労働人口の減少が加速する日本において、バックオフィス業務の効率化はコスト削減の手段から、企業の存続に関わる重要課題へと変化している。その解決策として期待されるのが、AIと自動化技術を融合させた「エージェンティックオートメーション」だ。

UiPathが12月10日に開催した自社イベント「UiPath FUSION Tokyo」では、この新技術をBPO(Business Process Outsourcing)の現場に実装し、日本の業務変革を推進するための新たな取り組みが発表された。本稿では、NTTデータ・ウィズとUiPathの戦略的提携の背景と、実際の導入現場で得られた知見について詳報する。

BPO×ITの新会社、NTTデータ・ウィズの挑戦

最初のセッション「AI×自動化で変革するBPOの未来―NTTデータ・ウィズ×UiPathが創る価値」には、NTTデータ・ウィズ デジタルストラテジー事業本部 取締役 本部長 林麻由美氏と、UiPath 執行役員 エンタープライズ営業本部長 石本尚史氏が登壇した。

  • 写真 NTTデータ・ウィズ デジタルストラテジー事業本部 取締役 本部長 林麻由美氏

    NTTデータ・ウィズ デジタルストラテジー事業本部 取締役 本部長 林麻由美氏

  • 写真 UiPath 執行役員 エンタープライズ営業本部長 石本尚史氏

    UiPath 執行役員 エンタープライズ営業本部長 石本尚史氏

NTTデータ・ウィズは、2025年4月1日、NTTデータ及びNTTデータグループ各社のシェアードサービスを担ってきたNTTデータマネジメントサービスと、BPO・IT事業を外販展開してきたNTTデータ・スマートソーシングが合併して誕生した新会社である。NTTデータ及びNTTデータグループ各社内のバックオフィス業務を一手に引き受ける運用力とIT技術を融合させ、他にない役割を担っているという。

対談の冒頭で、両社は戦略的提携締結を発表した。なぜ今、NTTデータ・ウィズとUiPathは手を組むのか。UiPathの石本氏は、その理由を「日本市場へのエージェンティックオートメーションの浸透には、BPOベンダーとの連携が不可欠だからだ」と語る。

「多くの日本企業は、人海戦術で対応が必要な業務をBPOベンダーに委託しています。つまり、BPOベンダーの業務プロセス自体がエージェンティックオートメーションによって効率化されれば、それは間接的に日本市場全体へ自動化の恩恵を広げることになります。NTTデータ・ウィズは、NTTグループという信頼性の高さに加え、システムインテグレーターでありながらBPOベンダーでもあるというユニークな存在です。ITとの親和性が極めて高く、この新しい技術を実装するパートナーとして最適でした」(石本氏)

一方、NTTデータ・ウィズの林氏は、BPO事業者としての視点から提携の意義を強調した。

「これまでのBPOやRPA(Robotic Process Automation)活用は、業務の一部を切り出して自動化する『点』の改善にとどまりがちでした。しかし、エージェンティックオートメーションを活用することで、プロセス全体を一気通貫で完結させる『線』の変革が可能になります。私たちが目指すのは、単に現行業務をそのまま請け負う『As-Is』のアウトソーシングではありません。デジタル活用による個社ごとの効率化を超え、最終的には汎用化した業界標準BPOを展開し、お客さまが創造的な業務に集中できる未来をつくることです」(林氏)

  • 写真 同日開催された記者会見の様子 林様、石本様の握手

    同日開催された記者会見では改めて両社の戦略的提携締結が発表された

3つのステップで進む変革のロードマップ

両社は現在、3段階のステップで協業を進めているという。

第1ステップとして、NTTデータ・ウィズが受託している実際のBPO業務へエージェンティックオートメーションを導入し、その効果を徹底的に検証・実証する。続く第2ステップでは、実践を通じて得られた知見を基に、AIエージェントを使いこなせる人材を育成するとともに、成功事例を汎用的なアセットとして体系化していく。そして最終段階となる第3ステップでは、検証済みのソリューションを両社共同で市場展開し、広く日本市場へ提供していくという流れだ。

石本氏は、実際にNTTデータ・ウィズの青森センターなどを訪問し、現場の業務フローを詳細にヒアリングした際のエピソードを語った。「現場を見て痛感したのは『人間の判断力の凄さ』です。暗黙知を含め、人が細やかに対応している業務のレベルは極めて高い。これをAIエージェントでどうサポートし、さらに超えていくか。考えさせられましたし、非常に高いハードルですが、だからこそ挑戦する価値があります」と述べ、林氏も「センターでのPoCを通じて、生産性が上がるポイントを見極め、バックオフィスだけでなくお客さまのビジネスそのものの変革につなげたい」と意気込みを見せた。

AIエージェント導入における理想と現実のギャップをどう乗り越えるか

続いて行われたセッション「AI導入で変わるバックオフィス業務のあり方・導入基礎と応用」では、NTTデータ・ウィズ ビジネスイノベーション事業部 部長 佐々田知之氏が登壇。同社が実際に取り組んでいる基礎的な導入事例と複雑な業務への応用事例について、具体的なデモンストレーションとデータを交えて解説した。

