人材プール機能の確保を目指す事業が進められている。本稿では、この事業を牽引する総務省 自治行政局 地域力創造グループ 地域情報化企画室の櫻井氏、椎葉氏に話を聞いた。
“ひとり情シス”状態の市町村に、民間のデジタル人材をアサイン
DXの推進に欠かせない専門知識とスキルを有したデジタル人材は全国的に不足している。特に地方部の小規模市町村などにおいては、デジタル人材を募集しても適切な人材が見つからず、人材確保に向けた取り組みにも遅れが生じているケースは少なくないという。総務省 自治行政局 地域力創造グループ 地域情報化企画室 地域情報化第三係 総務事務官の椎葉 真優子 氏は、都道府県や市町村におけるDX体制の現状について、「特に地方部では“ひとり情シス”状態にある市町村が約190団体もあり、これが自治体DXを停滞させる要因の1つとなっています」と語る。
総務省では、小規模市町村も含めた全国的な自治体DX推進に向けて、都道府県と市町村が連携したDX推進体制の構築と、市町村DXを支援するデジタル専門人材のプール機能を都道府県が確保する取り組みを支援する事業を推進している。自治行政局 地域力創造グループ 地域情報化企画室 地域情報化第三係の係長を務める櫻井 俊寿 氏は「都道府県の皆様と話をさせていただくなかで、特に小規模な市町村でデジタル人材の確保に苦労しているという声をお聞きしています」と語り、都道府県と管内市町村が連携して自治体DXを推進していくことの重要性について言及する。
「柔軟な働き方が定着してきた近年では、都市部にある民間企業で働いているデジタル人材の皆様のなかにも、『地方に行って活躍したい』『生まれ育った町に恩返ししたい』と考えておられる方が増えてきており、そういった方々に対して、都道府県を通じて市町村DXに携わっていただく機会を増やしたいという思いで取り組みを進めています。民間企業で実績を積み重ねてきた方のセカンドキャリアとしてはもちろん、地域に貢献したい若手人材がキャリアアップの一助として参加いただけるような支援体制を目指しています」(櫻井氏)
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総務省 自治行政局 地域力創造グループ 地域情報化企画室 地域情報化第三係 係長 櫻井 俊寿 氏
本事業の中心メンバーとして都道府県における取り組みをサポートしてきた椎葉氏は、経験豊富なデジタル人材がCIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)補佐官として自治体で採用される事例が増えてきていると最近の動向を分析する。
「前述したとおり、“ひとり情シス”状態でDXにまで手が回っていない自治体は少なくありません。担当者任せの属人化が進行している自治体も多く、DXに関心がある職員がいたとしても育成が進められないという話も聞いています。このため総務省では、民間企業で働いている方をはじめ、自治体のDXに携わりたいと考えているデジタル人材の採用活動を幅広く支援しております。こうした取り組みもあって、民間企業で実績を積まれてきた方々が自治体で勤務するケースが増加しており、都道府県では17都道府県、市町村では256の団体で、民間企業などで経験を積んだデジタル人材がCIO補佐官等として採用されています」(椎葉氏)
椎葉氏は、「現状は自治体DXについて支援経験が豊富な方やデジタル分野で長年実績を積まれた方が、自治体に対するアドバイザーといった立場で採用されている事例が多いのですが、こうした大所高所からの助言を行う人材に限らず、自治体DXに携わりたい若手人材の確保も進めていきたいと考えています」と、本事業におけるデジタル人材確保の方向性を説明する。
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総務省 自治行政局 地域力創造グループ 地域情報化企画室 地域情報化第三係 総務事務官 椎葉 真優子 氏
都道府県と市町村が連携したDX推進体制の構築の重要性
デジタル人材に限らず、都道府県・市町村における働き手不足は深刻化しており、DXによる自治体業務の効率化はまさに急務といえる。人口減少下においても地域住民に向けた行政サービスを維持するためには、DXは不可欠であり、窓口業務に限らず幅広い領域でDXの推進が求められていると椎葉氏。こうしたニーズに応えるためには、都道府県による市町村のDX支援が不可欠であり、具体的には都道府県がデジタル人材をプールし、市町村に派遣してDXを支援するという仕組みが必要であると解説する。
「自治体からは、DXに関心はあるが人材不足により取組に着手することができないといった声が数多く寄せられています。総務省では、地元や地域に貢献したいという思いを持った民間のデジタル人材と、DXを推進したい自治体の橋渡し役となり、全国的な自治体DX推進の土台作りに貢献していきたいと考えています」(椎葉氏)
総務省では、都道府県と市町村が連携した DX推進体制の中心的な機能として、各都道府県が「市町村DXを支援するデジタル人材のプール機能」を確保する必要があるとし、人材確保に向けた取り組みを総合的にサポートしている。
