従来の受動的な学習から、主体的な“学び”へとシフトしつつある日本の学校教育。全国各地の教育現場ではさまざまな取り組みが行われているが、なかでも先駆的な教育プログラムとして評価されているのが渋谷区の“探究「シブヤ未来科」”だ。これは、渋谷の街全体を探究の場とし、子どもたちが自ら問いを立てて、時に地域や企業とコラボレーションしながら仲間と課題を解決していくというもの。
その新しい“学び”のスタイルを支えているのが、PCやプリンター、プロジェクターなどのICT機器だ。子どもたちが自ら問いを立て、探究する学びを支える基盤として、デジタルを活用した情報活用能力の重要性はますます高まっている。渋谷区では、これらのICT機器を活用し、多様な表現や創造的な活動を行い、試行錯誤や協働を通じて、実社会や実生活の課題を発見し解決する力を育むための取組を進めている。ここでは、全国の教育機関から注目を集める渋谷区の取り組みを紹介しつつ、その学び環境づくりの一端を担っているエプソンのICT機器を導入した背景と、現場での活用法や導入効果を紹介する。
「そろえる」から「伸ばす」教育へ転換を図る渋谷区の挑戦
これからの予測困難で変化の激しい時代を生き抜くには、自ら考え、行動し、新しい価値を生み出していく力が求められる。そこで東京都渋谷区では、子どもたちの「自己調整力」、「創造力」、「挑戦力」を育むことを目的として、2024年度より全公立小中学校で“探究「シブヤ未来科」”をスタートした。
「もともと渋谷区では、(科目教科横断的な学習である)総合的な学習の時間のうち、20時間以上を『シブヤ科』として“郷土=渋谷の街”をテーマにした探究学習を行なってきました」
そう語るのは、渋谷区教育委員会事務局 教育指導課 統括指導主事 柳田俊氏。同氏によると「シブヤ科」の取り組みで一定の成果はあったものの、20時間という制約の中ではできることが限られてしまうことや、郷土学習では過去の歴史にスポットが当たりがちで将来に向けた発展性が得られにくいことが課題だったという。
「そこで、“これからの渋谷”に目が向くよう目標を変更するとともに『シブヤ未来科』に改称した上で、文部科学省の授業時数特例校制度を活用して、総合的な学習の時間を約2倍に増やしました。このようにして、子どもたちがより探究的、主体的に学べる環境づくりを行いました」(柳田氏)
シブヤ未来科では、探究の基礎スキルや問いづくりのきっかけとなる「探究基礎」、学年や学級で共通のテーマを設定して仲間と協働しながら探究する「テーマ探究」、そして子どもたちそれぞれが自分の興味のあることに基づいて探究する「My探究」の三つの取り組みを実施してきた。
「使える時間が増えたことで、できることも大きく増加しました。そこで区内の小中学校では、学校の中での“学び”に留めるのではなく、渋谷にゆかりのある企業や地域の人と連携して協働でプロジェクトを行うなど、探究活動を学校の外へと広げていったのです。地元の人や企業がとても協力的で、昨年度は延べ500社ほどの企業や団体がパートナーとして参加してくださいました」(柳田氏)
そうした中、子どもたちは地域の方々やパートナー企業の協力を得ながら課題を調査するためインタビューやフィールドワークをしたり、動画を撮影してWebで呼びかけを行ったりして、課題解決のため、自ら考え行動していくように。教員側はそんな子どもたちに対し、皆に同じことをレクチャーするような従来型の“そろえる”教育だけではなく、子どもたち一人ひとりのニーズに対応しながらその力を“伸ばす”サポートも行ってきた。
「渋谷区は、センター街のような流行の発信地もあれば、昔ながらの商店街が残っている下町的な場所もあって、地域ごとの特色が大きく異なります。探究学習の時間が増えたことで、より深く人と関わったり課題を追求したりすることができ、その地域の特色が各校の取り組みにも色濃く反映されるようになったのもひとつの成果と言えるかもしれません」(柳田氏)
子どもたちの主体的な“学び”を支えるICT設備の重要性
こうした“探究する学び”を推進する上で必要となるのが、子どもたちの発想や可能性、知的好奇心などを引き出し、持てる創造性をいかんなく発揮できるような環境だ。
「そこで渋谷区では、従来の教室の枠を超えた新しい学びの場、社会とつながる場として『未来共創空間』の整備を進めてきました」
そう語るのは、渋谷区教育委員会事務局 地域学校支援課 課長 山上ますみ氏。この未来共創空間には、PCや3Dプリンター、UVプリンター、ビデオカメラ、プロジェクターなど、探究学習の過程で必要になるさまざまな機材が備えられている。
