生成AIの登場により、ソフトウェアの開発現場は劇的な変化の真っ只中にあります。単に「ツールを導入して終わり」ではなく、現場への浸透や経営層への説明、若手の育成など対応しなければならないことは多岐にわたります。AI導入のリアルな悩みを、DMM.com、MIXI、Helpfeelという注目のテック企業にてAI活用を推進しているお三方をお招きし、生成AI過渡期を乗り越えるための生存戦略を本音で語り合っていただきました。

  • (写真)左から  合同会社DMM.com 石垣 雅人 氏 ,株式会社MIXI 白川 裕介 氏,ファインディ株式会社 緑川 凌 氏,株式会社Helpfeel 秋山 博紀 氏

    左から 合同会社DMM.com 石垣 雅人 氏
               株式会社MIXI 白川 裕介 氏
               ファインディ株式会社 緑川 凌 氏
               株式会社Helpfeel 秋山 博紀 氏

石垣 雅人 氏

合同会社DMM.com プラットフォーム開発本部 副本部長 VPoE室 アルファ室

白川 裕介 氏

株式会社MIXI 開発本部 たんぽぽ室 Enablementグループ

秋山 博紀 氏

株式会社Helpfeel 執行役員 CTO

緑川 凌 氏

ファインディ株式会社 プロダクトマネジメント室 Team+企画

生成 AI、実際どう使われてる? 日本のテック企業のリアルな現場を公開

本日は「生成AI時代の開発現場」をテーマに、最前線で組織をリードされるみなさんにお集まりいただきました。まずは、開発現場でのAI活用の状況について教えていただけますか?

約1,300名のクリエイターがいて、エンジニアを中心にCursorなどの開発系のAIを使っています。最近では、PM(プロジェクトマネージャー)やPdM(プロダクトマネージャー)が要件定義に使うケースも増えてきました。

今年の3〜4月ごろにトップダウンで始まったAI推進は、今は各事業部のボトムアップな動きを尊重しています。先行して成果を上げている部門をモデルケースとして、月1回の全社分科会で「AIでこんな機能を作った」といった現場の声を吸い上げ、グループ会社も巻き込みながら良い事例を横展開する緩やかな統括を意識していますね。

MIXIでは、2023年4月のChatGPT Plusの利用支援を皮切りに、AI活用の土壌作りを進めてきました。経営陣から「全社でAIを活用していこう」という大号令が出され、2025年にかけてその動きは一段と加速しました。私自身は2024年4月にAIの専門組織であるDX推進グループに異動し、今は社内AIコンサルタントに近い立場で業務を行っています。

現場から寄せられる「新しいAIでこれができないか?」といった相談に応える一方、法務や知財部門と連携しながら、「AIでここまでは取り組んでOK」というガバナンスを整備するなど、AI活用に積極的な現場と、リスクに慎重なバックオフィスの間をつなぐ調整役を担っています。

現在は、社内問い合わせ対応の基盤としてChatGPTのGPTs(※)を活用しているほか、プロダクトへのAI実装も進んでいます。たとえば、子どもの写真・動画共有アプリ「家族アルバム みてね」の1秒動画作成機能や、会話AIロボット「Romi(ロミィ)」の応答システムなどに用いられています。

※GPTs:OpenAI社が提供する自分専用にカスタマイズした ChatGPTを作れる機能。

Helpfeelの場合、完全に私のトップダウンで活用が始まりました。
GPT-3.5(※)のAPIが公開された瞬間に、「これは世界が変わる」と確信して、その日のうちに「活用したプロダクトをリリースしよう!」と号令をかけました。今まで巨大企業や研究機関、大型資金調達を受けた企業でしか取り扱えなかった高性能なAIが、スタートアップ企業や個人レベルでも低価格で使えるようになりました。この点で、GPT-3.5のAPI公開は時代の節目だったと思います。技術志向の強い弊社では、AI活用にノリノリな多くのメンバーに対して、個々の知見を言語化し社内展開してほしいと依頼しています。

弊社が提供するSaaS型のAI-FAQサービス「Helpfeel」では、中核となる検索性能を高める仕組みをGitHub CopilotやClaude Code、DevinといったAIコーディングツールを使って開発しています。特徴的な取り組みとしては、AIでコールセンターの膨大なログを分析して、問い合わせ傾向を可視化。その結果をFAQに反映することで問い合わせを戦略的に削減する機能の開発に力を入れています。

※GPT-3.5:2022年11月にOpenAI社が公開した大規模言語モデル。従来のモデルよりも自然な対話と高精度な応答が可能になり、同社が提供するChatGPTを通じて爆発的に普及したことで、AI活用が一気に身近となった。

AI導入の光と影─成果が出る一方で生まれる「AI疲れ」

みなさんが生成AIを業務で活用していて「これは効果があった」と感じたのはどのような場面でしょうか?