「自治体に対しデジタル人材確保・育成のノウハウを提供するほか、都道府県が採用したデジタル人材で、一定の要件を満たした方を『自治体DXアクセラレータ(以下、アクセラレータ)』に任命し、DXの計画立案など上流工程から幅広く自治体DXの取り組みに関わっていただいています。DX推進の舵取り役となるアクセラレータの人物像としては、個々人が培ってきたIT分野の経験を活かし、たとえばベンダーと自治体職員間の橋渡しや、自治体内のCIO補佐官などの専門人材と一般の行政職員の橋渡しを行っていただける人材のニーズが大きいと認識しています。自治体によっては、長期にわたってDXに取り組んでもらえる人材を求めているケースもあり、スキルや実績在りきではなく、自治体職員と二人三脚でDXを推進してきたいといった意欲を持った方に応募いただければと考えています」(椎葉氏)
民間企業で培ってきたスキルを活かして、自治体DXを推進する
民間で働くデジタル人材が行政機関で働くことで得られるメリットは多岐にわたる。今回の取り組みで都道府県がプールするデジタル人材は、任期なしの常勤職員から、任期付職員、非常勤職員と幅広く、市町村の庁舎で市町村職員と机を並べて一緒に働いたり、基本は県庁勤務でオンラインで市町村のDXを支援し、必要に応じて市町村に出向いて課題を解決したりと、業務形態はさまざまだ。各都道府県によって違いはあるものの、働き手のニーズに合わせたワークスタイルを選びやすいことは大きなメリットといえる。椎葉氏は、自治体で働くことの魅力として“直接公共のためになる活動が行える”ことを挙げる。
「自治体職員の業務改革だけでなく、住民サービス向けのDXにも携わることができることは、仕事のやりがいを求める方にとって大きな魅力となります。たとえば窓口業務のデジタル化により住民の皆様が役所に来なくても各種手続きが行えるようになれば、自らの活動が住民サービスの改善や地域課題の解決に直結していることを実感できます。また、実際にアクセラレータとして活躍されている方からは、費用対効果に囚われすぎず、幅広い解決策を検討・選択できたことで、社会に貢献したという実感が得られたといった声も伺っています」(椎葉氏)
また都道府県の職員として、複数の市町村におけるDX推進を支援できることも見逃せないメリットと椎葉氏。“ひとり情シス”状態の市町村に一人で飛び込んで働くよりもハードルは低く、さまざまな自治体のDXに携わることで経験や実績を積み重ねられると話を続ける。
「小規模な自治体では、DXの計画策定すら進んでいないケースもめずらしいものではなく、アクセラレータとして入った場合、計画の立案から具体的な取り組み、進捗管理まで、プロジェクト全体にわたって携わることも可能です。もちろん、すでにDXの方向性は決まっていて、システムの構築やセキュリティの実装など技術的支援を求められるケースも多く、働き手のスキルに応じたプロジェクトに参画できると思います。民間企業での業務にはない視点でDXに携われ、多様な関係者と関われるなど、本当に幅広い経験が得られます」(椎葉氏)
櫻井氏も、民間企業で培ってきたスキルを活かして、行政の現場で顕在化している課題に対処できるのは大きなスキルアップと語り、任期付職員として働き、将来民間企業に戻った際にも、その経験は活きてくるはずと力を込める。
民間企業で当たり前と感じていることが、自治体にとってDX推進の第一歩となる
すでに推進中の本事業では、民間企業で経験を積み重ねたベテランから、地域に貢献したい若手まで、幅広い方々が参画し、都道府県で働くデジタル人材として市町村のDX支援に従事しているという。椎葉氏は、民間企業出身のデジタル人材を受け入れた自治体から、仕事の進め方のスピード感や、ベンダーとの円滑なコミュニケーションなど、自治体職員にはないやり方が参考になったという意見が出ていると手応えを口にする。
「計画策定から実装までスピード感を持って進められたことや、ベンダーとのやり取りがスムーズに行えたことを評価する自治体が出てきています。“ひとり情シス”状態の自治体からは、マニュアルの作成など業務の平準化につながる活動によって属人化が解消できたという喜びの声も聞こえています。最初から完成形を目指すのではなく、プロトタイプを作成してPDCAを回していく民間企業のアプローチをマインドとして取り込めたことは、自治体の職員にとっても大きな経験になっていると感じています」(椎葉氏)
総務省では、今後も継続して都道府県と市町村が連携したDX推進体制の構築と人材プール機能の確保に向けた事業を推進していく予定だ。本年度中に全都道府県のDX推進体制構築を完了させたいと櫻井氏は語り、デジタル人材確保の支援と併行して、都道府県と市町村の取り組みを伴走しながらサポートしていきたいと展望を語る。
椎葉氏は、本事業に参画し、自治体DXの推進を支援していきたいと考えているデジタル人材、及び協力を検討している企業に向けて次のようなメッセージを送る。
「先ほども話したように、民間企業では当たり前と感じていることが、自治体にとってDX推進の第一歩になるという声は、アクセラレータと自治体双方から聞いています。自身の経験を地域貢献に活かしたいと考えている方にとって、本事業への参画は非常に魅力的な選択肢になるはずです。セカンドキャリアとして地域に根ざした仕事を行いたいという方から、キャリアアップの一助として一時的に自治体の仕事に携わりたいという方まで、さまざまなニーズに対する受け皿になると考えておりますので、興味を持たれた方は、ぜひ参加を検討いただければと思います」(椎葉氏)
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