この未来共創空間は、シブヤ未来科の探究的な学びを実践・サポートする場としてはもちろんだが、放課後の生徒の個人活動や地域・企業と連携して行うワークショップなどでも利用されており、通常授業と探究学習、放課後を緩やかにつなぐハブのような役割も担う。
「シブヤ未来科で目指す主体的・協働的な学びを、より深く、より広く、より効果的に実現するための“場”が未来共創空間です。こうした学びのスタイルを支えるには、ICT機器が“日常的な学びの文房具”として必要不可欠。ICT環境が整うことで、子どもたちは自分のペースで調べ、まとめ、発信し、他者と協働しながら学びを深めることができるのではないかと考えています」(山上氏)
そのICT環境の整備にあたって重視したのが、現場での多様な学びに対応できるような性能の高さだ。たとえばPCの場合、動画編集や3DCG制作などにも対応できるよう高性能GPUを備えたエプソンダイレクトの小型デスクトップPC「Endeavor SG150」と、16型ハイスペックノートPC「Endeavor NJ8000E」が採用されている。
またプレゼンテーションなどに使えるようレーザー光源を採用した高輝度なプロジェクターを配備、今後はオリジナルのグッズ制作などにも活用できるよう多彩な素材にプリントできるUVプリンターが導入される予定である。
「PCについては、高性能なCPUやGPU、大容量メモリなど、探究的な学びに必要な処理能力を備えている点が選定の決め手となりました。デスクトップPCとノートPCを両方導入したのは、据え置きにも持ち運びにも柔軟に対応できるため。エプソンダイレクトの場合、国内に拠点を持ち、保守や周辺機器を含めたトータルサポートを受けられることも安心材料でした」(山上氏)
そのほかの機器についても、実際の活用シーンを想定しながら現場のニーズや予算、設置スペースなどを総合的に考慮して導入する製品を検討していった。
「子どもの才能や意欲の芽を摘まないよう、できるだけ導入する機器の制限は設けないようにしたいと思いました。最近はTikTokのように動画で表現する子どもも増えていますから、高性能なカメラやプロジェクターがあるとすごくいいですよね。また探究学習では模型や試作品を作ることもよくあるので、UVプリンターや3Dプリンターがあると役に立つはず……。そんなふうに子どもたちが機器を使用する場面を思い浮かべながら、関係者と検討を重ねて選定しました」(柳田氏)
大人の目からすると「本当に使いこなせるのか」と疑問に思う機器もあったそうだが、蓋を開けてみれば子どもたちが楽しく活用しながら探究学習を進める姿が見られたという。
「従来のGIGAスクール端末だと機能・性能面で制約があり、足りない部分は手作業や想像で補うほかない場合も多くありました。たとえば模型を作ってみようというときに、これまでだとダンボールなどを切ったり貼ったりして組み立てていたのが、3Dプリンターで具体的な形にできてしまう。また動画編集も、よりきれいな画質で撮影し、高度な編集作業を行ったりすることが可能になりました。子どもたちが“実現したいこと”と“現実に可能なこと”のギャップが埋まり、より創造性につながってきているのを実感します」(柳田氏)
こうしたICT環境の整備と活用によって、生徒たちの“学び”にも変化が生まれているという。
「探究学習の授業で生まれた“問い”が、未来共創空間での放課後の活動でさらに深まり、そこで得られた新たな視点や気づきが授業での探究をより充実したものにする──。そんな好循環が起きており、生徒一人ひとりが自分の興味関心をもとに主体的に学び、課題解決に向けて行動する力が育まれています」(山上氏)
エプソンPCが生徒の主体的で自由な学びを実現
未来共創空間では、生徒・教員ともにエプソンPC「Endeavor SG150」と「Endeavor NJ8000E」をさまざまな形で活用しているという。
「とくに生徒は、探究学習から放課後の個人活動まで、幅広い活動に使用しています。GIGAスクール端末ではWebフィルタリングの影響でWebページの閲覧に制限がかかる場合がありますが、未来共創空間のPCはある程度自由な検索や情報収集が可能なので、探究学習の調べものにもよく利用されていますね」(山上氏)
2機種とも画像・動画編集や音楽制作、イラスト制作、3Dモデリング制作など、負荷の高いクリエイティブ作業にも対応できる性能を搭載している。