Opsの領域で、人で行っていた業務をAIに置き換えることがすごくやりやすいですね。マネジメントや障害対応などを完全にAIに置き換えてしまうと工数削減の効果を出しやすいと感じています。

※Ops:「Operations」の略で、システムや業務プロセスの運用・最適化を指す。

社内にある過去のドキュメントやキャンペーンの詳細などを、人力で探すのは結構大変なんですよね。特に運用期間の長いプロダクトはログをAIで読み込ませて調査すると、欲しい情報がパッと見つかって、要約もしてくれます。過去のプロダクトへの検索と要約にはかなり効果がでていると思います。

エンジニアにとってしんどい問題の特定などの作業をAIと協働しながら進めることで、負担を軽減できた事例が実際にあります。あとは、請求書回収システムなど、AIを使いながら年間で300~400件くらいの社内システムを開発できて省力化に繋がったことは、会社にとっても良かったです。

みなさん色々な場面でAIの効果を感じていらっしゃるんですね。反対に、AIを使ってみたけどあまり効果がでなかった事例はありますか?

自社で開発しようとしていたものが、すぐにベンダー(Google、Amazonなど)から同様のサービスとして提供されてしまい、開発資産の無駄になるものが度々あります。何か技術投資をするときに、どの技術に投資すべきか、他社で同じプロダクトを作成されないかの判断が悩みどころですね。

業務の全てをAIで置き換えようとすると失敗しがちだなあと思います。人が行っていることを明文化せず曖昧なままAIにやらせようとすると、AIもうまく機能しないんですよね。AI導入には、課題と目的(ゴール)、そしてアウトプットを明確化して、AIに対して100%の力で取り組まないと、成功しないと思います。

ありがとうございます。お話を伺い、みなさんは日頃からAI活用に深く取り組まれていることが分かりました。一方で、一般の現場ではまだ浸透が進んでいないケースもあります。「AI疲れ」という声も聞かれるようになりましたが、みなさんの現場では、同様の課題や悩みを感じることはありますか?

AIが生成したコードのレビューが大変なのはもちろんありますが、それだけじゃありません。AIエージェントも使って並行に作業を進めていることで、業務のボリュームが増えて、それがしんどさに繋がっている面もあると思います。

分かります。「AIという部下」が急に何人も増えたような感覚ですよね。ちゃんと動いているか監視しなきゃいけないし、指示も出さなきゃいけない。

ある意味、メンバー全員がプレイングマネージャー化している状態です。手元でバイブコーディング(※)しながら、横で動いているDevinの進捗を見なきゃいけない。脳というCPUの負荷がかかりすぎちゃっている(笑)

※バイブコーディング:AIに自然言語で開発の意図を伝え、その指示に基づいてAIがコードを生成しながら開発を進める手法。従来のように細かなコード記述を行わず、AIとの対話を通して開発をしていく点が特徴。

「脳のクロック数上げすぎ問題」ですね。

以前なら、残業時間でメンバーの負担を把握できたのですが、AIによる身体的負荷は見えにくくなっています。会社としても、「AI活用を推進しろ」と言いながら「やり過ぎるなよ」とも言うわけで、ブレーキとアクセルを同時に踏んでいるような、悩ましい状況です。

開発コストは本当に下がるのか? 経営層の期待と現実のバランスを取るには

現場の課題をお聞きしてきましたが、一方で、経営層と開発現場の板挟みになることはありませんか?

私含めエンジニアはX(旧Twitter)で情報収集を行っていることが多いのですが、「これを使えば開発コストがゼロになる!」みたいな極端な言説も多く飛び交っています。それ見た経営層の中には「できるんでしょ?」と思われる方もいらっしゃると思いますが、実際には難しいです。

ゼロから小さなゲームを作るくらいならともかく、セキュリティインシデントへの対応など、ガバナンスまで整えていくのは簡単ではありません。「AIを活用するには、ちゃんとコンテキストを渡さないといけないんですよ」といったことを、根気強く説明し続けています。

AI活用については、ROI(投資対効果)をどう測るのかが悩ましいと感じています。巷では工数を何千時間削減、などと言われていますが、果たして本当にそうなのか、余った時間が何に使われているのかは見えにくいんですよね。AI導入のコストに見合う成果が出せているのか定量的に示すのは、難しいポイントだと思います。

非エンジニアがプルリクエストを出せるようになるなどの成果はありますが、こうした変化をどう数字に落とし込み、ROIとして説明できる形にするか──そこに悩ましさが残ります。