  • 写真 NTTデータ・ウィズ ビジネスイノベーション事業部 部長 佐々田知之氏

    NTTデータ・ウィズ ビジネスイノベーション事業部 部長 佐々田知之氏

【基礎編】Autopilot活用で、AIにAIを審査させる

基礎編として紹介されたのは、比較的単純な業務プロセスへの導入事例だ。自動化プロセス生成ツール「UiPath Autopilot」を用いたプロンプト修正のデモ動画が公開された。

事例では、返品された商品が返金対象か否かを判定するエージェントの作成が取り上げられた。はじめに担当者が作成したプロンプトは、役割や目的を簡易的に記載しただけのもので、UiPath上のプロンプト品質スコアは100点満点中36点と低評価だった。実際にテストを実行すると、本来「対象外」とすべきところを誤って「返金対象」と判定してしまった。

ここで活用されたのがAutopilotの修正機能だ。ボタン1つでAIがプロンプトの改善案を提示。手順の明確化や具体例の追記が自動的に提案され、これを受け入れるだけでスコアは一気に100点へと向上した。再実行した結果、正しく「返金対象外」と判定される様子が実演された。

「このAIエージェントを作成したのは、AIをほとんど勉強したことがないRPAエンジニアです。しかし、わずか3〜4日で完成させました。今は『AIがAIを審査し、修正案を出す』時代です。単一的な業務であれば、専門知識がなくてもハードル低く導入できる段階に来ています」(佐々田氏)

【応用編】複雑なBPO業務へ挑む

次に佐々田氏が語ったのは、AI導入の壁となる複雑な業務へのアプローチだ。題材となったのは同社が運用している年間処理件数が数百万件に及び、200人を超えるスタッフが従事する大規模な事務処理プロジェクトである。

ここには大きく3つの課題が存在していた。まず、標準化されていない個別判断が存在するというルールの複雑性。次に、日系企業の多くで常に課題となっている月末月初に業務が集中することで長時間労働が発生しやすい極端な繁閑差。そして、スタッフ間にある習熟度のばらつきである。

この難易度の高い業務に対し、プロセス全体を一気にAI化するのではなく、課題ごとにターゲットを絞ってAIエージェントを適用する戦略を採った。具体的には以下の3つのアプローチである。

1. AIの「できる・できない」の可視化

複雑なルールに対応するため、RAG技術を導入。規定書だけでなく、過去の正解データもAIに読み込ませた。重要なのは正答率を上げること以上に、AIがどの程度できるか、そして何ができないのかを事前に見極めることだという。実際にAIエージェントによる審査を実施し、その回答品質を可視化することで、安全な導入ラインを見極めた。

2. ピークタイムを狙い撃つ

全ての期間にAIを適用するのではなく、人間だけでは対応しきれず残業代などのコストが嵩むピークタイムをターゲットに設定。この部分をAIエージェントに肩代わりさせることで、平準化とコスト削減を図った。

3. 「中間層」をターゲットにした人とAIの協働

これが最もユニークな視点である。プロジェクトでは、スタッフを「熟練層」「中間層」「未成熟層」の3つに分類し、AIの適用範囲を定めた。

まず「熟練層」に関しては、AIよりも人間の判断のほうが速く正確なケースが多いため、あえてAIを使わずに従来どおり人間が処理を行う。一方の「未成熟層」についても、教育の機会を奪わないようAIの使用を控え、自身の経験として業務を遂行させる。そのため、ボリュームゾーンである「中間層」にAIを集中投下した。AIの信頼性が高い処理はAIに任せ、信頼性が低いものはAIによる一次判断後に人間がチェックを行う体制とすることで、効率と品質のバランスを最適化している。

  • スライド AIの適用範囲を定めるため習熟度でスタッフを分け、中間層をターゲットに

    中間層へAIを投下し、オペレーションコストを最適化

この中間層へのAI支援により、全体の品質を底上げしつつ、オペレーションコストを最適化する狙いだ。まだ検証段階ではあるものの、これらを実現できるようUiPathと一体となって進めているという。

労働人口30%減時代への備え

講演の最後、佐々田氏は「30年後には労働生産人口が30%減ると予測されている」という事実に触れ、AI導入の目的意識を変える必要性を訴えた。

「もはやROIだけでAI導入を語るフェーズではありません。人間からAIエージェントへいかに業務を切り替えていくか。これは企業が生き残るための必須条件です。我々自身も中途採用が難しくなり、スタッフの年齢層も上がっています。今のうちに対策を講じなければ、本当に人手が足りなくなります」(佐々田氏)

NTTデータ・ウィズとUiPathのパートナーシップは、来るべき人手不足社会に対する具体的な処方箋を示そうとしている。「点」の自動化から「線」のプロセス変革へ。そして、人間の強みとAIの強みを巧みに組み合わせたハイブリッドなBPOへ。両社の取り組みは、多くの日本企業にとって重要な指針となるだろう。

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