「そのうちデスクトップPCのEndeavor SG150は、より高い処理能力が必要となる作業や、安定した動作が求められる作業に向いていると思います。実際、大型ディスプレイやペンタブレット、MIDIキーボードなどのDTM機器、3Dプリンターなどの周辺機器と組み合わせて、集中して創作活動に取り組む場面で活用されていることが多いですね」(山上氏)
Endeavor SG150は容積約2.8Lと非常にコンパクトな筐体を採用しながら、グラフィックスボードを搭載できる拡張性の高さも大きな特徴。未来共創空間に導入された端末にも、3DCG制作や動画編集などで威力を発揮するNVIDIA GeForce RTX 40シリーズが搭載されている。
「子どもたちの机はスペースが限られているうえ、紙の資料やノート、書籍などを並べて作業することもよくあります。しかし、Endeavor SG150のように場所をとらないコンパクトなPCなら、机上の作業スペースをより広く確保できます。それは間接的に子どもの学びの“質”にも影響してきます。またタワー型のように足元に置いて使うタイプだと、意図せず倒して事故につながるリスクもあるので、その意味でも安心です」(柳田氏)
一方、ノートPCのEndeavor NJ8000Eは、持ち運べるという利点を活かしてグループワークやプロジェクト活動、ワークショップなど、場所を移動しながら複数人で作業する場面で活躍しているという。
「調べものや3Dモデリングなど、作業場所を自由に選んで作業したい場合にもノート型が活躍しています。現場では、生徒が自分のやりたいことに合わせてこれらのPCを使い分けている様子がとても印象的でした」(山上氏)
渋谷区が考える、これからの“教育”とは
ここまで見てきたように、渋谷区では子どもたちの主体的な“学び”を育むために先進的なICT環境を整備した未来共創空間という“場”を用意し、“探究「シブヤ未来科」”という取り組みを実施している。その新しい“学び”のスタイルは、国内だけでなく海外からも注目を集めており、遠くはブラジルの教育機関から視察が来たこともあるそうだ。
「こうした私たちの取り組みは、文部科学省の次期学習指導要領に向けた審議会でも参考資料として取り上げられているようです。ぜひ他の自治体の方にも参考にしてもらい、ご意見をいただければ嬉しいですね。私たちのほかにも面白い取り組みを行っている学校はあるので、我々もさまざまな自治体とコミュニケーションを取りながら学んでいきたいと考えています」(柳田氏)
2024年度にスタートして1年半余りが経つ「シブヤ未来科」だが、まだまだ課題は少なくないという。
「まずは子どもたちが学校に通うのが楽しくなるような環境作りを推進したいと考えています。渋谷区は不登校の生徒が多いので、そうした児童が登校して楽しく過ごせるような、同時に先生たちも楽しく働くことができる環境を行政の立場で作っていきたい。それを実現するひとつの手段が探究学習やICT機器であり、子どもが主体となって学んだり行動したりできる学校作りでもあります」(柳田氏)
探究「シブヤ未来科」の取り組みを通して、その明るい兆しは見え始めているという。
「生徒たちにアンケートを実施したところ、シブヤ未来科が楽しいと回答した子どもは実に97%に上りました。不登校の生徒の中には、シブヤ未来科をきっかけに学校に来られるようになったという子どももいると聞きます。勉強は苦手だけれど音楽や動画編集は好きだという生徒も結構いるので、シブヤ未来科をさらに発展させて、そういった子どもたちの居場所にもなるような環境を作っていけたらと思います」(柳田氏)
それには、教員が失敗を恐れずのびのびチャレンジできるような環境も大切になってくる。
「教育委員会の関係者も、チャレンジする先生たちを“失敗は失敗じゃない”というマインドで支えていただければ。先生たちが楽しく働ければ、子どもたちも幸せになれる。そういった教育現場の環境づくりを自治体の枠にとらわれず一緒に実現していけたら嬉しいですね」(柳田氏)
シブヤ未来科で導入されている製品
エプソンダイレクト
「Endeavor SG150」
容積約2.8ℓのコンパクトな筐体にグラフィックスボードが搭載可能な高性能デスクトップパソコン
エプソンダイレクト
「Endeavor NJ8000E」
進化したテクノロジーを凝縮し高性能と安定性を両立した16型WQXGAのハイスペックノートPC
[PR]提供:エプソンダイレクト