当社もまだ明確な指標はありませんが、実感としては、既存業務を自動化したことで、新たなタスクに手を伸ばせるようになっています。

どちらかというと、開発よりも運用の領域でAIに置き換えたほうが、効果を示しやすいと思います。たとえば障害対応を人からAIに置き換えれば、「5人月がゼロになった」など工数削減が見える。実際に障害対応時のポストモーテムの作成について、Slackのログを読み込ませて自動生成させる、といったことをしています。

なるほど、置き換え分による比較ですか。

私は「開発生産性とは何か」ということをずっと考えているのですが、近頃はむしろ定性的に測ろうとしています。たとえば、PdMから「来月この機能が欲しい」と依頼があったときに、それに対応できるエンジニア組織になっているかどうか。もし半年かかってしまうと、「遅い!」と見られてしまいますが、それに応えられるのであれば、AIを導入した効果を説明できますよね。

ですから、私は「PdMや事業責任者の満足度」を重要視しています。出したいタイミングでモノが出せる。なんなら「もうできてますよ」と言える。それを生産性の焦点に据えるような組織づくりを目指しています。

開発生産性において、PdMの満足度を見るという発想は思いつきませんでした。自分の引き出しが増えた気がします。

データ可視化で見えるエンジニア組織の実態

AI導入の効果を語るにも、まずは今の状態を把握できていることが前提になりますよね。私がPdMを務める「Findy Team+」は、開発のプロセスを可視化し、改善をサポートするSaaSです。実際に導入いただいているDMM.com様やHelpfeel様の現場ではどのように活用されていますか?

DMMでは、Four Keys(※)を見て、開発サイクルが健全に回っているか、かかった時間や工数の面を確認しています。これが現場の実態を最もリアルに反映する数字だと感じています。あとは1on1の面談などで、「今月はどのようなプルリクを出したか」「AIをどれくらい活用しているか」「特定の人にレビューが偏っていないか」といったデータを見ながら、個人評価やチームの改善議論に役立てていますね。

※Four Keys:開発の生産性を測る4つの指標(デプロイ頻度、変更のリードタイム、変更障害率、平均復旧時間)によって、開発速度と安定性の両方を可視化できる。

実は「Findy Team+」は私の要望で会社に導入しました。Helpfeelは提供しているSaaSが3つあり、リポジトリが分かれているので個人単位でのトラッキングが難しかったんです。メンバーの働きについて、横断的に見て評価したいというのがきっかけでした。ちょうど今「AI効果レポート」を開いてみたのですが、これによるとAIを使っている方がマージまでの時間が延びているようですね。

一見すると、AIを使っているのに時間がかかっているように思えますね。

これはおそらく、「めちゃめちゃ難易度が高いところにこそ、AIを使おう」としているためだと思います。単純に数値だけ見ると「止めた方が良いじゃん」となりそうなので、経営層と話すときには補足説明が必要ですね。

今後は、どのプルリクにAIを使っているのか、要因を分析できるようなアップデートも構想しています。

それは良いですね! 楽しみにしています。

経営層には「プルリクの数」のような技術指標では伝わりません。実際の工数・工期や予算など、経営判断に必要な指標に変換して説明する必要があります。それに対してプロジェクトの投資分析をどうすべきかなど、現場の「具体」と経営の「抽象」の行き来ができるようになることを期待します。

みなさんがFindy Team+を使いこなしていることがよくわかりました。MIXIでは独自の分析基盤を内製しており、それを経営層が見て判断しています。やはり「現状把握」がスタートラインですよね。現在は、AIをどれくらい使っているのかを可視化しています。

ファインディさんの良いところは、ツールの提供だけでなく、コンサルに入ってくれるところです。他社の事例や第三者の知見を共有してくれるので助かります。

ファインディが提供する価値とは、可視化そのものではなく「開発生産性を上げること」ですから、カスタマーサクセスによるナレッジの共有には力を入れています。

カスタマーサクセスの方とも技術的な議論ができるので、すごいなと思っています。

ありがとうございます。カスタマーサクセスとエンジニアの距離が近いので普段からコミュニケーションを取っていますし、エンジニア主催の勉強会にも積極的に参加している結果だと思います。

AI推進者が考える AI時代の「人」の育成

可視化の次は、具体的にどう改善していくかですね。組織全体のリテラシーやスキルをどう底上げしていくか、みなさんの取り組みを教えていただけますか?

まずは言語化して文書を残すこと、それを参照していくことの徹底だと思います。ただ現状は「できる人からやってください」の段階ですね。全社で同じ水準にしていこうというのは、これからです。

MIXIの場合、まずは全社的な底上げとして「AI生成とは」というガイドラインの共有をしました。それから、「AI推進委員会」を設立して、各部門にアンバサダーを任命し、実践的な業務効率化や品質向上、付加価値創出に取り組んでもらっています。

人に対して接し方が荒いメンバーは、AIを使いこなせていないことが多いんですよ(笑)。「これやっといて」と放り投げたりする。だから、一周回ってマネジメントの問題になっています。完了の定義を明確にして、きちんとコンテキストを渡すということをAIに対しても愚直にやりましょう、というのがファーストステップです。でも、それでだいぶ結果が変わります。人間に頼むより、もっと詳しく伝えないとAIは反応しませんから。

AIへのオンボーディングと新人へのオンボーディングは似ていますよね。まるで毎日、新人が入ってくるみたいです。

若手エンジニアの育成については、どうお考えですか? エンジニアとしての基礎能力がないと、AIのアウトプットを正しく評価できないのではないかという懸念もあります。

ジュニアエンジニアは「バイブコーディング禁止」が良いと思っています。AIに提案させてもいいけど、コードを書くのは自分。「自己成長するためにAIをどう使うか」という視点でAIを使用してもらいます。シニアエンジニアでも同じことをしているメンバーが多くて、結局手で書いて覚えることが大事だと思っています。

あくまでも私個人が思っていることですが、いずれは、AIが高精度なレビューもできるようになると思います。それなら、AIが担保できる状態を作って、それでも取りこぼしちゃうところを勉強したほうがいいと考えています。

うちには技術的負債に詳しい「ミノ駆動」(※)さんがいるんですが、彼には、自分の分身となるAIエージェントを作ってもらっています。分析まではほぼ完璧にできるようになっていて、ゆくゆくはリファクタリングまで自動化することを目指しています。 シニアエンジニアの分身となるAIがあれば、ジュニアエンジニアは彼にフィードバックをもらえますよね。そうしていけば、組織の中で品質担保ができるようになると思います。

※ミノ駆動(仙塲 大也 氏):合同会社DMM.com プラットフォーム開発本部所属。ITエンジニア本大賞2023・技術書部門大賞『良いコード/悪いコードで学ぶ設計入門』(技術評論社)著者。

「すごい人のAIエージェント化」って、めっちゃ面白いですね。

経営層の分身AIはよく聞きますけど、もっと欲しいのは現場の強い人ですよね。

  • (写真)座談会中の様子

「全員開発者」を実現するために、踏み出すべき最初の一歩

それでは、これからの開発組織はどう変わっていくのか、みなさんの今後の展望をお聞かせください。

開発組織の直近の課題は、「早くできるかどうか」です。やがては「Agent to Agent」で、AIが自律的にどんどん作っていくという世界になるでしょう。そして最後に、人が品質を見ることになります。

一方、要件定義は、依然として人が泥臭くやる必要があります。これまではBizチームから3行くらいの要求が来て、「これじゃ作れません」と返して、1か月かけて要件定義をしていく……ということをやることもありました。しかし今後は、プロトタイプをさっと作って、それをAIエージェントに投げて開発していく、といったことができるようになります。リードタイムを刷新していきたいですね。

MIXIでは、CTOから全体のエンジニアに向けて「コーディングの90%をAIエージェントでやってください」と号令をかけています。AIに任せる状況を作ること、そしてそれによって新しい価値を生める状態を作っていくことが、私のミッションです。

AIは、今までできなかったことのハードルを下げてくれます。理想は「全員開発者」。誰しもが開発者であることを前提とした組織にしていきたいですね。

最後に、これからAI活用を本格化させていきたいと考えている企業や組織に向けて、一言ずつアドバイスをお願いします。

一番手っ取り早いのは、人がやっていることをAIに置き換えることです。そのために、最初は業務プロセスをすべて洗い出しました。メンバーが何をしているのか。障害対応、開発、要件定義、問い合わせ対応……これらを一つひとつAIに置き換えるとしたら? というマッピングをしたんです。まずは業務の洗い出しをやると、すんなり進むと思います。

今は無料で使えるAIも多いですから、まずは趣味でもいいから触ってみて、その経験を社内に持ってくるのも一つの手ですね。

AIはもう使うのが大前提だと思っています。では、どう使っていくか。まずは、小さい成功を積み重ねることが大事です。「ここはAIで良いじゃないか」という作業を見つけて一つ一つ積み上げていくと、確実に前進します。

まずは業務を洗い出して「どこをAIに任せるか」を決める。次に、まず触ってみて、うまくいったこともそうでないことも含めて学びを社内に持ち帰る。そして「ここはAIで担える」と判断された業務を見つけて、小さい成功を積み上げながらチームに広げていく。生成AIの最初の一歩は、「試しながら広げていく」ことが大切なのだと感じました。

みなさん、貴重なお話をありがとうございました!

  • (写真)座談会中の様子

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